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管理権限

「どどど……どうやってやったんだい!?」

「あー……」


 里の整備に神仏の助力を得たのは説明したが、具体的にどういう方法なのかは伝えていなかったので、目の前で起こった現象に、おりょうさんが激しく動揺している。


「きゅ、急に地面が抉れて石が組まれましたよ!?」

「説明するから、頼華ちゃん落ち着いて……」


 逆の立場なら絶対に驚くよなと、自分で言っていて思った。


(……ん? もしかして、里の権限を与えるのって出来るのかな?)


 俺に里の管理権限が与えられたのは、紬の上位者になったからだが、その俺には、おりょうさんや頼華ちゃんに権限を与える事が出来るのでは無いだろうか? 試すのにはなんの問題も無いし、説明するにしても目にして貰った方が早いだろう。


「えっと……おりょうさんと頼華ちゃんにも、里の管理権限を与えられるか試してみますね」

「「えっ!?」」


 驚く二人へ、頭の中で権限を与えるようにイメージする。


「出来た、かな? おりょうさんでも頼華ちゃんでもいいですけど、そこの新しく作った水槽を、撤去するって頭の中で考えてくれますか?」

「な、なんかわかんないけど、やってみようかねぇ……」


 言葉遣いと表情には僅かに躊躇が見えるが、おりょうさんは水槽に視線を向けた。


「あ、あれ? なんか変な図形みたいなのが……」


 おそらくはコンストラクトモードのフレームが視界に浮かんだのだと思うが、初めての現象なのでおりょうさんは目の辺りを擦っている。


「おりょうさん、それが神仏から与えられた力です」

「こ、これがかい!?」

「ええ。大きさや高さや深さを指定して、素材を選んで揃えれば、この里の中なら設置出来るんです」

「そ、そういう事かい……」


 やはり目に見える形だとわかり易いのだろう。おりょうさんは完全にでは無いにしても、コンストラクトモードを理解したようだ。


「? ど、どういう事なのか、余には良くわからないのですが……」

「んー……頼華ちゃん、まだ石があるから、水槽の隣に、更に水槽を作ってみようか」

「ど、どうすれば!?」


 本当にどうすればいいのかわからないらしい頼華ちゃんは、泣きそうな表情で俺を見てくる。


「落ち着いて。そこの二つ並んだ水槽の隣に、もう一つ水槽を造るって、頭の中で思い浮かべてみて」

「は、はいっ!」


 おりょうさんと同様に、頼華ちゃんにも管理者の権限がちゃんと与えられているのなら、今の説明で出来るはずだが……。


「んんっ!? な、なんか変なのが目に浮かびましたよ!?」

「上手く行ったみたいだね。じゃあ同じ広さを指定して、素材は石を指定して御覧」

「は、はいっ!」


 頼華ちゃんも上手くコンストラクトモードを使えたようで、間に仕切りのある水槽が三つ並んで設置された。


 予定外の水槽の拡張になってしまうが、里に子供達全員が戻ってきたら、洗濯物の量も膨大になると思うので、洗い場が広い分には問題にならないだろう。いざとなれば撤去も出来るし。


