20話 何気ない休日 (後半)
花を見て『美しい』と思うのはどのタイミングなのだろうか? 咲く一歩手前? それとも咲いた瞬間? 満開の時かもしれないし、散っていく時かもしてない。大穴で、散った後というのもあるだろう? あるはずだ。
散っていく時こそ花は最も美しくなる瞬間だと空は思っている。美しく咲き誇った花が枯れていく様――言い換えれば死んでいく様、それは儚さと侘しさが織り交ぜられているが、その『儚さ』と『侘しさ』に空は魅了される。
花は力一杯美しく咲いた後、ひっそりと散りゆく。確かに咲き誇った花は美しい、ただそれよりも、なによりも咲いた証として散る花に言葉では言い表せらせないほどの魅力を空は感じる。
美しさの中に織り交ぜられた儚さ、それに人は魅了されるのではないだろうか。証拠に空自身も大好きな花火大会。空高く打ち上がり、美しく咲き、そして夜の海に散る。あぁなんとも美しいではないか……、空は次々と上がる大輪の花を見上げそう思う。
「綺麗だな」
「そうね……誠司」
「冬、のも……なかなか……乙……」
ふと右隣にいる誠司と実里、左隣にいる睦月を空は見やる。
(こいつらは探索者になった。……ダンジョンは手順を踏めばある程度は安全。それでも『ある程度』だ。もしレベルが十分じゃない時に魔物に囲まれでもしたら詰むし、第六階層からは罠が出てくる……運が悪いと罠にかかっている間に襲われるかもしれない……。回復魔法とか回復アイテムがあれば怪我をしても安心できるが、まだこいつらはどちらも持っていない……)
ダンジョンではほんの少しの油断が命取りになる。誠司達はそれが分かっているようで分かっていない。空はダンジョン内での三人をよく知っているからこそそう思える。
警戒は常にしている。油断もほぼしていない。空が与えたアイテムも有効活用している。それらを聞けば彼らは実にいいパーティだと思えるが、致命的に足りないものがあった。
それは危機感だ。遊び感覚ではないのではあろうが、『ダンジョンは安全だ』『死ぬ訳がない』と心の片隅、本人達の自覚していないところでそう思ってしまっている。
それは非常に危険なことだ。本当に危機になった時、果たして彼らは正常に行動できるのであろうか、いや出来ないと空は確信を持っている。
しばらくは危機的状況になんて彼らは陥らない。そもそも第三十階層程度まではチュートリアルといっても構わないほどの難易度なのだから。証拠に第三十階層まではボスモンスターを除き各階層に一種類のみモンスターを常設しているのだから。
対策も簡単、フィールド型なので見通しもまあまあいい、そもそも魔物が強くない、罠も即死級のものは絶対にない。徐々に慣れていけば誰だって第三十階層まではたどり着ける。
そこからがダンジョンは本番となる。多種多様な魔物、魔物に有利な地形、罠も強力な物になっている。お遊び感覚ではすぐに足を取られてDPとなるのがオチだ。
「ねぇねぇ空! 来てよかったでしょ! すっごく綺麗!」
「そうだな、綺麗だ……」
「珍しいな」
「空、素直……珍しい……」
「花火は好きなんだよ。それに俺はいつでも素直だ」
素直な性格の空は三人にダンジョンに行って欲しくない、とは言えないでいた。このままではいつ死ぬか分からない。それになんとも言えない嫌な予感が彼等からは漂ってくる。空がこう感じた時必ずと言っていいほど良くないことが起こっている。それもかなり良くないことだ。
三人の内の誰かが、もしくは全員が死ぬ。それはそれでどんな最後を――どれだけ美しい姿を見せてくれるのか、空に興味が無いわけではない。しかし空は三人のことが嫌いではない。嫌いではないとそう空が思えるのは彼等だけだ。最近ノッテも追加されはしたが……。
心地よく思える空間を失うのは惜しいと確かに空は思える。だからなのだろうか、空は思ってもいないことが口から出てしまうのは仕方のないこと……だ。
