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第一二話 新たな魔法


 結局、コボルト戦から数時間はすぎた現在までに、広間へ侵入してくる魔物はいなかった。意外な事に。


 休息中ヒマだったのでその理由を考えてみたが、〝死〟の臭いが強すぎて逆に警戒されたのでは、という結論に落ち着いた。

 一体二体の死骸ならともかく、大量の生々しい死骸があるという事は、それを為した凶悪な存在がそこにいると誰もが想像する。

 そんな危険地帯に好んで近づこうという者は、魔物であっても少ないのだろう。


 グラトニーラットなら見境なく侵入して来るかもしれないが、先ほど大量殲滅したばかりだしな。

 逃げた個体もいるが、流石にしばらくは近づかないだろう。


 なお俺とイリルの負傷はとっくに完治している。

 むろん【聖気治癒】を使って癒したのだ。

 負傷状態のせいで徐々にHPが減り続けていたから、治療にはちょっと時間がかかったが。

 完全回復してから一時間くらいでイリルも目を覚ました。


 それはそうと今、何をしているかというと。

 食事中である。


 食料になっているのはもちろん、グラトニーラット。

 焼死した死骸の中から、焼き加減がちょうど良さそうなのを選んで食べてみたのだが……


 はっきり言わなくても不味い。

 まぁ食用に耐えると言っても、血抜きもされてない肉が美味いわけないよな。

 それでも腹は膨れるから我慢して食べてるけど。


 ちなみに悪魔種は魔力を活動エネルギーにできるから、食事をする必要はあまりない。

 とはいえ全く不要という訳ではないので、食える時には食っておくべきなのだろう。


 イリルもイリルで、できれば食事は吸血の方が良いそうだ。

 だが死後数時間もすれば血は固まってるのでろくに吸えない。

 なので仕方なく固形物を食べている。

 消化不良になったりはしないので問題はないそうだが。


 うーん、焼き肉を食べてると喉が渇くな。

 食事が終わったら水属性魔法を練習しよう。

 理由は当然、飲料水確保のためだ。

 火と水属性の魔法は生きていく上で特に便利なのである。


 などと考え事しながら食べているうちに、すぐ満腹になった。

 今の俺は体格が小さいから、食える量も少ないのだろう。


 隣を見れば、イリルはまだ食事中だ。

 グラトニーラットの死骸に覆い被さるような体勢で、静かに肉を齧っている。


 こちらの事は気にせず食事を続けるようイリルへ念を送り、俺は立ち上がった。

 それから少しばかり歩いて広間の半ばまで移動する。

 これくらい離れれば、イリルにとばっちりが行く事はないだろう。


 それで何をするのかと言えば、もちろん魔法の練習である。

 飲料水の件以外にも、今後に備えて魔法のレパートリーを増やしておきたい。

 勇者時代に得た知識と経験を活かせば、習得にさほど時間はかからないだろうし。

 実際、【イグニスフィア】も一発習得できたしな。


 もっとも、習得が容易だからと無計画に魔法を覚えるわけにはいかない。

 なぜなら、個人が習得できる魔法数には限度があるからだ。

 具体的に言うと、ランク数の二乗が魔法習得可能枠となる。


 インプである俺はランク2だから、2×2で4枠しかない。

 ゆえに習得する魔法は慎重に選ばないと。


 とはいえ今後順調にランクアップ(進化)してゆけば枠も増える。

 そう考えれば、現時点であまり悩む必要はないのかもしれない。


 まあ時間がもったいないし、サクッと決めて練習を始めよう。

 まずは予定通り初級の水属性魔法からかな。




 練習を開始して30分ほどが過ぎ。

 俺の魔法習得の試みは難航していた。


 ――なんて事はなく。

 それどころか予想以上に順調に進んだ。

 どの魔法も1~3回程度試しただけであっさりスキル化できてしまったのだ。


 知識と経験は偉大なり、だな。

 あるいは魔力の扱いに長けた悪魔種だから、というのもあるかもしれない。


 そして今ほど、予定していた全魔法の習得が完了したところである。


 というわけで、現在のステータスはこんな感じだ。


=====================================

《種族》悪魔種・インプ

《名称》-

《性別》♂

《年齢》0

《状態》良好

《能力》

Lv:15/19+2

HP:700/700

MP:782/2530

筋力:92

耐久:70

敏捷:80

精神:166

魔力:253

カルマ:551

ランク:☆☆


固有スキル:

