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第一八話 異種族コミュニケーションは難しい


 蝙蝠共はあらかた片付いた。

 まだ二匹ほど生存しているが、イリルが倒すだろう。

 だから次に俺が相手にすべきは、地上の連中だ。


 空中の高みから眼下を一望する。

 先の【金切り声:Lv2】のせいか、地上もカオス状態と化していた。


 トカゲは混乱しているのか、コボルトの一体を追い回している。

 いや、あれはあえて囮となって引き付けているのか?

 どちらも様子が必死すぎてわからん。


 ムカデは半数が右往左往。

 残り半数のうち二匹はお互い絡みあっての団子状態。

 何をしてるのかと思えば、お互いが牙を突き立てあっている。

 おそらく混乱状態に陥って同士討ちに及んだのだろう。

 残り一匹は状態異常を受けてないのか、先に倒れたコボルトの死骸に取り付き、我関せずで貪っている。


 一方、コボルト側は……

 ファイターが必死な表情で二体のコボルトに話しかけている。

 あっ、俺を指差した。

 つられて俺がそちらに視線を向けると、ビクッと身動ぎして尻尾を股に挟み込む。

 そのまるで犬のような仕草に、ちょっと和んだ。


 どうやらコボルトたちは俺に恐怖を抱いているようだ。

 無理もないか。

 俺とイリルが登場した途端、あっという間に蝙蝠共が壊滅したからな。

 次は自分たちの番だと考えるのは当然だ。


 実際、最初はコボルトたちも倒すつもりだったが、今は違う。

 コボルトが仲間を庇ったり、さっきみたいに和む仕草を見て考えを変えた。

 だってあいつら、魔物のくせに妙に人間臭いんだ。

 そのせいで倒す気が失せた。


 俺はコボルトたちの味方だという事を示そうと、行動に出る。

 都合四度目の【マナボルト:Lv2】をムカデ共に撃ち込んだ。


《敵対者を討伐しました(x5)。経験値268を獲得しました》


 む、一匹討ち漏らしたか。

 同士討ちしていた二匹のうち片方が生き残った。

 うまい具合にもう片方の個体が盾になったようだな。

 狙いが適当すぎたか。

 まあ体が半分に千切れかけるほどのダメージを受けたようだから、ほっといても直に死ぬだろう。


《敵対者を討伐しました。経験値51を獲得しました》


 とか考えているうちに力尽きたか。

 苦しみが長引いただけ、結果的には不運な個体だったな。


 微かな憐憫の情を抱きつつ、コボルトたちを再度見やる。

 今の行動で俺が味方だと理解してくれ――

 

 なかった。

 次こそは自分たちの番だとでも思ったのか。

 コボルトたちは一斉に駆け出して、それぞれが別々の通路へと消えていく。

 分散して逃げれば狙われた個体以外助かる、とでも考えたのかもしれない。

 こっちは攻撃するつもり自体がないって言うのに……

 異種族コミュニケーションは難しいな。

 ハァ。


 俺は内心でため息を吐きつつ、片手間に魔法を構成する。

 今回使うのは【イグニスフィア:Lv3】。

 俺の頭上に三つの火球が生成される。


 ちなみに魔法の完成までかかった時間は約三秒。

 火球一つにつき一秒で生成できる計算だ。

 精神値の向上によって魔法構成速度が上がってるのを実感する。


 俺は生成した火球全てを、コボルトを追っかけるのに夢中なトカゲの背中に撃ち込んだ。


「ロロロロォォォォーーーンッ!!」


 トカゲの悲鳴が響き、その巨体が業火に包まれた。

 熱さに耐えかねてか、トカゲがゴロゴロと地面を転げ回る。


 その間に追われていたコボルトは通路の方へと走り去っていく。

 ちなみにトカゲの鳴き声を聞いて背後をチラ見した次の瞬間、走るスピードがグンと上がった。

 つまり、それまでは全力疾走じゃなかったわけだ。

 やはりトカゲを引き付けていただけだったか。

 もうその必要はないから、無事に逃げろよ。


 視線を戻すと、ようやくトカゲが炎を消し止めたところだった。

 まさか【イグニスフィア:Lv3】の直撃を受けてなお生存とは。

 さすがの耐久力と言うべきか。

 いやでも、かなりぐったりしているな。


=====================================

《種族》魔獣種・ヘビーロックリザード

《名称》-

《状態》火傷(重)

《能力》

Lv:20/25

HP:321/2450

MP:1140/1140

=====================================


 どうやら瀕死のようだ。

 これならもう、ろくに戦えまい。

 すぐに止めを刺すべきか。


 いや、ここから回復させてやればイリルの時のように仲間になったりするかな?