「す、凄いですっ! こんな力を与えてくれた神仏も凄いですが、授かった兄上も凄いですっ!」

「いや、俺は別に……」


 頼華ちゃんが褒めてくれるのは純粋に嬉しいが、神仏が与えてくれた能力と並べられるてしまうのは正直困る。


「良太、この力を使えるのは、里の中だけなんだよね?」

「そうですね。それと資材を大分使っちゃいましたから、外から運び入れるか、今ある建物を解体するかしないと、新規に何かを造るのは無理ですね」


 植えられていた木は使い尽くしたし、河原にも石は転がっているが、建材にするには全く足りないだろう。


「二人を信用して里の管理権限を渡しましたけど、こういった施設なんかを設置する以外に、外から里の中へ人や動物を入れられるようにも出来ますから、注意して下さい」


 霧で迷わせて外部からの侵入を妨げる機能は、里の護りの要である。


「そ、そうなのかい? 子供達の事もあるから、気をつけないといけないねぇ」

「この里を護る責任を負うという事ですね! わかりましたっ!」


 里という場所だけでは無く、既に家族のようになっている子供達の安全が掛かっているという事で、おりょうさんも頼華ちゃんも表情が引き締まった。


「不用意に面識の少ない人間を里に入れなければ、それ程危険は無いと思いますから、そんなに気にしなくてもいいでしょう」

「そりゃそうなんだろうけどねぇ」

「紬みたいに、不用意に俺なんかを里に入れなければ、こんな風にならなかったんですよ」


 霧の護りは絶対的だと思えるので、死に瀕して焦っていたにしても、紬の判断は正しくなかったと言わざるを得ない。


「まあ、自然のままってのも悪くは無いだろうけど、これはこれで、良太が住み良くしようって考えてやったんだろう?」


 変わり果てた里を見回し、おりょうさんが溜め息混じりに呟く。


「まあ、そりゃそうなんですけどね……」

「兄上が里の者共の事を考えて行ったのですから、良かったに決まってます!」

「そ、そうかもしれないねぇ……」


 あまりにも頼華ちゃんが自信満々に言うので、気圧されたおりょうさんは引き攣った笑顔を浮かべている。


(うーん……信頼してくれるのは嬉しいけど、ここまでになっちゃうと、天照坐皇大御神(あまてらしますすめおおみかみ)様の言う通り、信仰になっちゃってるのかなぁ)


 俺自身も勿論、信頼を裏切らないようにしようと行動しているのだが、頼華ちゃんのは盲目的になりつつある。


「厨房と水場はこんなところで、次に行きましょうか」


 少し良くない方向に会話が行っているように感じたので、一度仕切り直しをする為に次へ向かう事を提案した。


「食堂は見ないのかい?」

「見せるのは構わないんですが、天井と壁があるだけで、中身は空っぽなんですよ」


 現在の食堂には、発芽を期待している野菜の切れ端や種が、布の上に並べられている物が床に置いてあるだけである。


「そうなのかい?」


 コンストラクトモードを理解したので、おりょうさんは食堂の中も既に整っていると思ったのだろう。


「食卓や椅子を整えたかったんですけど、その前に木材が足りなくなっちゃいまして」

「ああ、それじゃあ仕方ないねぇ」


 おりょうさんと頼華ちゃんには、資材を指定しなければ施設の設置が出来ないといところまでわかっているので、話が早い。


「という訳で、食堂は通過して他に行きます」

「そいじゃ行こうか」

「わかりました!」


 またも二人に両側から腕を取られて、俺は貯蔵庫へ向かった。 


(なんか、連行される犯人みたいだなぁ……)


 両腕の自由を奪われて、そんな事を感じてしまう。


(でもまあ、悪くは無いな)


 何せ自分の腕を取るのは美女と美少女なのだから、どこへ連れて行かれようと抵抗など出来る訳が無い。



「うっわ! 寒っ!」


 石段を降りて扉を開け、貯蔵庫の手前側の冷蔵庫に入ると、頼華ちゃんが悲鳴のような声を上げた。


「奥はもっと寒いよ」

「そ、そうなのですか!?」

「うん。肉類が腐らないようにね」


 米俵や麦の袋、味噌の樽など、様々な食材が置かれているがまだスペースに余裕がある冷蔵庫を突っ切り、奥にある布の仕切りを左右に開けると、白い冷気が流れ込んできた。


「ひゃああぁぁ……」


 冷気が流れ込んで更に下がった気温に、頼華ちゃんは自分を抱くような格好をしながら、消え入りそうな声を上げた。


「寒い? でも本当に寒いのはこの奥なんだけど」


 仕切りの布は奥にもう一枚垂れ下がっていて、二重構造で冷凍庫の冷気が逃げ難いようにしてある。


「こんな感じに、肉を保存してあります」


 冷凍庫には蜘蛛の糸で作った綱を壁の両側の渡し、そこから綱で縛った枝肉を吊るしてある。


 肉は冷凍庫に入れてから一時間ちょっとしか経過していないが、既に表面はカチカチに凍りついている。


 権能を付与した金貨にはたっぷり(エーテル)を込めてあるので、数日の間は低温を保ち続けるだろう。


「わ、わかったから、もう出ようかねぇ……」

「わかりました」


 おりょうさんも相当に寒そうにしているので、仕切りの布を元に戻して、俺達は貯蔵庫の階段を上がった。


(こりゃあ、冷凍庫用の防寒着と、手袋でも用意しといた方が良さそうかな?)


