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純鉄

「こんなもんかな……」


 夕食用の料理を作り終えた俺は、皿や鍋をドラウプニールに仕舞って一息ついた。


「ついに香辛料が無くなったな……」


 現在の里には住民がいないので、誰憚る事無くミックスした香辛料と唐辛子を炒める作業を行ったのだが、伊勢で大分使った事もあって、江戸の薬種問屋の長崎屋で買い込んだ物を粗方使い切ってしまった。唐辛子と胡椒だけは、まだまだあるが。


「京に売ってるところがあるかな……それとも足を伸ばして、大坂に買い出しに行くか?」


 長崎屋の廻船は、長崎から江戸に向かう途中に必ず大坂には寄港するみたいなので、多分だが大坂にも支店のような物があるのだろう。


 もしかしたら店舗は無くて出張所のような物しか無いかも知れないが、陸でも海でも流通の要衝である大坂なら、長崎屋以外でも香辛料を扱っているかもしれない。


「軽く京で探して、無ければ大坂か、江戸にお使いに行って貰おうかな……」


 ポンプの調達の件もあるし、ブルムさんの事を江戸のドランさんに伝えておいた方がいい気もするので、近い内に俺か黒ちゃんか白ちゃんが江戸に行く事になるだろう。


「……まだ時間があるな」


 調理に要したのは一時間くらいなので、黒ちゃんと白ちゃんが京の池田屋に到着してからすぐにここに向かったとしても、おりょうさんと頼華ちゃんが来るまでに、まだ到着するまでに一時間以上は掛かるだろう。


「あ。そういえば試したい事があったんだっけ」


 レンノールにパンの焼き方を教わる予定で石窯を設置したのだが、元になる酵母の培養を出来るかどうか試そうと考えていたのを思い出した。


「今日の材料の中で使えそうなのは……確か人参は大丈夫だったな」


 リンゴと人参からは比較的容易に天然酵母を培養出来ると、ネットや本なんかで言われていたのを覚えている。


「人参を擦り下ろして……砂糖も入れておいた方がいいか?」


 基本的には水と擦り下ろした人参だけで大丈夫なはずだが、酵母の栄養源が多い方が発酵が促進されるはずなので、権能で熱消毒した小さな壺に全ての材料を入れて、密に織り上げた蜘蛛の糸の布を被せ、きっちりと蓋をする。


 これで一日に一回くらい蓋を開けて軽く撹拌すれば、上手く行けば数日でパンの種に使える天然酵母が出来上がるはずだ。


 しかし文字通りの天然の酵母なので、機嫌を損ねて培養が進まなかったり、他の菌が増殖して発酵では無く腐敗してしまう事も考えられる。


 念の為に壺の中に(エーテル)を送り込んで、上手く行く事を祈りながら厨房の窓際に置いておく。


「っと、上手く行くかわからないけど、これも試してみるか……」


 薄い綿状に織り上げた蜘蛛の糸の布を用意して水で濡らし、硬いので切り落とした人参の葉の付いている部分、じゃが芋の欠片、赤茄子(トマト)の種、大豆、玉蜀黍(とうもろこし)を、感覚を開けて並べる。畑で栽培する苗になるかどうかの実験だ。


 農業知識には乏しいので、季節的に適しているのかもわからない。なんとなくこの辺の野菜とかは、晩夏から秋頃に収穫だったよな? 程度の考えだ。 


 大豆と玉蜀黍(とうもろこし)に関しては乾物なので発芽しない可能性も高いのだが、駄目なら駄目で京で他の野菜の苗や種を買ってきても良い。


(上手く育ったらラッキー、くらいでいいよね)


 天然酵母と同じく、おまじないに代わりに野菜や種に(エーテル)送り込んで、厨房の入り口脇の地面に置いておく。



 厨房での作業を終えた俺は、新たに設置した小川に向かった。


「これは……手掴みでも捕れそうだな」


 小川に隣接して設置した池には、何十匹もの魚が群れを成してじっとしていた。


(休憩でもしてるのかな?)


