21話 吸血鬼は外に出たいようです (前半)
ダンジョンに挑むためには『探索者ライセンス』を獲得する必要がある。獲得条件は役所に行き手続きをし、適性試験に合格するだけだ。適性試験といっても、ある程度動ける――ウルフと十分に渡り合える――ことを示せば合格できる。
空も休日に役所に行き手続きを済ませ、難なく適性試験に合格した。ダンジョンマスターである空はDPをつぎ込めばいくらでも強くなり、現段階では空より強い者は原初の吸血鬼のノッテだけだ。空が試験で不覚を取るのは有り得ない。
さて、無事にライセンスを獲得しダンジョンに挑めるようになった空は、果たして本当に誠司達と共にダンジョンに挑むのだろうか――無論めんどくさいの理由でするわけがない。
しかしながら、空が行くと言った以上ダンジョンに挑むことになるのだが、空は行く気が全くない。それでは空が行かないのなら誰が行くのか?
答えは、空が花火大会に行った前日に召喚したAランクの魔物『ドッペルゲンガー』だ。
ドッペルゲンガーは『嘘の虚像』と言う固有スキルを持ち、相手のユニークスキル以外全てをコピーすると言ったスキルだ。相手の記憶と容姿、種属、スキル、などなど全てをコピーして自身をコピーしたものに変化させる。
このスキルを使ってドッペルゲンガーを空に変化させて、ダンジョンに誠司達と行動させようと空は思っている。
空の種属自体は人間なので、どうなるのか実験として一度ドッペルゲンガーを空に変化させて見ると、ダンジョンマスターでないただの人間の空の状態にドッペルゲンガーは変化した。その状態ならばステータスも問題なく得ることが出来るであろうし、空が所得している大量のスキルとレベルは受け継がれて居ないので困ったことにならない。
かくして空身代わり作戦が成功したのであった。今頃はドッペルゲンガーこと『ルガー』が誠司達と共にダンジョンに初挑戦していることだろう。空はあまり興味がないので『危険になったら知らせろ』と命令を出し、遠くにいる者とでも話が出来る『通信』のスキルをルガーに与えていた。
空は問題らしい問題がなくなり、暖かいコタツに入りながらホッと一息ついている。しかし悲しいかな、問題は突然にやって来るものだ。
「マスター! 妾もダンジョンに行きたいのだ! あの黒いのは行っているのに何で妾は行ってはいけないのだ!」
神戸ダンジョンにいるはずのノッテが空の快適空間である千葉ダンジョンのマスタールームに連絡なしに転移し、空に詰め寄ってきた。
「ノッテ落ち着け……お前はいつもそうだな。はぁ、ノッテとルガーとでは強さが段違いだろ? それに、ドッペルゲンガーは人に変化するとダンジョンの制約がなくなるんだよ」
空が誠司達にダンジョンに行きたいと言い出したのは、まさにドッペルゲンガーのその特性ゆえだ。人間に変化していれば、魔物に対するダンジョンルールを守らなくても良い。便利を通り越してチートレベルだ。階層にあったレベル、階層1つにつき魔物は5種類まで、魔物の意思では外に出れない、これら全て人に擬態したルガーは守らなくて良い。
よって、面白そうだからという理由で空はルガーを使いたくなってしまったのだ。
「ずるいのだずるいのだ! 妾も暴れたい!」
「……ルガーは暴れに行かせてるんじゃなくてだな、俺の代わりにあいつらと一緒にいてもらってるだけだから」
「ずるいのだずるいのだ!」
「はぁ……」
深くため息をつく空。そもそもノッテがこうやって駄々をこねるのは実はこれが初めてではない。ちょくちょく神戸から空の元に来ては暴れたい、外に行ってみたいと抗議してくる。
まずノッテをダンジョン内に放つのは選択肢としてない。理由は言わずもがなで、下手をすれば探索者を皆殺しにしかねないからだ。ノッテの言う『暴れたい』は『探索者を殺したい』と言うことだからだ。
そしてノッテを外に出す。これはもうしばらくすれば良い、と空は思っている。もしノッテが人を襲い出したとして、まず今の空では止めようがないものの、もうすぐノッテレベルまで空は強くなれるためノッテが暴走したとしても止められるからだ。