【聖闘気】【成長限界突破】【悪魔の品格:憤怒】


派生スキル:

【聖気治癒】【成長操作】


種族スキル:

【状態確認】【事象の声】【悪魔の目】

【魔翼飛行(遅)】


技能スキル:

【格闘:Lv1】


攻撃スキル:

【全力ひっかき:Lv3】


防御スキル:

【機動回避:Lv1】


特殊スキル:

【金切り声:Lv2】【以心伝心:Lv1】【血の契約・眷属化:Lv1】


魔法スキル:

【サイネス:Lv1】【ミーズ:Lv1】【ディグダス:Lv1】

【メディテート:Lv1】

【イグニスフィア:Lv2】【マナボルト:Lv1】【プロテア:Lv1】

【ルノーマ:Lv1】


耐性スキル:

【火耐性:Lv3】【聖耐性:Lv3】【魔耐性:Lv1】

【物理耐性(斬):Lv1】【痛覚耐性:Lv1】


一般スキル:


称号:

【慈悲の体現者】【小魔の主】


説明:悪魔種の最下層に位置する小悪魔。

滞留魔力が濃い場所において、強い怨念を宿した骸などを核として自然発生する。

戦闘能力は低いが、知能が高く狡猾なため、相対する場合は警戒が必要。

小型で可愛らしい外見のため、人族が使い魔にしているケースも多い。

=====================================


 今回覚えたのは下級属性魔法が3つと、生活魔法が3つ。

 元々覚えていたものと合わせて、習得魔法は合計8つになった。


 ちなみに生活魔法というのは、文字通り生活で多少役立つ程度の効果しかない一般人向けの魔法だ。

 言わば初級の属性魔法と言える。

 なのになぜか属性魔法とは別種扱いされており、魔法習得枠も別(※習得枠数は属性魔法と同じ計算)に用意されている。

 まあそのおかげで戦闘用魔法の枠を圧迫せず、生活魔法を複数習得できたわけだが。


 なお最近(・・)、習得した魔法の詳細は以下の通り。


=====================================

【サイネス:Lv1】生活魔法/無属性

説明:念動力。手を触れず物を動かせる。魔力のあるものには干渉しにくい。


【ミーズ:Lv1】生活魔法/水属性

説明:魔力を変換し、清浄な水を生み出す。


【ディグダス:Lv1】生活魔法/土属性

説明:土や岩を一瞬で一定量消滅させられる。ただし鉱石類は残る。


【メディテート:Lv1】信仰魔法/聖属性

説明:瞑想する事で魔法力(MP)の回復を早める。


【マナボルト:Lv1】下級属性魔法/無属性/攻撃

説明:魔力の矢を複数本、生成して放つ。着弾すると破裂して衝撃波を発生させる。


【プロテア:Lv1】下級属性魔法/無属性/補助

説明:肉体の組織結合力を高め、自身の物理防御力を向上させる。


【ルノーマ:Lv1】下級属性魔法/聖属性/回復

説明:毒や麻痺などの身体的状態異常を治療する。ただし重病、猛毒、石化は治療不可。


【ダークネスト:Lv1】下級属性魔法/闇属性/特殊

説明:広範囲の空間を闇で覆い、気配と光を完全に遮断する。暗視能力も無効化。闇の中では術者も視力を失うが、範囲内の存在を感じ取る事ができる。

=====================================


 【サイネス:Lv1】、これはLvアップ時に習得したものだ。

 念動力と言うと便利かつ強そうに思えるが、生活魔法だけあって攻撃性能は低い。

 魔法の説明文にあるように、魔力を持つ対象には効き難いからだ。

