ぼくとトイレのぺろりんさん03
トイレの前で話をしているとお父さんにおこられるので、へやにもどってしずくから話を聞くことにした。
しずくは、ぼくとおなじ渡来来渡東波小学校にかよう2年生だ。
ぼくとしずくは、ふたりでひとつのへやを使っている。
それぞれのつくえと2段ベッド。ぼくが下で、しずくが上。
ぼくはじぶんのつくえのいすにすわり、ぼくのベッドにすわるしずくと向きあった。
「なあ、さっきのトイレの顔としずくが友だちってどういうこと?」
「あれはね、ぺろりんさんっていうの」
「ぺろりんさん?」
「そう。いつもは公園のトイレにいるんだ」
「公園って、だれもあそばないあの公園?」
そこは、ベンチとトイレだけがある公園。
まえはジャングルジムやすべり台があったけど、だれかが「あぶない」っていったからなくなってしまった。
あそび道具がなくなって楽しくなくなったから、だれもあそばなくなってしまった公園。
公園じゃなくて、ただの空き地になってしまったんだ。
そんな公園のはじっこにトイレはあった。
「うん。そうだよ」
ぼくは、しずくにぺろりんさんとの出会いの話を聞いた。
「ずいぶんでもないし、ちょっとでもないくらいまえ、学校からの帰り道にすごい雨がふってきたから、家に帰るまでのとちゅうにある、あの公園のトイレで雨やどりをしていたの……」
ズァァァァァァ!
バケツをひっくりかえしたような雨がふっていた。地面にたたきつける雨の水しぶきが、白いけむりのようになっている。
「はあ、困ったなあ。雨、早くやまないかな。〈焼けろ! タコヤキくん〉がはじまっちゃうよ~」
〈焼けろ! タコヤキくん〉は、小学生に大人気のアニメだ。たこ焼き好きの小学生、多古田焼太郎通称タコショーがたこ焼き職人たちとバトルをくりひろげる。アニメのほかに番組の後半にあるコーナーで、司会の芸人たちがたこ焼きの具を当てる〈なかみはなんだろな?〉や、番組を見ている子どもたちがハガキでおうぼしてくるオリジナルたこ焼きの味をきそう〈たこ焼きバトル〉がおもしろい。おいしかったたこ焼きはアニメの中にとうじょうするからおうぼが多いそうだ。
さいきんは世界たこ焼き選手権、通称WTCへの出場権をめぐってタコショーと日本じゅうのたこ焼き職人があらそう話になっている。
まえにタコショーにまけた、ライバルのたこ焼き職人が出てきてタコショーのなかまになったりしてワクワクする。
見のがすとつぎの日の話題についていけなくなるから、かならず見ておかないといけない。
「あ~、なかなかやまないな。ぬれてもいいから、もういっちゃおうかな」
その時、しずくは背中をちょんちょんとだれかにつっつかれた。
「え?」
ふりかえると、かさが空中にふわふわとういていた。どうやらそのかさで背中をつつかれたみたいだ。
ふしぎなことに、かさはトイレの個室からのびているひものようなものでつながって、空中にういていた。
「あれ? かさだ。かさがういてる。なんで、かさがこんなところにあるの?」
ひもがほどけて、かさがポトリと下に落ちた。
「使いなよ~」
トイレから声が聞こえた。
「だ、だれ?」
しずくが、おそるおそる個室をのぞくと、トイレの便器に顔がはまっていて、その口からのびる舌がまるで手のようにふられていた。
さっき、かさとつながっていたひもに見えたものは、この舌だったらしい。
「ひいっ!」
便器にはまった顔を見ておどろいたしずくは、足をすべらせ、しりもちをつきそうになった。
「あぶない~」
その時、舌がさっとのびて、しずくをささえて助けてくれた。
「ひっ! ……あ、ありがとう」
「ころばないで~よかったね~。じゃあね~」
しずくのぶじをたしかめると、顔はコホッと音を立て、奥にすいこまれていった。
しずくの足もとにはかさがころがっていた。
「ど、どうしよう。このかさ使ってだいじょうぶかな。何かあったらやだな。でも、早く帰ってタコヤキくん見たいし……」
バダダダダダッ!
しずくが持つかさを雨がはげしく打ちつける。
しずくは、少し気持ちわるかったが〈焼けろ! タコヤキくん〉見たさにかさをかりることにして、
「焼けろー ターコヤーキ ジュジュッジューッ♪ 焼けたら まーわせ くるっくるー♪ おもてはカリカリ 中はトロトロ あつあつーっ♪ 気をつけろ ヤーケドするなよー♪ パクッ! ……うあちちちーっ! やーっぱりヤケドしたぜー タ・コ・ヤ・キー はふはふーっ♪」
と、気をまぎらわせるために〈焼けろ! タコヤキくん〉の主題歌を歌いながら帰った。
つぎの日、しずくはかさをかえしに公園にいった。
「かりたものは、ちゃんとかえしなさいってママがいってたから……」
きのうのトイレのあの顔は、いったいなんだったんだろう。妖怪なのかな? 妖怪だったら、こわいな。
でも、かさをかしてくれたし、しりもちをつかないように助けてくれたから、いい妖怪じゃないかな。
そんなことを思い、ドキドキしながらしずくは公園のトイレまでいき、個室の前で、
「きのうは、ありがとう」
と、お礼をいってかさをゆかにおいた。すると、便器から舌がのびてきてかさにまきつき、さっと持っていった。
「どういたしまして~。困ったことが~あったら~またいってね~」と、便器の中から声がした。
ちょっとこわかったけど、勇気を出してしずくは聞いた。
「あ、あたし、雨森しずく。……あなた、名まえはなんていうの?」
舌が出てきて、何かをなめるようにぺろりんと動いて、ひっこんだ。
「ぺろりん? ……ぺろりんさん? ぺろりんさんっていうの?」
便器の中からは何の声もかえってこなかった。しずくはしんぞうのドキドキがおさまるまで、しばらく公園のトイレに立っていた。
つづく




