ぼくとトイレのぺろりんさん04
数日後、しずくはわすれ物をした。
鍵盤ハーモニカが見あたらない。ランドセルの中にもない。
どうやら、へやのつくえの上におきっぱなしにしたようだ。
「あ~、だれかにかりるわけにいかないし、家まで取りにいってたら、まにあわないよ……」
しずくには思いつくことがひとつあった。
たしか、「困ったことが~あったら~またいってね~」っていってたな。
う~ん、ホントに助けてくれるかな? だいじょうぶかな? 何かこわいことが起きたりしないかな?
う~ん、う~ん……。なやみになやんで、しずくはトイレにいそいだ。
「学校のトイレにもきてくれるかな?」
しずくは、まわりに気づかれないように小さな声で便器に話しかけた。
「え~と……、ぺろりんさん?でいいのかな。困ってるの。助けて」
便器は、うんともすんともいわなかった。
「そうよね。ぺろりんさんは公園のトイレにいるんだもんね。学校のトイレにこれるわけないよね」
がっかりしてトイレから出ようとした時、便器からぺろっと舌が出てきた。
「しずく~、どうしたの~?」
「あ、ぺろりんさん? え~と、お願いがあるの。いいかな?」
「何かな~。できることと~できないことが~あるよ~」
「あのね、家のつくえの上に鍵盤ハーモニカをわすれてきちゃったの。持ってきてほしいんだけど、できる?」
「う~ん~」
「……むりならいいよ」
「がんばって~やってみるよ~。しずくの家は~どこ~?」
「学校からぺろりんさんがいる公園までいってもそのまままっすぐいって、車がたくさん止まっているところを左にまがって、コンビニのところを右にまがって、ちょっといった赤いやねの家。わかった?」
「ちょっと~むずかしいけど~まかせて~。じゃあ~いってきます~」
舌が○を作ってひっこんだ。
しずくは、そのまま中ではらはらしながら待った。
トイレからどんどん人がいなくなり、休み時間もおわろうかというころ、ぺろりんさんがもどってきた。
「ちょっと~道に~まよっちゃった~。はい~どうぞ~」
ぺろんと、鍵盤ハーモニカがさし出された。
「やった! ありがとう、ぺろりんさん!」
しずくはぺろりんさんのおかげで、ぶじに音楽のじゅぎょうを受けることができた。
でも、ふしぎなことに鍵盤ハーモニカはトイレの中をとおってきたはずなのにぬれていなかった。
どうやってぺろりんさんは鍵盤ハーモニカを持ってきたんだろう。
だいたいぺろりんさんは便器の中にどうやって入っているのだろう。
ぺろりんさんに聞きたいことがいっぱいあった。
それからしずくは何度か公園にいって、トイレでぺろりんさんと話をしたそうだ。
聞いたことのほとんどが、じぶんのことなのに「よくわからない~」ということだったらしい。
そうやって、しずくはぺろりんさんと友だちになったということだった。
「ぺろりんさんって、ぜんぜんこわくないよ。お兄ちゃんもぺろりんさんとお話して、お友だちになればいいよ。そうすれば、お兄ちゃんも困った時、ぺろりんさんがきっと助けてくれるよ」
「ぼくは、べつにぺろりんさんと友だちにならなくてもだいじょうぶ。困った時はじぶんでなんとかするよ。さあ、もうねよう」
しずくを2段ベッドの上にのぼらせると、ぼくはじぶんのベッドのふとんにもぐりこんだ。
しずくは、ぼくとぺろりんさんが友だちになれると思っているようだけど、ぼくはあんなうすきみわるい妖怪と友だちになる気はない。
だいたい、うんちをするたびにおしりをなめられるのは、かんべんしてほしい。っていうか、そもそもなんでぺろりんさんなんていう妖怪がいるんだよ。べろんがいたり、ぺろりんさんがいたり、世の中どうなっているんだ。
そんなぼくのしんぱいをよそにそれっきり家のトイレにぺろりんさんはあらわれなかった。
つづく




