08
「先輩、早くしてくださいよ」
「落ち着いて」
そんなに急がなくても目当ての物はなくなったりしない。
「遅くなったらめめさんとさくさんが不安になりますから早く」
「でも、まだお昼だよ? それに明日から冬休みだからもっとゆっくりでいいよ」
「今日はクリスマスなんです」
クリスマスはクリスマスだけど今日はまだイブだ。
本番……と言っていいのか分からないものの、明日は無理だったからこうして集まっていることになる。
つまりいまは夜に食べるための物を買いに来ているところだった。
「それにしても七戸さんがどっちも無理で残念だったね」
「いつものことなので全くそんなことはありませんが」
「本人がいないところでぐらい素直になればいいのに」
めめも「無理なら仕方がないよ」と言っていたけど本当は残念だったと思う。
あれだけお互いに気に入っている状態だからゼロというわけではないだろう。
「は?」
「さ、スーパーに着いたから選ぼうか」
休日ではないから空いているかと思えばそうではなく、大人や子どもが沢山いた。
あ、ここは商業施設内のスーパーだからだ、普段のスーパーだったらここまで子どもはいたりしない。
「カップルが多いですね」
「そうだね、やっぱりいつものスーパーとは違うね」
「私から言い出したことですけどわざわざこっちである必要もありませんでしたね」
距離があるから普段の僕なら同じように言っていたかもしれない、それでも今日は特別な日だからこれでいいと思う。
「だけどここならゲームセンターとかもあるよ?」
「私はセンスがないのでゲームセンターにいってもただただお金がなくなっていくだけですので」
うん、そこは僕も同じだ、ただ若者なら興味を持つだろうから言ってみただけで。
だというのについつい突っ込んでしまいたくなるときもあるのが難しいところだった。
「僕とひよりさんにめめ、さく君の組み合わせだからあんまり買う必要もなさそうだね」
「そうですね、大量に食べられないので少しでいいです」
「というか今更だけどよかったの? ひよりさん無理をしていない?」
あとは二人とも一緒に過ごしたいからだとしてもいいのかと考えてしまう。
四人だったらひより七戸さんペアの中に加わらせてもらうだけだけど来てもらう側だからだ。
「そもそも私から誘ったのに駄目なわけがないですよね? そろそろそういうのやめてくださいよ」
「慣れていないからすぐに不安になるんだよ」
「ちなみにですけど私が誘っていなかったらどうしていたんですか?」
「そうなったらめめとさく君が食べたいご飯を作って一緒に食べてもらったかな」
「ただそこに私が加わるというだけのことではないですか、いちいち不安にならないでください」
き、厳しい。
まあでも、頼まれて受け入れたわけだから堂々としておけばいいか。
「ケーキ、どうしますか?」
「ひよりさんが食べたいなら買おう、めめとさく君はケーキに興味を持っていなかったからひよりさん次第だよ」
僕が三人だけで過ごしてたらケーキは買っていなかったけど欲しいなら別だ。
「それなら別に……食べなくても死んだりはしませんからね」
「食べたいなら食べたいって言って」
「……なんでこういうところではぐいぐいと……じゃあ食べたいですっ」
七戸さんだけではなく僕にまで遠慮や我慢をするようになったら大変になるからどんどん吐かせなければならない。
「よし、これぐらいでいいね」
「はい――あ、帰りは私も持ちますから」
「え、そんなのいいよ、会計を済ませてくるね」
一袋分しかないのに女の子にも持たせていたら恥ずかしいだろう。
それに今回は飲み物も買っていたりしてそこそこ重いからこうなると余計に任せられない。
「そう不満そうな顔をしないでよ」
「知りません、もう私は一人で帰りますから」
「じゃあこれ、めめ達の相手をしてあげてよ」
素直に入らなそうだけど鍵を預けようとしたのにこちらに背を向けて「いりません」と、今回も難しい女の子だ。
「あれっ」
「大声を出してなんとかしようとしても無駄ですから」
「いやそれはいいんだけどまた血が、ね?」
「はい? うわっ!?」
初めてめめを抱きしめたときよりも大きな声でその方に驚いてしまった。
そういうのもあって血がだらだらと流れているのに痛くないからかじっと彼女を見つめてしまう。
「な、なんですか? なにかついていますか?」
「ううん、ちょっとあそこで洗ってもいいかな?」
「はい、いまこのまま歩いていたらぎょっとされるのでその方がいいです」
たまたま公園が近くにあってよかった。
ただ今回はすぐに止まらずに未だに出続けているのと、段々と痛みも出てきて微妙な状態に。
「あの……どんどん顔色が悪くなっていますけど大丈夫なんですか?」
「いや……今回はあんまり余裕がないんだ」