 少し気配を消し気味にしているのもあるが、池の中の魚は近づいても逃げようとはしない。


「よっ、と」


 遊び感覚で右手を行けに突っ込み、イワナだと思われる魚を掴み取った


「おお……活きがいいな」


 池の中で身を潜めるようにじっとしていた魚は、俺が掴み上げると激しく魚体を震わせた。


(今日の夕食はもう決まっているからな……)


 このまま捌いてしまってもいいのだが、今夜のメニューは既に決まっているので逃がす事にした。


「悪かったな。ほい」


 魚に謝りながら出来るだけ丁寧に池の中に戻し、そっと開放すると、少し泳いだところでまた身動きをしなくなった。どうやら池は魚にとって居心地が良いみたいだ。


「おっと。魚を捕まえる為に来たんじゃ無かったな……」


 魚を捕まえる事に意識が行っていたが、当初の目的を思い出して池を通り越して河原に歩いた。



「えーっと……こんなもんでいいかな?」


 作業に使う為の平たい石を拾い上げてドラウプニールに仕舞うと、俺は小川の中に足を踏み入れた。


「かなり冷たい……イワナが棲んでる訳だよな」


 綺麗で水温の低い川じゃ無ければイワナは生息出来ないので、この小川は環境的に優れているのだろう。


(それにしたって、手掴み出来るってのはおかしいけどね……)


 イワナはかなり警戒心の強い魚なので、熟練者でも釣るのは難しいとされている。


「この辺でいいかな……」


 沢の中程まで歩いた俺は、水中の石を取り除いて細かな砂利と砂が溜まっている川底を露出させた。


「……」


 ドラウプニールを弾いて回転させ、意識を集中して川底に堆積している土砂の中から、鉄だけを集めるイメージをする。


(元素を集めるイメージっていうのも、難しい物があるよな……)


 周囲から(エーテル)を集めている時のように身体が光ったりはしないが、手首から浮き上がったドラウプニール回転し続けている。


「おお?」


 すると、ドラウプニールを嵌めた左の手の平の中で、鉄と思われる金属の結晶が出来上がり、徐々に大きさを増して行っている。


「上手く行ったみたいだな……」


 日本には鉄の鉱山が多くないので、古来から川底に堆積した砂鉄を集め、たたら吹きで鉄を精錬していた。


 生息している魚種からかなり上流域だとは思ったのだが、どうやらこの辺りでも砂鉄が堆積していて、ドラウプニールによる抽出が上手く行ったようだ。


 もっと川の下流域の方が堆積している砂鉄も多いんじゃないかと思うが、目立ちたくないし、もしかしたら砂鉄を採集する縄張りみたいな物もあるかもしれない。


「とりあえずはこれくらいでいいか」


 左の手の平には、既に小玉スイカくらいの大きさにまでなった、鉄の塊が載っている。


「……これって純鉄になるのかな?」


 重量が約十キロ程度と思われる丸い金属の塊は、一般的な鉄のイメージの鈍色では無く、白っぽい銀色に輝いている。


 たたら吹きなどとは違う方法で精錬したので、もしかしたら不純物を全く含まない純鉄になっているのかもしれない。


 純金と同じで、純度百パーセントの鉄というのは現代の技術でも精錬出来ない。


 出来ないので実証も出来ないのだが、理論上は酸化に結びつく不純物が混入していないので、純鉄は錆びないという特性を持っている、はずだ。


 他にも、意図的に他の元素を混入して強度や特性を高めたりする鉄が、純鉄の場合に硬度や靭性がどうなるのかも不明だったりする。


「まあ鉄は鉄だろうから、いいか……タダだし」


 俺は自分に言い聞かせながら川の中から河原まで歩き、適当な石の上に腰を下ろした。


「先ずは、っと……」


 ドラウプニールを操作して腰にセットした巴を抜き、手の平の上の鉄を一センチ厚くらいに切っていく。


 球形の鉄を切ったので、場所によって大きさの違う物が出来上がった訳だが、中心寄りのの大きな物を五個だけ残して、他は一度ドラウプニールに仕舞った。


「んー……これなら五本ずつくらい取れるかな?」


 輪切りになっている鉄を、今度は同じくらいの面積になるように細さを変えて切り離した。


「ここを、こうして……」


 片方の端に、巴で縦に三センチくらいの切り込みを三箇所入れ、さっき確保しておいた平たい石を取り出して台にして、切れ込みの周囲を金槌で叩いて平たくしてから、更に少し湾曲するように加工し、残りの部分は細長く打ち延ばしていく。