「4月まで待ってくれないか? それなら外に出してあげられるんだけど……条件付きで」
「嫌なのだ! 早く行きたいのだ!」
「んー……。絶対に外で暴れない?」
「暴れないのだ!」
「人を見ても襲わない?」
「襲わないのだ!」
「……約束な? 破ったらお仕置きだからな?」
「分かったのだ。早く早く!」
仕方がない……と空はうな垂れ、ノッテに『ダンジョンの外に出ろ』と命じる。
ノッテはその場からダンジョン入り口近くの広間に転移し、空も『変装』のスキルを使い容姿を変えてから広間に転移した。
***
「うっわ……ゴミだらけ……。一掃したいけどDPのためだ、仕方ない……」
人で賑わう広間を腐ったような目で見る空。入り口すぐの広間は魔物が入ってこない、発生しない安全空間なので、探索者の向けの店が並んでいた。また、自衛隊の拠点は撤去されている。
それはひとまず置いといて先に来たはずのノッテを空は探す。
空は人だかりをスキルを使用しながらぐるっと見渡し、売店で売っている食べ物の匂いにつられてフラフラしているノッテを見つけた。
「ノッテ! 勝手にウロウロするな! お前は何をしでかすかも分かったもんじゃないからな」
「はぅ、良い匂いなのだ……うん? マスターか、お主が遅いのでな仕方ないのだ。? なんだかマスターから妙な気が出てるのだ」
「は? 妙な気? ごまかす気か? ……あぁそうか、今俺は『変装』を使っているからなお前にはそういうのは効かないだろ」
「うむ、妾だからの!」
誇らしげに無い胸を張る原初の吸血鬼は複数の魔眼系スキルを持っており、その内の1つに真実を見通す効果のものがあるので、空の姿は変わりないものにノッテは見えている。
「っと、そうじゃなくて……早く外に行きたいのだ!」
「はいはい、めんどくさいなぁ……休日くらい引きこもりたい」
平日問わずこれからは引きこもろうと計画している空だが、今はノッテに手を引かれダンジョンの外に出た。
***
外に出たノッテは見るもの全てが新鮮なのか、ずっとキョロキョロしておりキラキラと目が輝いる。人だかりを見ては「殺して良いか?」高いビルを見たときは「壊して良いか?」行き交う車を見たときは「妾も乗りたいのだ!」とテンション高くはしゃいで居た。
物騒なことを延々と言うノッテを、空は沢山の店が詰まったショッピングモールに連れて行った。
ショッピングモールは外の世界を知らないノッテにはおもちゃ箱のようなものであり、子供のようにはしゃぐ彼女は見た目も相待って周りからとても微笑ましい目で見られていた。
目を離した瞬間に、色とりどりのケーキが並べられたガラスケースにノッテがいつのまにかへばりついていて、空がそれを見つけたときは顔から火が出るほど恥ずかしい思いをしながらケーキを十数個買ったりした。
散々振り回された空はレベルが高いため肉体的には披露していないが、精神的にはどっと疲れてしまい、フードコーナの一席でだらっとだれている。
「うむ、このたこ焼きもラーメンとやらも美味しいな! なあマスター! 次はあれを食べて見たいのだ! ほれ、4席右隣のラーメンより太い白い麺のやつ!」
「……あぁ、うどんね。ノッテ、あれはうどんだ」
「うどん……うむ、うどんが食べたいのだ!」
「な、なあノッテ? そろそろ帰ろうじゃないか。明日また連れて来てやるから、もう帰って寝よう」
「しかしのう……まだ食べたいものはいっぱいあるのだ。我慢できないのだ……だけどお願いを聞いてくれたらそれで良いのだ!」
「お願い? ……まぁ、無理なものじゃなきゃ良いぞ」
「本当か! 妾の願いはな――」
空はそれを聞き「却下」と言おうとしたが、少し考えて「これでいいなら良いぞ」と条件のもとノッテに告げた。それを聞いたノッテは外に出た時よりも、モール内を探索していた時よりも、気分を高揚さていた。
それを見た空は、ふとあることを思い出していた。ガチャで出てくる魔人系は少なからずマスターの影響を受ける、と。
ノッテの『それ』がマスターである空の『それ』では完全にでは無いものの、主人とその配下は似るものなんだなと、空はそんな事を考えるが、どうでも良いかと頭の片隅に消えて行くのであった。