 着ている服や身体能力のお蔭で、俺自身はそれ程寒さを感じなかったが、おりょうさんと頼華ちゃんの様子を見ると、貯蔵庫内の冷気の中での作業は相当に消耗が激しいようだ。


 頼華ちゃんの場合は最初から寒さを想定して、身体の周囲に(エーテル)の防護を施せば問題は無いのだろうけど、里の子供達にまだそこまでは期待出来ないので、貯蔵庫の入口辺りに防寒着を用意しておくのが無難だろう。


「さ、寒かったですけど、この貯蔵庫があれば、冬の間も食糧不足に悩まされないで済みそうですね!」

「うん。人数が多いから、もっと多くの食べ物が必要だけどね」


 山には多くの獲物がいそうなので、寒くなるまでに相当量の肉を確保出来ると思うが、エネルギーの補給は出来るにしても肉ばかりでは食事のバリエーションが乏しくなるので、米や麦や野菜などを買ったり運んで貰ったりしながら、せっせと貯蔵する必要がある。


「そういえば、毎日捕って食べたら絶滅しちゃいそうだけど、川と池にかなり魚がいるよ」

「川なんてありましたか?」


 元々の水場の岩の辺りに立てば川も視界に入ったのだが、新たに設置した水槽の辺りだと高低差があるので、おりょうさんと頼華ちゃんに川と池は見えなかったのだろう。


「えーっと……それも、ね」

「ま、まさか建物だけでは無く、川や池までなのですか!?」

「あはは……」


 論より証拠で説明するよりは見せた方が早いので、おりょうさんと頼華ちゃんを伴って川の方へ向かった。



「本当に、川を設置したり撤去出来たりするんだねぇ……」


 実行する気は無いみたいだが、おりょうさんはコンストラクトモードで川の撤去が出来るのを確認したようだ。


「わかっちゃいたけど、改めて神仏の凄さってのを思い知らされるねぇ……」

「まったくです」


 建物や樹木を自由に配置、撤去出来るだけでも凄いのに、川や池までもとなると、人智の及ばない神仏の力というのを感じずにはいられない。


「でも兄上でしたら、川や池くらいなら、手で掘って設置出来ますよね?」

「ああ、良太なら、ねぇ……」

「頼華ちゃん!? おりょうさん!?」


 頼華ちゃんの言葉を受けて、おりょうさんが俺に変な視線を送ってくる。


「池や川を掘る事くらいは出来なくも無いですけど、川の流れまではどうにもなりませんよ?」


 手で掘るなら川というよりは掘とか水路と言った方が適当なのだろうけど、どちらにしても水源が無ければ流れは作れない。


「池や川を掘るのだって、普通は領地全体の事業って規模なんだけどねぇ」

「う……」


 おりょうさんに指摘されて、自分の基準が世間一般からするとズレていたのを自覚する。


「まあ、どっかの田んぼに迷惑掛けるとかじゃ無いんなら、川も池もあってもいいんじゃないかい?」

「そこは大丈夫だと思います」


 田んぼへの導水や、川の輸送や漁業権みたいな物は争いの素になり易いが、この川は上流も下流もどこに繋がっているのかわからないので、迷惑が掛かる事は無いだろう。


「おお! 兄上、魚がいっぱいいます!」

「こいつは、どうなってんだい?」


 池の中で動かない魚を見て、頼華ちゃんは素直に喜んでいるが、おりょうさんは魚種がイワナだと気がついたからか、近づいても逃げない事への異常を感じているようだ。


「どういう訳か、逃げないんですよね。手掴みで捕れますよ」

「本当ですか? よーし……」


 俺の話を聞いて、頼華ちゃんが腕捲りしながら池に近づく。


「良太。確かに動かないけど、幾ら何でも手掴みは……」


 藤沢の正恒さんの家の裏の川でも、おりょうさんは見事な釣りの腕前を見せてくれたので、イワナが警戒心の強い魚だというのは知っているのだろう。


「むっ! っとと……兄上! 姉上! やりました!」

「!? ほ、本当に掴み取りしちまったのかい!?」