「出来た……かな?」


 表面がザラつき、少し歪んでいるが、鉄製の四叉のフォークっぽい物が二十五本出来上がった。微調整して磨けば、それなりには使えそうだ。


「次だな……」


 今度は一片が四センチ四方くらいになるように鉄を切り離し、打ち延ばして成形して(やじり)を作った。出来上がった数は三十個程だ。


 形状が適当だし、実際に使ってみないと強度とかはわからないが、矢羽だけをつけた矢よりはマシだろう。

 これでレンノールに依頼してある合成弓(コンポジットボウ)と矢が出来上がってきたら、すぐに使えるようになった。


「残りで……」


 僅かに残った鉄を叩いて針金のように細長く成形し、先端を曲げて切り離すという作業を繰り返す。仕上げに磨いて先端を尖らせれば、釣り針の出来上がりだ。


 釣り針の大きさは、さっき掴み取りしたイワナのサイズに合わせて作った。端材からだが釣り針は小さいので、最終的に二十個程出来上がった。


「これで竹竿でもあれば、釣りの準備は万端だな」


 俺や里の子供達は、竿など無くても糸を出して針をつければいいのだが、この辺は気分的な問題だ。



 川原の石で軽く磨いてから砥石で仕上げたフォーク、鏃、釣り針をドラウプニールに仕舞った俺は、次に金貨を四枚取り出した。


「お金でこういう事をするとバチが当たったりするのかもしれないけど……ふん!」


 フォークなどを作るのに台にしていた石の上に置いた金貨に、俺は思い切って金槌を振り下ろした。気合を入れるために少し呼気を強めたが、叩き方はごく軽めだ。


「……こんなもんか」


 少しずつ回しながら金槌で叩いた金貨は、元の数倍の大きさの円形に薄く打ち延ばされた。


 同じように金貨を打ち延ばした物を全部で四つ作り出し、作業に使っていた金槌を仕舞って、入れ替わりに墨と筆を取り出した。


 打ち延ばした金の板にそれぞれの神様の象徴を刻んで、御神体にしようと考えたのだ。


「……」


 精神を集中して、手に持った筆と、打ち延ばした金の板に気合と(エーテル)を込めて、先ずは観世音菩薩様の梵字「サ」を書き入れる。


「ふぅー……」


 集中しているので精神的な消耗が激しいが、作業を続ける。


 八幡神(やはたがみ)様を象徴する陰陽太極図を書き込み終えると、続けてドラウプニールに刻まれているフレイヤ様のルーンを書き込む。


 天照坐皇大御神(あまてらしますすめおおみかみ)様のマークみたいな物は知らないので、金の板にそのまま神名を書き込んだ。


 何も書かないで磨くだけにしておこうかとも思ったが、神道の祭壇に神名を書いて祀ってあったのを思い出したので、シンプルに文字を書き込む事にしたのだ。


「こういうのの正式な作法みたいなのは知らないけど、失礼な事はしていない……はずだ」


 祀る時の儀式とかが、もしかしたら必要なのかもしれないけど、こういうのは気持ちの問題だと自分に言い聞かせよう。



「……今日はここまでだな」


 神社なんかで狛犬が載っているような、胸の高さくらいの石組みの台の上に、両側と背面の壁を、これも石組みで作った祠を、コンストラクトモードを利用して設置した。


 屋根と正面の扉が無い状態なので、作ったばかりなのに見窄(みずぼ)らしく感じてしまうが、こればっかりは仕方が無い。


 北にフレイヤ様、東に天照坐皇大御神(あまてらしますすめおおみかみ)様、南に八幡神(やはたがみ)様、西に観世音菩薩様の祠を作り、それぞれに御神体代わりの金の板を安置して、この日の内にやろうと思った整備の作業は全て終了した。



「良太っ! って、ちょっと見ない間に、随分と様変わりしちまったねぇ……」

「兄上っ! って、余が里を出ている間に何がっ!?」


 里の整備作業を終えて、入浴に使うタオル代わりの布や寝間着をゲルの入口辺りに座って作っていると、おりょうさんと頼華ちゃんがやって来た。


 おりょうさんとは二日振り、頼華ちゃんとは一日振りの再会なので、二人共嬉しそうにしてくれて俺も嬉しい。


 しかし、俺に向かって駆け寄りつつあったおりょうさんは、呆れたように呟きながら里を見渡し、頼華ちゃんは何が起きたのかと、キョロキョロとあちこちに視線を彷徨わせている。


