↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

ザ・カース・オブ・日野橋

ハチオウジギアの世界観で起きる短編です。

日野橋にまつわる話その2


隔週日曜日20時に更新。作成状況によっては不定期になります。

※ハチオウジギア、ハチオウジ鬼譚と同じ世界観で起きる出来事です。独立して読めます。

ページ下部にも関連作品リンクあります。



◆



 二〇一五年に発生した日本大災害。


 この影響で多摩川に架かる日野橋は崩落した。再建には日野区の公共芸術として約一千万個の特注ブロックを現地手作業で積む異例の工法を採用。通行は全て隣に建設された仮橋が担っている。


 二〇三八年、朝四時の多摩川河川敷。街灯の灯りが小さくブロックが積まれているだけで未だ形になっていない日野橋を照らす。ひんやりとした空気が辺りを満たしている。


 日野橋跡地の近くにある護岸ブロック。その縁に腰を落とした四人の学生服の少年たちが座っている。

 四人ともゲームセンター、カラオケの徹夜明けで眼も据わっていた。


「何度思い返しても、あのセンコームカつくな! 俺の携帯端末没収しやがって」


 金髪の少年、和山《わやま》タサオは高校の仲間とクダを巻いていた。


 金太《きんた》ラオが和山に缶ビールを差し出す。


「まだ足りないのか? 忘れちまおう、飲もうぜ」


「おう」


 和山が缶ビールを開けた「プシュッ」という音が合図みたいになり、そこから一気に場のテンションが上がる。


「和山の仇だ! あのセンコー殴ってやろうぜ」


 まるまると太った三河《みかわ》コンタロウが息巻く。隣にいた逆立てた髪の山田《やまだ》ナナオは咥え煙草で缶ビール片手に陽気に護岸ブロックを下りると葦の草むらに分け入った。「猛獣注意」と書かれた看板を蹴飛ばす。


