第一九話 天敵
闇の中からこちらを睨む、正体不明の魔物。
その全貌は見えない。
暗視能力には視界限界があって、遠い場所ほど闇が濃くなり見えなくなるからだ。
状況的に、先ほどの妙な現象はあいつが引き起こしたのか?
しかしあんな遠くからどうやって。
目測だが、直線距離にして50mは離れているぞ。
魔法、あるいは何かの特殊攻撃だろうか。
いずれにせよ、奴のステータスを確認してみるしかない。
だが【悪魔の目】、この距離で使えるか?
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《種族》魔獣種・ラーヴァバジリスク
《名称》-
《性別》♀
《年齢》4
《状態》良好
《能力》
Lv:23/34
HP:2010/2010
MP:1824/1940
筋力:229
耐久:201
敏捷:253
精神:162
魔力:194
カルマ:-35
ランク:☆☆☆☆
固有スキル:
派生スキル:
種族スキル:
【毒血】【毒腺】【四肢再生(小)】
【強力消化】【治癒阻害唾液】【硬鱗(弱)】
【超嗅覚】【暗視】
技能スキル:
攻撃スキル:
【噛みつき:Lv5】【毒牙:Lv7】【体当たり:Lv4】
【薙ぎ払い(尾):Lv3】【スパイラルバイト:Lv2】
防御スキル:
【機動回避:Lv3】
特殊スキル:
【凍魔眼:Lv3】【迷彩潜伏:Lv4】【気殺隠行:Lv3】
魔法スキル:
耐性スキル:
【毒耐性:Lv7】【猛毒耐性:Lv2】【石化耐性:Lv4】
【物理耐性(打):Lv2】【物理耐性(斬):Lv1】【麻痺耐性:Lv1】
一般スキル:
【穴掘り:Lv1】【岩掘:Lv2】【待ち伏せ:Lv4】
【隠れ身:Lv3】【壁走り:Lv3】
称号:
【闇夜の捕食者】
説明:蜥蜴の王と呼ばれるバジリスク種の幼生体。
進化では発生しない種のため、比較的レベルが低い場合が多い。
体は小さくとも、高い身体能力と強い毒性を備えている。
幼生体のため、バジリスク種最大の武器である石化の視線は使用できない。
しかし、代わりに幼生体時代にしか使えない魔力封じの魔眼をもつ。
その特性上、魔法や魔法的技能を主力とする者にとっては天敵とも言える存在である。
性格は非常に獰猛。しかしその一方で、相手の強さや様子を窺う慎重さや狡猾さも併せ持つ。
同族と認識する範囲が広く、大抵の蜥蜴型魔獣と協調、あるいは従える。
基本肉食で、特に毒性をもつ生物の生肉が好み。
少量だが石や岩も食べる。
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んなっ……バジリスク……だと……?
思わずごくりと唾を飲む。
あれはちょっとシャレにならない。
スペック差もあるが、何より【凍魔眼:Lv3】のスキルがやばい。
種族説明にも書いてあるが、俺みたいな魔法特化型の天敵スキルじゃないか。
先ほどの墜落事故の原因もそれだな。
間違いない。
ただ、奴が魔眼を使用したのは俺を墜落させる為ではないだろう。
そもそも一目見ただけで俺が魔力で飛んでいると気付けるほど、奴が賢いとは思えんし。
まあ、おそらくはトカゲの止めに使おうとした攻撃魔法の妨害が目的だったのだろう。
そうでなければあんな遠距離から使う理由がない。
むしろ敵に見つかるというデメリットしかなかった。
状況的に見て、動機は同族を助ける為だろうな。
邪悪な魔物のくせになかなか仲間思いな奴だ。
でもそのおかげで奴の存在に気付けたのは僥倖だった。
ここは距離があるうちに撤退しよう。
勝ち目が全くないとは思わない。だが、あえて分の悪い勝負を挑む必要もないからな。
勇気と無謀を履き違えてはならない。
元勇者だからこそ、俺はそれを誰よりもよく弁えていた。
そうして退却の意思をイリルに伝えようとしたところで、俺はある事に気付いてしまった。
……あの倒れてるコボルトシャーマン、生きてないか?