家には帰ることができるだろうけどその後に付き合い続ける自信がない、せっかく美味しい食べ物を買ったのにこれではあんまりだった。
「歩けますか? 早く家に帰ってしまいましょう」
「あ、て、手を握るのっ?」
「そんなことはどうでもいいんですっ、早く帰りましょう!」
途中から血なんかどうでもいいぐらいだった。
女の子と手を繋いで帰るなんて初めてのことだから心臓が暴れていた。
「めめさん!」
「うわあ!? ……って、ひよりさんか、どうしたの?」
「これを見てください!」
「うわあ!?」
ごめんめめ、だけどそのリアクションが気持ちいい。
「あ、勢いがなくなりましたね」
「ありがたいよ、出続けていたら家でゆっくりすることもできないからね」
「でも、ビニール袋は……なんだか気持ちが悪くなってきました」
足りなくなったときのために持っていっていた袋は確かに彼女の言う通り、血でいっぱいだった。
これだけ出してもよく倒れなかったなあと褒めたくなる、いや褒めておいた。
「は、早く捨ててきてっ、そわっとするから!」
「う、うん」
結局のところこうなってしまえば汚してしまうからあれだけど洗面所で流させてもらうことに、その瞬間に白い場所が真っ赤に染まって僕的にもえぇとなったね。
「いまは腕だけだからいいけど下手したら玄太がお父さんに殺されちゃうね」
「やっぱりそういうことなの?」
「説得してく――わきゃ!?」
「待った待った、せっかく買ってきたんだからみんなで食べようよ」
めめがいってしまったらさく君も消えてしまうから駄目なのだ。
クリスマスの夜に女の子と二人きりは不味いと彼女だって分かってくれるはず!
「……私が玄太に殺されるところだったよ、それに私達がいなくてもひよりさんがいてくれるんだからいいでしょ?」
「だ、だから不味いんだって」
「ん? あークリスマスの夜にぐらい勇気を出しなさい、それじゃあいってきますからね」
ああっ……。
「玄太、めめはちゃんと連れ帰るから今回も僕に任せてよ」
「うん、それはお願いね」
いってしまったのなら仕方がないか。
しっかり切り替えてひよりさんの方に意識を向けたら恐らく先程の僕よりも顔色が悪くなってしまっていた。
このまま盛り上がることもできなくなったので隣の部屋に布団を敷いてそこに寝てもらうことに。
「ごめんね」
「……先輩が謝る必要はないですよ」
「そうだ、今更だけど汚してしまった場所とかってない?」
「多分大丈夫だと思います」
「それならよかった」
こうなると家まで送って解散かな。
正直ほっとした、いま内側にあるのは申し訳ない気持ちだけだから続行となっても困るだけだ。
空気が読めないとか情けない顔をするなとか言われることは確定しているのでそのきっかけさえもなくなるのは僕的に大きい。
「あの、頭を撫でてくれませんか?」
「いいよ」
さっき普段よりも一生懸命に洗ってきたから奇麗なのはいい、でもいいよじゃないんだよなあ。
あとこの子もなんでこういうときは悩むことなく出してしまうのか……。
「ふぅ、あともう少ししたら治りますから二人で盛り上がりましょうね」
「え、送って終わりにしようと思っていたんだけど」
「む、そんなことにはさせません」
「いつものきみに戻ってくれているのはいいけど流石に二人きりじゃ――」
何故こちらが見上げることになっているのか。
別に押し倒されているわけではないけど下から見る彼女は怖かった。
「そんな下らないことを気にされていたらいつまでもこういうことができないではないですか」
「な、何回もしたいの?」
「は? 仲良くなれたら普通はそうでしょう」
彼女は見下ろす趣味があったのか――なんてふざけている場合ではないか。
「はっきりと言っておきますが今日、実はなゆ先輩が参加できなくてよかったと思いました。あと、玄太先輩の命がかかっているのであまり手放しで喜ぶこともできないのですがめめさんとさくさんが向こうにいったことも……ということです」
「僕ってめめのお父さんの気分次第で簡単に死ぬってことだよね」
でも、せめて三十歳ぐらいまでは生きたいところだ。
少なくともいまは死にたくない、まだまだ彼女達と過ごしていたい。
「でも、めめさんならなんとかしてくれると思います、だって支えてきてくれた女の子なんですよね?」
「うん、信じて待つしかないね」
やっぱりぶつかるしかないか。
この前は本当になにもできていないからちゃんと話し合いをしなければ。
今日が終わったら連れていってもらおう。
「ただ、ここで二人で暗い顔をして待っていても悪い方に傾くだけだからあともう少ししたら温めて食べ始めようか」
「はい――誰か来ましたね?」
「出てくるよ」
めめとさく君なら直接帰ってくる、となると……七戸さんとかだろうか?
