ぼくとトイレのぺろりんさん06
その日の夜、ぼくはぺろりんさんにお礼をいいに家のトイレに入った。
だれかに助けてもらったらお礼をいう。
これは、ぼくのおばあちゃんがいつもいっていることだ。
助けてもらったお礼をいえば、また困ったことがあっても、まただれかが助けてくれるということらしい。
ぱん! ぱん!
便器の前で柏手を2回打って、「雨森たれるです。しずくの兄です。ぺろりんさん、きょうはありがとうございました」といって、おじぎをした。
すると、「しずくの~お兄ちゃ~ん、ぼくは~神様じゃないよ~」と声がして、舌がぺろっと出て来た。
「うわっ!」
ちょっとドキッとしたけど、ぺろりんさんはこわい妖怪じゃないと思ったせいか、さいしょみたいにおどろかなくなっていた。
「あ、ぺろりんさん。昼間はありがとう」
「どういたしまして~。困ったことが~あったら~またいってね~」
「……ちょっといい? あのさ、ぺろりんさんってなんなの? 妖怪?」
ちょっときょうみがわいたので、ぼくは、おそるおそる聞いてみた。
「よくわからない~。ぼくは~ぼくだよ~」
舌はぺろっと便器の中に消えていった。
しずくがいっていたように、ぺろりんさんはじぶんのことについて「よくわからない~」ことが多いようだ。
そして、なんでぺろりんさんがいるのかなんて、どうでもよくなっていた。
ぺろりんさんは、たしかにいるのだ。
トイレから出るとお父さんが立っていた。
「たれる、トイレでだれかと話をしていたか?」
「ううん、ひとりごと」
「そうか、だったらいいんだ。また変質者でもいたのかと思ったぞ。いいか、変なヤツがいたらお父さんにいうんだぞ」
「うん」
お父さんのうしろで、しずくが口をおさえてわらっていた。
お父さんがいなくなったあと、しずくがいった。
「これで、お兄ちゃんもぺろりんさんとお友だちだね」
「ちがうよ。お礼をいっただけで、友だちじゃないよ」
「ううん。お話ししたら、お友だち!だよ」
「なんだよ。そのお話ししたら、お友だちって。そんなにかんたんに友だちになれるわけないじゃん。まったく、しずくのお友だち理論にはついていけないよ」
「えー、お友だち理論って何?」
「なんでもかんでも友だちになっちゃうってことだよ」
「いいじゃん。みんなお友だちで! ぺろりんさんとおっともだちー!」
ぼくのあとをしずくがはしゃぎながらついてくる。
「うるさいなあ、もう」
そうはいったけど、どうなんだろう? ぼくはぺろりんさんと友だちなのかな?
だいたい、今ふつうにぺろりんさんと話ができちゃったもんな。
ぺろりんさんと友だちなのかも?ってぼくは思った。
それより、ぺろりんさんにお礼をいったら、こんどはデーブにもお礼をいわなくちゃいけない。
でも、デーブに話しかけるのはこわいなあ……。
しずくのお友だち理論によるとお話ししたらお友だちだから、デーブと友だちになっちゃうのかなあ。
ん~、それこそそれはないな。
デーブには、ある伝説があった。それは小学3年生で中学生をぶっとばしたという話だ。
あるヤツが公園のトイレにいった時、中からあわてて出てきたデーブとぶつかりそうになったそうだ。
そいつが中に入ってみると3人の中学生がたおれていたという。
どうやらトイレに入っていたデーブを中学生たちがからかったみたいで、それにおこったデーブが中学生をぶっとばしたんじゃないかということだった。
その話は、あっというまに学校じゅうに広まり、デーブをおこらせるとこわいということになった。
それから、みんながこわがって、デーブにあまり近づかなくなってしまったんだ。
つづく