「なぁ……聞いてくれるか?」
「なんだよ、急に改まって……」
「そ、そうよ、らしくないじゃない……」
「今日の……空、おかしい……」
空が急に改まった声で話しかけて来たので一体何事か、と身構える三人。
彼等に御構い無しで空は一言呟く。
「俺もダンジョンに行く」
空の口から紡がれた言葉に三人は唖然、驚愕する。
それも仕方がない、彼等の知っている空は、人の死に酷く……酷く恐怖を抱いてしまう、そんな青年だ。時間が経ち、それもなくなったものだと思っていた三人だが、夏休み空は探索者になるのを拒み、まだダメなものとばかり思っていたのだから。
未だに空の言葉に三人は戸惑っている中、実里がなんとか叫ぶ。
「だ、ダンジョンって! 空、何を言ってるの⁉︎ ダメなんじゃないの⁉︎」
「それはそうだけどさ……」
「だったら――」
「無理してとか、俺だけ探索者じゃないからとかではない」
「それじゃ――」
「ただお前らに俺の知らないところで死んで欲しくないんだよ……今すっごく嫌な予感がしてる。中学ん時と同じくらいのさ……。きっとお前らは近いうちにものすごく危険な目――いや、死んでしまうんだなって思う。思えてしまう……」
「空……」
「今俺が探索者になってお前らと一緒にダンジョンに行くとして、しばらくは俺のせいで第一階層に挑むことになると思う。お前らにとっては都合が悪いだろうが、俺にとっては都合がいい」
空の独白を聞く三人は言葉も出ない様子。言いたいことはあるが何をどうやって言葉にすれば分からない、そんな表情をしている。
「第一階層ならお前らはそうそう危険な状態にはならないと思う、俺という護衛対象もいるから注意力も高まるだろうさ」
「でも……」
「もしお前らがダンジョン内で絶滅したとして、外に一人残された俺はどうすれば良い? そもそも俺には信頼を置ける相手なんてお前らくらいしかいないんだぞ? 一人になるなんてもう嫌なんだよ……だからせめてその時は――」
「空! それ以上は言わないで!」
「ご、ごめん実里……」
軽くトラウマスイッチの入った空を胸下を掴み、それ以上の言葉を言わせないように止める実里。今の空はとても危うく見え、ともすれば昔みたいに戻ってしまうんじゃないか、と実里の不安は積もるばかりだ。このまま死んでしまいそうだ、と。
「……ごめん。でもさ、それでもさ嫌なんだよ……知らないところでとか、気付かないうちにとかさ、来るはずの明日が……お前らのいない明日が来ないのが本当に嫌なんだ……」
「空……良いのか? 前はかなり嫌がってただろ? 探索者になるのを」
「そうだよ……大丈夫なの?」
「うん、今日お前らに会って、遊んで、話して、それで決めたからさ」
「……良い。私は、良いと……思う……」
「睦月……」
「博士……」
睦月は答えが出ていたのか悩まずに答え、誠司と実里は答えが出ないようだ。
しかし、二人も睦月の言葉を受け、答えが出たようだ。
「わかった。空が良いなら俺は何も言わない。きっとそれが一番良いんだろうな」
「私もそう思う。それにウルフなら何回も倒してるし、空がいても大丈夫だよ」
「だい、じょうぶ。空は…………守る」
「ありがとう……よろしく頼む……」
空は三人に頭を下げる。
「あ、ああもう! そんなことしてないでさ! 今は花火を楽しもうよ!」
「そうだぞ空、ほら見てみろよ! すっごく綺麗だ」
「空、水臭い……悩み……なんでも、相談……ね?」
「……そう、だな。それが良いな……」
空は花火を見るために下げていた頭をあげた。
夜空に打ち上がる大輪の花火を見て『やっぱり打ち上げ花火は近くで見るのが一番だな』と思う空であった。
また、空は花火が終わり会場から家に帰るその時間が何よりも好きなので、今からワクワクしてたまらないのであった。