「はい――あ、あなたは……」
「めめの父親だ」
「それは分かっていますが……」
ま、まあ、めめに頼んで連れていってもらうよりはよかったか。
なにも消費していないわけでもないだろうし? うん、疲れさせてしまうようなことにならなくてよかった。
「どうぞ」
「ああ」
あ、ちなみにいまは小さい状態になっているからこの前と違って怖い感じは全くなかった、それどころかふわふわ浮くことができるわけだから可愛いかもしれない。
「もう四十二だ、可愛くなどない」
それお父さんにも有効だったのね!
「それよりその傷、上手くコントロールできていないみたいだな」
「たまに血が出るのはあなたがそうしているからではないんですか?」
「貴様はめめの恩人だからな、そんなことをするわけがないだろう」
なら原因はなんだ? 女の子に対して浮かれたら血が出るとかだったら嫌だぞ。
うーん、めめやお父さんが関係していないとなると分からないな。
自分が冷静でいられていても血で汚してしまうことになるからできるだけ避けたい、あとは周りの方が悪影響を受けてしまうから駄目なのだ。
「じゃあ……僕に原因があるということですか?」
「そうだ。あと何故もっと来ない、私達は二人で待っているのだぞ?」
だ、だったら初対面のときももっと残してくれればよかったのに。
「それは……想像以上に広範囲で与えてしまってあいつが怖かったからだ」
「めめのお母さんのことですよね?」
「私より怖い、貴様も気をつけろ」
き、気をつけろと言われても困るけどねっ。
「ん? ああ、よく見たらこの前の――違う子だったか」
「この前の子はあの子の友達です、僕らは今日一緒に過ごす予定でして」
「あの子はいないのか?」
「はい、この二日間は一緒に過ごせないそうなんです」
そういえば向こうにはクリスマスに盛り上がる文化があるのだろうか?
もしあるならめめは元々帰りたかったのかもしれない、これを丁度いいと判断して楽しんでくれていればいいけど。
「そうか、ならあっちにいっためめを連れ戻してくることに――今回はそうしない方がいいみたいだな、あと私としてもあいつのところに帰りたくない」
「喧嘩でもしてしまったんですか?」
「高い物でなければすぐに不機嫌になるのだ」
「そういう……」
あ、やっぱりあるのか。
気持ちだけではいいと言いつつも期待してしまうのは仕方がないのかもしれない。
こちらを心配そうに見てきている彼女だって本当はなにか欲しい物があったりして、ただ高い物を要求されても厳しいというところ。
「貴様も気をつけた方がいい」
「はい、気を付けます」
「さてと、それでも邪魔をするわけにもいかないから帰るとしよう」
「お気をつけてくださいね」
「ああ」
なんか少し父に似ていたかもしれない。
あんまり喋る方ではなかったけどこう、気にかけてくれている感じが。
「意外、でした、想像以上に優しそうな方でしたね」
「僕的にもそうだよ。だけどこの傷、お父さんが関係していないなんてね」
特定の場所に近づいたら血が出るとか厄介なことにならないといいけど。
そういうのも全て僕次第ということだ。
「どうすればいいんでしょうかね、あ」
「うん?」
「いまここで教えなかったのは玄太先輩に来てほしいからではないですか?」
「はは、まあいく理由にはなるよね」
というか、いくしかないだろう。
何回も言うけど前回は一言も話すことすらできなかったのでちゃんと会話をすることができたのはよかったと思う。
「はい、ちゃんとお勉強をして死なないようにしてください、私を悲しませないようにしてください」
「うん、そうだね、僕もまだまだひよりさんといたいから」
「ぞ、ぞうですよ゛」
お、僕にしては頑張れた、これまでだったらひよりさん達、という風に言っていたところがこれだ。
なんかだらだら流れる血を見て精神的に成長できた気がする、実はあれも必要なことなのでは?
「さ、お腹が空いちゃったからもう食べようか」
だけどいまはそのせいかお腹が空いてしまったから満たすことに集中しようと思う。
「ふぅ、そうですね、温めてしまいましょう」
「うん」
あとは約束を守るためにもこれは必要なことだった。