 とはいえ、圧倒的な魔力差があればその限りではない。

 特に悪魔種はこの魔法に長けており、勇者時代はしばしば手を焼かされた。


 【ミーズ:Lv1】は当然、飲料水確保のために覚えた。

 それ以外にも料理や洗浄など、用途は多岐にわたる。

 もちろん習得直後にはこれで水をガブ飲みした。

 イリルにも飲ませてやったらとても喜ばれた。


 【ディグダス:Lv1】はこの場所、岩窟という地形を鑑みて覚えた。

 飲料水ほど必要性や緊急性があるわけじゃないが、いざという時に役に立つだろう。

 ないとは思うが、岩盤崩れが起きて生き埋めになるとか怖いし。


 【メディテート:Lv1】、これは魔法を主力とする上で真っ先に覚えておきたかったものだ。

 睡眠という致命的な隙を晒すことなくMPの高速回復を計れるのは大きい。

 ただこれ、聖属性の魔法なんだよな……。

 なのに悪魔である俺が覚えて大丈夫なのかという懸念が若干あったりする。


 余談だが、他属性に較べ聖属性魔法はちょっと特殊である。

 なぜ特殊なのか。

 それは魔法を操る技量以外にも、神への信仰心が魔法習得の際に必要とされるからだ。

 そのため、聖属性魔法は別名《信仰魔法》とも呼ばれている。


 【マナボルト:Lv1】は、【イグニスフィア:Lv2】以外の魔法攻撃手段確保が目的で覚えた。

 威力は低めだが、無属性なのでどんな敵にも有効である。

 それに弾幕タイプだから、範囲攻撃とまではいかなくとも複数の敵に対応しやすい。


 【プロテア:Lv1】は、防御力補完のために覚えた。

 当たらなければどうという事はない、などと先般は嘯いたが、やはり多少の硬さは必要だ。

 先のコボルト戦で死にかけてそれを思い知った。

 いくら敏捷性に優れていても、奇襲や知覚外からの攻撃は避けられない場合がある。

 なのでせめて一撃で即死しない程度には頑丈であるべきだ。


 【ルノーマ:Lv1】、これは当然、状態異常の治療のためだ。

 他人に頼れない、薬なんかも手に入らない現状で、毒や麻痺を食らったら致命的だからな。

 回復手段は必須だ。


 【ダークネスト:Lv1】、こいつはイリルがいつの間にか習得していた魔法だ。

 Lvアップした際に覚えたのだろう。

 視覚的な効果は【シャドゥーム】と似ているが、こちらは戦闘補助魔法である。

 一見して地味な効果に思えるが、術者以外の視力を完全に奪うというのは案外凶悪である。

 索敵系スキルや能力を持ってない相手なら、ほぼ一方的に叩きのめす事も可能だろう。




 さてと。

 首尾よく魔法習得というミッションを終えたところで、休むか。

 またいつ何時、魔物がやってくるか分からない状況だ。

 体力と魔力はできるだけ万全に近づけておかないとな。


 まあ今度は【メディテート:Lv1】があるから、回復も早いだろう。

 もしくはイリルに見張りを頼んで仮眠するというのも手だ。


 食事を終えたイリルを伴い、俺は岩場の陰に戻った。

 腰を下ろし、硬い岩肌の上に胡坐をかいて座る。

 イリルもまた俺の隣でうつ伏せになり、身を落ち着けた。

 その様子を横目で確認してからスキルを使用する。

 

 ――【メディテート:Lv1】、発動。


 俺は目を閉じ、眠りとは違う無念無想の安らぎに身を委ねた。


拙作を読んでいただきありがとうございます。

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