 そうすれば相当心強い味方が増えるが……


 ……いや、やはりそれは止めとこう。

 リスクが高すぎる。

 回復しようと近づいた所で反撃されて即死、なんて事が普通にあり得そうだ。

 そもそもコイツは本来、俺より格上の魔物。

 とても屈服するとは思えんし、マッチポンプ救助では懐く事もないだろう。


 やはり倒すしかない。

 ならせめてこの機会をより有効活用すべきだな。

 イリルにも攻撃させよう。


 という訳で、イリルに【シャドゥーム:Lv1】を使わせる事にした。

 なお蝙蝠の残党はイリルの手によってとっくに全滅している。


 魔法が使用され、生命力減衰の闇がトカゲの全身を包み込む。


 多分だが、イリルの魔力値とトカゲの残HP的に一度で倒しきる事はできないだろう。

 トカゲに対しては少々残酷だが、死ぬまで二度三度と【シャドゥーム:Lv1】を展開させるしかないだろうな。


 などと考えているうちに【シャドゥーム:Lv1】の効果が切れる。

 持続時間は体感で約二十秒ってところか。

 これでトカゲのHPはどれくらい削れたかな?


=====================================

《種族》魔獣種・ヘビーロックリザード

《名称》-

《状態》火傷(重)

《能力》

Lv:20/25

HP:284/2450

MP:1140/1140

=====================================


 ……30ちょっとしか減ってないな。

 というかこれ、火傷の状態異常による持続ダメージの分を抜いたらほとんど減らしてない気がする。

 下手したら一桁ダメージの可能性まであるな。


 これではさすがにMPがもったいない。

 俺が手を下そう。

 そう思って【イグニスフィア:Lv3】を使おうとしたとき。


 ゾクリ、と背筋に強烈な悪寒が走る。

 と同時に、いきなり全身の魔力の流れが止まった。


キィッ(んなっ)!?」


 驚く暇もあればこそ。

 突然俺の体は浮力を失い、重力に引かれて墜落した。

 それでも何とか空中で姿勢を変え、両手両足を使って着地する。


 あ、危なかった……

 着地に失敗しても死にはしなかっただろうが、それなりの痛手を受けた上に衝撃でスタンしたかもしれない。

 少し前に戦ったラークセンチピードの末路が脳裏を過ぎる。

 あんなマヌケな死に方はごめんだ。


 それよりも一体、何が起きた?

 いきなり魔力が操れなくなって……あ、今は普通に動かせるな。


 確認のため少しばかり背中の翼に魔力を流す。

 すると【魔翼飛行】が発動して僅かに体が浮いた。

 そのまま恐る恐るの心境で4mほどの高度まで上昇する。

 また落下するかもしれないが、ずっと地上にいるよりは安全だ。


 少し落ち着けたところで、先ほどの現象について考える。


 ごく短時間だが、魔力がまるで凍りついたように動かなくなった。

 そのため魔力供給が止まって【魔翼飛行】の機能が停止。

 結果、墜落した。

 推測するにそんな感じだろう。


 問題は、魔力凍結減少とでも言うべき事態がどうして起こったか、である。

 まあ直前に感じた悪寒の件といい、大体の察しはつくが。


 確信に近い思いを抱いて周囲を見渡し、異常を探す。

 すると最も遠い位置にある通路の奥に、炯々と光る金色の双眸を発見した。

 まず間違いなく魔物のものだろう。


 次から次へとよくもまあ……

 新たな厄介事の到来に、俺はうんざりしつつも警戒心を高めた。


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