「里をどうしようかと考えていたら、神仏が力を貸してくれまして。それでつい……」


 誤魔化しても仕方が無いので、俺は立ち上がって二人を迎えながら、正直に話す事にした。


「黒と白から少しは聞いちゃいたけど……良かったじゃないか。ついって言うにはやり過ぎな気もするけどねぇ」

「さすがは兄上です!」


 黒ちゃんと白ちゃんからも、少しは説明を受けていたようだが、ここまで大規模に建物が出来たりしているとは、二人共思っていなかったようだ。


 だがその割には、神仏の助力があったという説明で、あっさりと納得してくれた。


「鎌倉で黒と白の件の時にも、神様が力を貸してくれたんだろう? だったら、また同じような事が起きても不思議じゃ無いさね」


 おりょうさんの言う通り、鎌倉では神様から夢でのお告げを受けたので、いち早く動いて被害の増加を防ぎ、白ちゃんの捕獲に至った。


「そうです! 兄上が正しい事をされているから、神仏も助力して下さったに違いありません!」


(なんというか……二人共素直過ぎない? 天使なの?)


 状況証拠的に俺が嘘をついていないというのはわかってくれると思うのだが、それにしたって説明を素直に受け入れてくれ過ぎな気はする。


「暗くなる前に、少し里の中を案内しておくれよ」

「余も、何が出来ているのか気になります!」


 見た範囲以外の里の事も知りたいみたいで、二人から案内をせがまれた。


「そうですね。じゃあちょっと案内しましょうか」

「「うんっ!」」


 おりょうさんと頼華ちゃんが、まるで申し合わせたかのように、両側から俺の腕を取った。


「お、おりょうさん!? 頼華ちゃん!?」

「さ。行こうか♪」

「兄上、早く♪」

「……」


(ま、いいか……)


 二人が御機嫌な様子なので腕を取られたまま歩き出すと、俺に合わせておりょうさんと頼華ちゃんも歩き始めた。


「……」


 両腕を封じられているので、照れ隠しに頭を掻く事も出来ないのには困ってしまう。



「厨房です。身体を屈めないでも火の番を出来るようにしました」


 先ずは水場の近くに設置した厨房へ二人を案内した。


「成る程ねぇ。少し位置が高いから、子供用の踏み台でも用意しておいた方が良さそうだねぇ」

「あ! そ、そうですね」


 火の番や、立ったままでの調理がし易いという点ばかり考えていて、里の子供達が小柄だというところが抜けていた。


 力があるので思い鍋や釜を持ち上げたりするのは苦にしないだろうけど、おりょうさんの言う通り、踏み台とかは必要そうだ。


「良い指摘をしてくれて、ありがとうございます」

「そ、そんな水臭い言い方、よしとくれよぉ……」


 実際に子供達が調理を始める前に気がついてくれたので、本当にありがたかったからお礼を言っただけなんだが、おりょうさんは戸惑ったようなで表情で頬を染めている。


「こ、この水回りはいいね! 洗い物が楽そうだよ!」


 照れ隠しなのか、おりょうさんは厨房内を指さしながら声を上ずらせている。


「兄上、この四角く開けられている部分は何に使うのですか?」


 頼華ちゃんが竈の一角を指差しながら訊いてきた。


「そこは石窯って言って、外国で主食にしてる麦を捏ねたパンって食べ物を焼いたり、肉とかを蒸し焼きにしたりするのに使うんだ」

「パンというのは良くわかりませんが、普通に焼くのとこれを使うのでは、肉の味とかが違うのですか?」


 肉を焼くのにこんな大袈裟な物が必要なのかと、頼華ちゃんが思うのも無理はない。


「肉は焼き過ぎると固くなるんだけど、直に火が当たらない石窯だとじっくり熱を通せるから、表面の焼き具合が鍋とか直火と同じでも、固くならずにおいしさも逃さないんだよ」


 焙烙という鍋で、オーブンのように輻射熱を利用して蒸し焼きにする調理法はこっちの世界にもあるはずだが、多分だけど頼華ちゃんは知らないのだろう。


(焙烙を使って作るのも、肉じゃなくて魚だけだろうしなぁ……)