 驚くおりょうさんの目の前で、三十センチ程のイワナを頼華ちゃんが両手で捕まえた。


「頼華ちゃん。今日は食べないから、逃してあげな」

「はい!」

「あ、弱っちゃうからそっとね?」

「はい! そっと……」


 頼華ちゃんは俺の言う事を聞いて、イワナを捕まえたままの手をそっと水の中に入れ、掴んでいた手を緩めた。


「ほんと驚いたねぇ。イワナなんて、釣るのも難しいのに……」

「人を警戒していないのか、そこの池の居心地がいいのかはわかりませんけど、逃げませんよね」


 俺の時もそうだったが、頼華ちゃんに捕まえられていたイワナも、放されたところの近くの水中で、逃げずにじっとしている。


「まだ川の方では釣りとかをしていないので、今度何が釣れるか試してみましょう」

「釣りはいいけど、道具が無いだろう?」

「針だけですけど作っておきました」


 俺はおりょうさんに、まだハリスも結びつけていない釣り針を見せた。


「糸は良太が作ってくれるから、これなら竿があれば釣りが出来るねぇ」

「姉上! 余はまだ釣りをした事がありません!」

「おや、そうかい?」

「あれ、そうだったっけ?」


 鎌倉という海沿いで育っているし、家の裏に川のある正恒さんのところへ遊びに行っていたので、頼華ちゃんは釣りの経験者だとばかり思っていた。


(頼華ちゃんの場合は、釣りよりも手っ取り早い方法を取りそうだな……)


 実際にそんな事をやったのかはわからないが、抜き放った薄緑で水面を打って、魚を気絶させて得意になっている頼華ちゃんの姿が浮かんでしまった。


「頼華ちゃんは、虫やミミズは平気なのかい?」

「進んで触る気は無いですが、特に苦手という事もありません!」

「なら大丈夫かねぇ。釣りには虫やミミズを餌に使うんだよ」


 おりょうさんの言うように、餌の問題がハードルになって、釣りを敬遠する人は少なくない。


(里の子供達は問題無いだろうけど……毛鉤とかも作っておくか?)


 元々は蜘蛛だった里の子供達は、虫でも小動物でも捕食していただろうから大丈夫だと思うが、餌を付ける必要の無い毛鉤は、あれば便利かもしれない。


 毛鉤の材料は糸と鳥の羽くらいなので、上手く出来るかはわからないが、時間が取れたら試しに作ろうと思う。


「この池は広さも深さもそこそこあるし、水も綺麗だねぇ」

「そうですね。水場が混み合っても、この池や川の水も利用出来ると思います」


 池と川の水は飲料水にするには一度沸かした方がいいと思うが、洗濯や子供達が水遊びをするのに問題が無い程度には綺麗だ。


「ところで、おりょうさんは釣り竿を作れますか?」


 竹をそのまま使えばいいのかもしれないが、作れるのならそれに越した事は無い。


「本格的には知らないけど、そこそこ使える程度のなら作れるよ」

「ほんとですか!? じゃあ余に作って下さい!」

「おや。じゃあちっとばかし気合を入れようかねぇ」


 瞳を輝かせる頼華ちゃんを見つめながら、おりょうさんが目を細める。


「竿を作るのに簡単な道具が要るから、木が手に入ったら良太にお願いするよ」

「わかりました」


 安請け合いは不味いかもしれないが、おりょうさんが簡単なと言っているので、それ程難しい物では無いと信じよう。


「それじゃ次は、俺は寮って呼んでいる、子供達の家に案内しますね」

「嫌でも目に入るから気になってたんだよ」

「大きいですよね!」

「ははは……」


 どうやらおりょうさんも頼華ちゃんも、大きな三階建ての寮が視界には入っていたが、意図的に話題には出さなかったようだ。



「……椿屋さん程じゃ無いけれど、大きいねぇ」


 おりょうさんは伊勢の丘陵地帯に張り付くように建てられていた、妓楼の椿屋と比較しているようだが、大きさはともかく飾り気が全く無いので、正直かなり見劣りがすると思う。


