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乾杯ヒトラー  作者: 37373
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第四話

1933年2月1日

 国会はまた解散され選挙となった。国社党が与党となってからの初めての選挙だ。当然突撃隊も選挙活動に協力する。今度は共産党と組むこともない。エァンストたちは意気揚々と街に繰り出した。

「くたばれアカ共、勝利は我々国社のものだ、突撃」

 社民党や共産党の集会に襲撃をかける。銃を撃ち礫を投げ拳で殴り大声で叫ぶ。褐色シャツの一団が威風堂々進軍し、敵の演説を怒号で掻き消した。

「くたばるのはお前らだ」

「出て行けファシスト」

 敵も当然抵抗し、最後は武装組織のぶつかり合いになる。喧騒の中に銃声が鳴り響き各所で赤い血が流れた。エァンストのすぐそばで銃弾に倒れた者もいた。死傷者は放置され、またすぐそばで殴り合いが始まる。

 やがて警察が来て次々とアカ共を連行していった。突撃隊には見向きもしない。今や警察もヒトラー首相に従っている。

「ははは、ざまあねえテロリスト共捕まってらあ」

「よーし俺らは真面目にポスター貼るぞ」

1933年2月27日

「お前らちょっと来い」

 中隊長がエァンストを含めて百人ほどの隊員を集めて酒場を出た。

「どこいくんですか?」

「警察署だ」

「俺たち逮捕っすか?」

「馬鹿言え逆だ逆、お前らが警察になって逮捕するんだ」

 連れて行かれた警察署ではやけに丁寧に案内され隊員たちは広場に並べられた。

「エァンスト・ファンハーゲン前へ」

 演説台から警察の偉そうな人に順々に呼ばれ白い腕章を渡される。そして皆の前で

「本日より補助警察として警察の指揮下で勤務します」

と宣言した。これでエァンストも国家権力の仲間入りだ。

 自らの左腕に巻いた白い腕章をじっと見つめる。やけにあっさりとしていた。これまで警察はエァンストたちを追い散らし時には逮捕する側だった。それが今では同じ側に立ち、共にアカを取り締まる。


「開けろ、ベルリンだ」

 最初の任務はアカの家宅捜索だ。周囲を補助警察で固め逃げ道を潰し、仲間の一人がドアを叩く。

「いい加減に開けろ」

「もういい、さっさと壊すぞ」

 突撃隊は喧嘩っ早い、正規警察の指示を待たずに鈍い音を立て戸を壊し中に突撃する。後ろの警官も特に止めはしなかった。

「おいはなせ」

「こら暴れるな」

 暴れる家主を数人で抑え、車両へと運ぶ。立派な警察の任務だ。

 酒場に帰って仲間に自慢すると、

「よし俺らもやるぞ」

 数人の隊員がそのまま飛び出して行った。

「あれいいのか?」

 ツィータが尋ねる。

「まあ流石に五人じゃなんもできないだろ」


1933年3月5日

 選挙結果が出た。国社党が勝利した。

 正式な任命も受けず、補助警察を気取る隊員がますます増え、地域のアカを次々と捕まえてくる。

「そいつどこ置く」

「地下でいいだろ」

「おい俺らの寝床はどうするんだ」

「今晩だけだよ」


 一人、また一人と連れ込まれるアカは増えてきた。叫ぶ者暴れる者絶望に顔を曇らせ沈黙を貫く者、黙らせるため抑え付けるため喋らせるため、あるいはただただ殴るため。暴力が暴力を呼び拷問へと繋がった。

 いつしか地下室に響く悲鳴で寝床は使い物にならなくなった。

「どっか貸し部屋借りるか、酒場の隅で寝とけ」

 正式な補助警察の任務があるエァンストは酒場に来る機会が減っていた。寝床がなくなるとますます足が遠のく。

「ツィータどうする?」

「私?私はカウンター裏で寝る。エァンストお前はどっか探しとけよ」


1933年3月23日

 81名の全共産党議員と26名の社民党議員が逮捕拘束されあるいは逃亡を余儀なくされ国会に出席できない中、全権委任法は可決された。反対したのは出席できた94名の社民党議員のみだった。


1933年3月24日

 今日は補助警察の任務はない。久方ぶりに酒場に戻ったエァンストは地下室から拷問による悲鳴が鳴り止まず、次々にアカが連れ込まれる中、周辺の警備任務に充てられた。

「いつもこんな感じなのか」

 眩暈がするほどの轟音の中隣の隊員に尋ねると

「ああそうだ。あれだけ我々を悩ませたアカが今じゃこのざまだ」

 興奮した様子だ。

「すまない。ちょっと疲れが出たようだ、休ませて欲しい」

 あまりの苦痛に耐えかねて頼むと快く受け入れてもらえ、さらには「これでも飲んで休め」と酒瓶まで渡された。

 エァンストが酒場を離れ、数年前よく暇を潰していた広場に向かうとベンチには先客がいた。ツィータだ。

「ん、ああ。エァンストか」

 エァンストはツィータの隣に座った。

「なあエァンスト、これでよかったのかな」

 ポツリと呟いた。

「毎日止まない悲鳴で頭がおかしくなりそうだ。いや違うそれなら別に他所にいればいい、今だってそうしてる。そうじゃなくて、」

「あまりにも暴力的だってことか」

「そう、これじゃまるでアカと一緒だ。いやそれより酷い。あんな無抵抗の相手を笑いながら拷問するなんて」

「じゃあこれ以外に道なんてあったか、俺ら二人が逃げていたってどうせこうなってたぞ。それに俺らには他に逃げ場なんて無かったはずだ」

「そっか」

「そうだ」

 ここはベルリン、いかれた街だ。

 街中で政治団体の抗争はもう起きない。国社党が勝ったからだ。警察の権力をかさに街中のアカを襲っている。

 アカの常連酒場ももう閉まっている。一方、突撃隊の酒場は拷問施設へと変貌した。エァンストたちもその協力者だ。毎日の喧騒に嫌気がさすことなど許されない。

 瓶抜きを当て酒瓶を開ける。外れた王冠が地面に転がって高い音を立てた。

 ダンスホールには警察が常駐し売買春を取り締まる。同性愛者向けのダンスホールは突撃隊が制圧した。

 あらゆる人々が国社党員になろうと勝ち馬に乗ろうと集まり、ベルリン支部は日夜盛況だ。

 この街は本当にイカれている。


 エァンストは酒を飲んで叫んだ。

「Heil Hitler!」

 ツィータも酒を飲み叫んだ。

「Heil Hitler!」

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