微妙に全身が小さく震えているような。
血色もそう悪くなく、死者のようには見えないし。
いかにも怪しい。
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《種族》妖魔種・コボルトシャーマン
《名称》キスハ
《状態》良好
《能力》
Lv:16/27
HP:1030/1030
MP:368/1410
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確認してみると、やっぱり生きてた。
しかも状態からして目も覚めてる。
HPが回復してるのは、精霊魔法で自分を癒したのだろう。
なのに倒れたまま動かないって事は……死んだふりか?
【死んだふり:Lv1】も持ってるし、多分そうだろう。
しかし何のために……って、考えるまでもないか。
恐怖ゆえ、だな。
ガタガタと体が震えてるのが何よりの証拠だ。
恐怖の対象はまぁ、俺だろう。
バジリスクに、という可能性もないではないが、倒れたままの状態で遠くにいる奴に気付いているとは思えんし。
だが困ったな。
コイツが生きてるとなると、撤退する=見捨てる、になる。
俺がいなくなった後、バジリスクがコイツを見逃す、あるいは気付かないままでいるとは思えんしなあ。
仮にやり過ごせても、コイツ一人で果たして仲間の所まで戻れるのかという問題もある。
俺にはコイツを助けてやる義理なんてないが、知ってて見捨てるというのは寝覚めが悪い。
かといってコイツを連れてバジリスクから逃げるのはまず無理だ。
飛べる俺やイリルはともかく、コイツの場合は走って逃げるしかないからな。
敏捷差がありすぎてすぐに追いつかれるだろう。
はぁ……仕方ない。
ここは腹をくくってバジリスクと戦うしかない、か。
まったく、つくづく甘いな、俺。
そう決意した俺は、イリルに思念で命令を送る。
内容は〝これから行う戦闘に手を出すな〟だ。
イリルの耐久力だと、バジリスクの攻撃が掠っただけでも致命傷になりかねないからな。
耐久力の貧弱さでは俺も似たようなものだが、俺には【プロテア:Lv1】の魔法がある。
魔法力が高い分、耐久力をかなり向上させられるはず。
俺は空を飛んで自分からバジリスクのいる方へと近づく。
戦場を遠ざけ、死んだふりを続けているシャーマンを巻き込まないためだ。
それとバジリスクの注意と敵意を俺に集中させる為でもある。
そういう意味では、いまだ死んでないトカゲに止めを刺した方がより効果的な挑発になると思うが……
怒らせすぎて手当たり次第に暴れられても困るしな。
今は止めておこう。
ある程度進んだところで俺は地上に降りた。
さっきみたいに空中で魔眼を食らうと、戦闘において致命的な隙を晒す事になりかねないからだ。
それともう一つ。
俺はコボルトの屍の近くに落ちていた短剣を拾う。
近接戦をやる以上、武器は必須だからな。
右手で短剣を持って軽く振るうが、ほとんど重さを感じない。
まあ数値的には一般人の14倍の筋力があるのだから当然だが。
それに人種の幼児程度の体格しかない俺にとって、長さ的にもちょうど良い。
俺の一連の行動を敵対行動と見なしたのだろう。
闇の中からじっとこちらの様子を窺っていた金色の瞳がついに動き出した。
のっそりとした歩みで通路の奥から出てくるバジリスク。
ようやく目にしたその体躯は、想像していたより小さかった。
体高約1m、体長3m超ってところか。
全体的なシルエットは普通のトカゲをそのまま大きくした感じだ。
ただ外見的な特徴として、頭に小さなトサカが生えていた。
また、体の表面が蛇のものと似た薄い鱗で覆われている。
種族スキルにわざわざ【硬鱗(弱)】などと明記されてるくらいだから、多少の防御力はあるのだろう。
バジリスクは俺より何倍も大きく、身体能力も隔絶している。
そんな強敵を相手に近接格闘で戦わざるを得ない。
魔物同士の戦いの常識で言えば勝ち目などないに等しいだろう。
だが俺は人間だ。
身体能力の優劣など、智慧と技術と経験で埋めてみせる。