「ああ! やっちまおう」


 山田が吸い終わった煙草を放って、足で火を消す。和山は仲間の言葉にささくれだった心が癒される。

 カン、ビールの空き缶が看板に当たった。


「ナイスショットすげーだろ?」


 三河が得意げに金太に自慢している。金太がうんざりしたように呟く。


「そう言えば知ってっか? 最近、この河川敷で変な噂があるんだ」


「噂? 何もないのに光が動くっていう?」


 和山は尋ねた。


「そうそう、この辺で死亡事故が多いだろ。UFOによるものらしいぞ。空からターゲットを照らして殺してるんだとよ」


「UFO? 宇宙人がやってるってか? バカバカしいな! だったらあのセンコーをやってくれよ」


 和山は笑い飛ばして、缶ビールを握り潰す。心がスッキリした。潰した缶をそのまま護岸ブロックに置く。


「おーい! おもしれーもんあるぞ」


 山田が草むらから呼びかけると和山たちは護岸ブロックを下りて近づいた。


 前を歩く金太が飲み終わった缶を川に目掛けて投げた。ブロックに当たったのか遠くでカン、と音がなる。


 和山と他の二人は山田の指差す方に視線を向けた。泥で汚れたショットガンが捨ててある。


「すごいな」


 山田が草むらに半ば埋もれたショットガンを拾い上げる。


 和山は身を乗りだし観察した。銃身は泥で汚れ、機関部の隙間にも土が詰まっている。使えるかどうかは分からない。


『じょうだんじゃねぇ……』


 低く呻くような声が聞こえた。


「なんか聞こえたよな?」


 三河が辺りを見回す。和山も周りを見るが街灯の薄い灯りに照らされた草むらと暗闇、川の流れる音しかしない。しかし、声が聞こえたのは確かだ。


『せいそぉぉぉぉぉぉぉぉぉ』


 再び声が聞こえた。


「あれなんだ?」


 和山は草むらの奥を指差す。丈の高い葦の草むらがポーッとぼんやりと光っている。


 ヘリの明かりか? 和山は上を見るが何もない。どちらかと言うと下から上に照らしているように見える。


 薄ぼんやりとした光が蛇行しながら、近づいてきた。


「誰か懐中電灯でも持ってんのか?」


 山田がショットガンを肩に担いだまま笑う。


「いや、おかしいぞ」


 和山は懐中電灯にしては違和感を感じていた。明かりは上下に揺れているのではない。地面そのものを滑るように移動している。


 光が葦を縫ってこちらにどんどん近づいてきた。和山と他の三人は固唾を飲んで光を見つめる。


 草むらがざわざわと揺れる。


「なんだあれ……?」


 和山は目を凝らした。


 葦が左右へかき分けられ、光が見えた。光からぬらりと何かが現れる。


 光の正体が見えた瞬間、背筋が冷えた。 


 青い鉢巻を締めた老人の顔だった。


 地面から顔だけが生えている。皺に包まれた顔がポーッと光っていた。


 首も胴体もない。土の中に埋まったまま、顔面だけを夜空へ向けている。


 閉じられた瞼。深い皺。半開きの口。


『はるとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ』


 老人の口が動いた。


 和山の足は凍りつき動けない。横目に映る三人も硬直していた。冷えた汗が流れる。


 老人の顔はさらに近づいた。そして閉じていた目をゆっくりと開いた。生気のない眼がこちらを見つめる。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 山田が叫び声を上げて駆け出した。すると顔が駆け出した山田を猛追。和山は立ち尽くしたまま、見ていることしかできない。心臓がバクバクと音を立てる。


 老人が突然、口を大きく開いた。顎が裂けるように開き、真っ黒な口腔が露わになる。


 そこから黒く日焼けした手が二本、合掌の形でニュッと突き出した。さらに口から双頭の蛇のように腕が伸びるとあっ、という間に山田の足首を捉えた。


「ひっ」


 山田はその場に固定された。さらにもう一本の腕が彼に迫る。ショットガンを振りまわす。老人の腕に当たるが陽炎と共に弾かれた。何度もぶつかるが腕が舞い戻る。


「逃げろ!」


 三河が叫んだことで、ようやく硬直から自由になった。三河を先頭に金太、和山と続いた。


 走っていると横目に山田が足を持たれたまま、逆さまに宙吊りになるのが見えた。もう一本の腕が伸びて今度は彼の首を掴んだ。


『はるとぉぉぉのためぇきぃぃれぇぇぇぇぇいぃぃぃ』


 ゴキィ、山田の首から鈍い音がした。彼は壊れた人形のように逆さまに地面に落ちる。


 あまりの光景に走りながら、目をつぶった。足が縺れる。


「うわっ」


 そのまま躓いて盛大に転んだ。うつ伏せのまま、三河と金太の駆ける後ろ姿を見ることしかできない。


「待って!?」


 その時、光が再びこちらに接近する。真っすぐに三河と金太に向かっている。


「三河! 金太! 危ない!」


 思わず叫ぶが老人の長い腕が伸びて三河の首に幾重にも巻き付く。


「ぎぁ」


 三河の首があらぬ方を向く。金太が立ち尽くす。


『はるとぉぉぉまってぇぇぇてなぁぁぁ』


 金太が振り向いて助けを求めるようにこちらに走ってきた。


「助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」


「金太!?」


 和山が息を飲んだ。金太の背後から空中に伸びた腕が迫っていた。もう一本の腕は舞い上がり、三河が空中でぶらぶらと揺れている。


 背後から腕が迫ると手のひらを大きく広げ、金太の頭を鷲掴みにした。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 がっちりと頭を掴まれながら、彼の首が強制的に横に拗じられていく。


「けぇ?」


 グキギギギ、首が直角を向き、さらに拗じられていく。


『なぁすぅくぅんきぃようもぉきぃぃれぇぇぇぇぇいぃぃぃにしよぉぉぉぉな』


 金太の首がぐるりと回り、こちらを向く。目玉が飛び出し、舌が出ていた。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 和山は叫んだ。倒れたまま何もできない。しゅるりと二人から二本の腕が離れ、無造作に草むらへと放り出した。


 二本の腕を振り回して光が和山を目指して殺到した。葦が次々とかき分けられて近づいてくる。葦がかき分けられて夜空を見あげる光る老人の顔が見えた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 口から生えた腕が二本、ぬらぬらと揺れている。


 老人の顔がはっきり見えた生気のない眼は何も見ていない。鉢巻が妙に青い。


 鼓動が激しくなり、和山は死を覚悟する。顔が目の前に迫る。


「!?」


 腕が口の中に戻る。老人はなぜか和山を迂回すると草むらに消えていった。


 和山はうつ伏せのままで呆然とした。助かった、でもなぜ? 


 あまりのことに思考がまわらない。ふと、何かに気づいて視線を向ける。


 東の空に日が昇り、薄い朝焼けが護岸ブロックの、自分が置いた空き缶に反射して光っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。