「縦にも横にも大きいです」


 寮の入り口に立つと、おりょうさんと頼華ちゃんは上の方を見上げながら呟いた。


「とりあえず中に入りましょう。と言っても、どの部屋も同じ作りで、空っぽなんですけどね」

「そいじゃ行こうかね」

「はい!」


 各自靴を脱いで共用の玄関を上がって、俺達は入ってすぐ右手にある部屋の扉を開けた。


「新築の木の匂いがするねぇ」


 おりょうさんの言う通り、四方が木で造られているので、部屋の中には木の香りが漂っている。


「結構広いですね!」


 部屋の奥まで行って、頼華ちゃんが両手を広げる。


「まだ何も荷物が無いからね」

「でも、寝具と葛籠(つづら)でもあれば十分だろう?」

「まあ、そうなんですけど……」


 一度に全員分は無理かもしれないが、押し入れも無い部屋なので箪笥や棚、机程度は各部屋に配置出来ればと思う。


「おりょうさん、なんか寮に必要そうな物って思いつきます?」

「そうだねぇ……湯屋みたいな下足箱が、入り口にあってもいいんじゃないかい?」

「ああ、そうですね」


 湯屋のような鍵付きの物では無くていいだろうけど、下足箱を用意しておけば、玄関が雑然とする事も無いだろうし、履き物を各自に管理させる事も出来る。


「あと、寮にって訳じゃ無いんだけど、布団や洗濯物を干す場所が要るんじゃないかい?」

「あっ! そ、それは考えていませんでした……」


 各部屋の窓は開くので、布団は各自の部屋で干させればいいと思うが、洗濯物を干す場所は考えていなかった。


「寮の前にでも物干し場を作りますね。雨の時の為に、室内物干し場も作っとこうかな……」


 現状、里の子供の人数よりも寮の部屋の数は多いので、空き部屋を倉庫と物干しに使えばいいかもしれない。


(物によっては重そうだから、倉庫は一階にして、物干し場は日当たりを考えると三階かな?)


 子供達に紬と玄を入れると総勢二十二人なので、三部屋余る。一階の一部屋を倉庫にして、三階の二部屋を壁を取り払って大きな一部屋にして、物干し部屋にするというのが良さそうだ。


「ああ、そいつはいいねぇ。洗濯は階層ごととかで順番にすれば、洗い場も物干しも混み合わないじゃないかい?」

「それ、いいですね! さすがはおりょうさん」

「よ、よしとくれよぉ……」 


 洗い場が広いとはいっても、ローテーションを決めておくとかしなければ混み合うのは必至だ。


 そして洗う事が出来たとしても、今度は物干し場の争奪戦が発生してしまうだろう。


「やっぱり大雑把に作っただけだと、粗がいっぱい出てきちゃいますね。おりょうさんに指摘して貰って良かったですよ」

「さすがは姉上です!」

「も、もぉ……」


 俺と頼華ちゃんの称賛を受けて、おりょうさんが真っ赤になっている。


「っと、そろそろ暗くなってきたから、その前に風呂に案内しますね」

「楽しみにしていました! 行きましょう姉上!」

「あっ! ら、頼華ちゃん、そんなに慌てなくても……」


 今度はおりょうさんが、俺と頼華ちゃんに腕を取られて風呂に連行、では無く、案内される番になった。



「遠目に湯気が見えてたけど、近くで見れば随分と立派な風呂じゃないか」


 靴を脱いで上がった脱衣所から中を見て、おりょうさんがうずうずと身体を揺すっている。どうやらすぐにでも入りたいみたいだ。


「でも、まだ壁が無いんですよね。資材が来たら竹垣を作るつもりですけど」

「竹垣とはまた、風流だねぇ」

「兄上! 早く入りましょう!」


 おりょうさんだけでは無く、頼華ちゃんも早く入りたくてうずうずしているみたいだ。


「じゃあお先に二人でどうぞ」

「「えっ!?」」

「……なんでそんなに驚いてるんですか?」


 里には三人しかいないので、おりょうさんも頼華ちゃんも、俺が一緒に入るのだと思っていたようだ。


「だ、だって、子供達が里に戻ってきたら、もう一緒に入る機会なんか無いんじゃないかって……」

「子供達が戻ってきたら、兄上は男湯の面倒を見るのに忙殺されるに決まってます!」

「あー……」


 洗い場を走り回ったり、湯船で泳いだりするのを注意しながら、順番に洗って貰うのを待っている子供達を、流れ作業で片付けている自分の姿が頭に浮かんだ。


「まあ、そうなるのかなぁ……でも、風呂に入る前に、頼華ちゃんの要望の肉を焼く支度もあるし」

「うっ! あ、兄上との入浴の為なら、肉は我慢します!」

「そこまでしなくても……」


 食欲を抑えつけてまで混浴を熱望されると、嬉しい半面、怖い物も感じてしまう。


「肉の下拵えはすぐ終わるから、のんびり待っててくれればいいよ」


 これ以上固辞すると雰囲気が悪くなるかもしれないので、少しタイミングをずらして、ちょっとだけ二人と一緒の入浴時間を作る事にした。


「頼華ちゃん、良太がこう言ってるんだから、先に入って綺麗にして待ってようかねぇ」

「わかりました! 姉上、お背中お流しします!」

「おや、そりゃ嬉しいねぇ」

「あ、これ。良かったら使って下さい」


 俺は用意しておいた、タオルとハンドタオル代わりの大小の布と、パジャマ代わりの貫頭衣タイプの服を二人に渡した。

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