 魚でも焙烙を使うとふっくらと焼き上がるのだが、肉汁が封じ込められたオーブン焼き程には、差が感じられないかもしれない。


「おお、それは素晴らしいですねっ! では今夜は早速!?」


 これ以上無いってくらいの期待を込めた視線を、頼華ちゃんが送ってくる。


「食べたいなら作るけど、今夜は咖喱(カレー)の予定だよ。猪の揚げたのを添えたやつ」


 肉は猪でも鹿でも手持ちと冷凍庫に仕舞った分を合わせると売る程あるし、塩と胡椒で味付けしたら焼き上がるまで放っておけばいいだけなので調理は楽だ。


「くっ! 石窯の料理も食べたいですが、咖喱(カレー)と来るのでしたら、他の物を食べる余地など……」

「……また起き上がれなくなる程食べる気?」


 大食い出来るのは健康な証拠だし、頼華ちゃんは育ち盛りなのであまり制限はしたくないのだが、咖喱(カレー)乳酪(バター)を使った料理になるとブレーキが効かなくなるのは困った物だ。


咖喱(カレー)もいつもとは少し違う感じにしてあるけど、それでも焼いた肉も食べたい?」

「頼華ちゃん。肉はいつでも食べられるから、今度にしといたらどうだい?」

「う、うぅー……」


 俺とおりょうさんが諭すが、心の中で己の食欲と戦っているらしい頼華ちゃんは、すぐには答えが出せないようだ。


「ふむ……咖喱(カレー)に載せる猪の揚げたのを、少し焼いた肉に変えようか?」


 新しい料理を食べたいという頼華ちゃんの気持ちもわからなくもないので、俺は妥協案を提示した。


「い、いいのですか!?」

「まあ、いいですよね?」


 俺は既にロースト肉を、頼華ちゃんに作ってあげる気になっているのだが、一応、おりょうさんにも確認を入れる。


「それくらいなら……でも、お代わりは二回までにしとくんだよ?」


(二回までならいいのかなぁ……)


 頼華ちゃんの体格からすると、三皿の咖喱(カレー)は結構な量だと思うのだが、この辺はおりょうさんの優しさだろう。


「うぐっ! わ、わかりました!」


 多少不満のありそうな様子の頼華ちゃんだが、元気良く返事をした。


「ならいいよ」


 そんな頼華ちゃんに、おりょうさんは慈愛の籠もった笑顔を向ける。


(じゃあ俺は、少し盛りを多くしてあげようかな)


 なんだかんだで、俺もおりょうさんも、妹分の頼華ちゃんには甘いのだ。



「ところで良太。厨房の水回りは使い易いみたいだけど、水場の周囲は元のままかい?」

「ええ。それが何か?」


 風呂の湯の問題が無くなったので、厨房への導水以外は水場の周辺には手を加えていない。


「食器類はここで洗えばいいんだろうけど、洗濯なんかに使うには、あの水場だとどうかと思ってたんだけどねぇ」

「あー……」


 抉れた大岩に水が湧いて溜まっているのが現在の水場なのだが、洗濯をするには桶に汲んだりしないと、飲料水を汚してしまう事になる。


「今の水が溜まっている場所の脇に、もう一つ層を設ければ使い易くなりますかね?」


 水の湧出量は多いので、厨房以外に導水しても問題は起きないだろう。


「ああ。出来れば更に、もう一層あるといいねぇ」

「それは、どうしてですか?」


 飲料用と洗濯ように分ければ、それでいいような気もするのだが、おりょうさんには何か考えがあるらしい。


「別にどうしてもってんじゃ無いんだけど、一番上が飲料用、次に野菜なんかを洗ったり冷やしたりするのに使う層、最後が洗濯とか、道具の泥汚れなんかを洗う層ってなってたら、便利かなって思ったんだよ」

「成る程……」


 おりょうさんに言われて、元の世界の湧き水の豊富な場所で、そういった使い方をしているというのを、テレビで観たのを思い出した。


(飲料用以外の層が、夏の子供の遊び場になってるところもあったな……里なら川で遊べばいいんだけど)


 遊び場はともかく、食べ物を洗う場所と洗濯の場所を分けておくのは、衛生的にも気分的にも良さそうだ。


「んー……こんな感じでいいですかね?」


 幸いな事に石材はまだまだあるので、俺はコンストラクトモードで水場の下側に、真ん中で仕切りがされている石造りの水槽を造って、水が流れ込むようにした。


「「!?」」

「あ……」


 予告無しに水槽を造ったので、突然出現した構築物を目にしたおりょうさんと頼華ちゃんは、目を見開いて息を呑んだ。  

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