ぼくとトイレのぺろりんさん07
つぎの日、休み時間にぼくはデーブに声をかけた。
じつはみんな、デーブのことは「出井くん」とよぶ。
だから、デーブはじぶんがかげで「デーブ」とよばれていることを知らない。
デーブ本人を目の前にして「デーブ」とよぶ、そんな命知らずなヤツはいない。
デーブをデーブとよんだら、どうなるか……。かんがえただけでおそろしい。
「あの、出井くん……」
そのしゅんかん、教室の空気がピーンとはりつめ、クラス全員がこっちを気にしはじめた。
「雨森のヤツ、デーブにいったい何の用があって声をかけたんだ?」と、みんなぜんぜん関係ないほうを見ていながら、耳だけがこっちに集中しているのがわかる。
「ふん!」
デーブが、すごいはないきとともにこっちを見た。
え、おこってる? なんで? おこられるようなこといった?
「あ……、え……、うう……」
ありがとうっていえばいいのだけど、きんちょうしてことばが出てこない。
「な……、なんでもない」
ぼくは、そそくさとデーブのそばからはなれた。
すると、はりつめていた教室の空気ががいっきにゆるんだ。
みんなの「ほーっ」というためいきが聞こえたような気がした。
「あ~、きんちょうした。お礼をいうのやめようかな……」
とりあえずおちつこうと思って、ろうかに出た。
「……いや、やっぱりいわなきゃダメだ。でも、教室じゃさっきみたいにみんなが注目するし……。
だいたい、なんでぼくがデーブにお礼をいうのかみんな聞きたがるし。
そしたら、学校でうんちをしたことをみんなにいわなきゃいけないし……って、なんでわざわざ学校でうんちしたことをじぶんからいわなきゃいけないんだよ!」と、じぶんでじぶんにツッコミを入れたところで思いついた。
「そうだ、学校の帰りにいおう。まわりにだれもいない時にいえばいいんだ。そうだ、そうしよう!」
そう決心したけれど、今度は一日じゅうしんぞうががドキドキして、まったく勉強が手につかなかった。はあ……。
いっぽう、たれるに声をかけられたデーブは思いなやんでいた。
さっき声をかけてきたヤツ、雨森たれるっていったっけ? なんの用だったんだろう。
へんじをしたらにげていっちゃったけど、……どうしておれがへんじをするだけでみんなにげちゃうのかな?
「ふん!」
そう、「ふん!」というのがデーブなりのへんじ。
デーブは、じぶんのへんじがあいてにとってへんじになっていないことにまったく気づいていなかった。
う~ん、おれからみんながにげちゃうのって、やっぱりあの伝説のせいか……。
小学3年生のおれが中学生をぶっとばしたという、あの伝説。
でも、あの伝説はみんなが勝手に作り上げた話で、あれにはおれしか知らないひみつがあるんだよなあ……。
つづく




