ザ・スキャンダル・オブ・つけ麺少将屋
ハチオウジギアの世界観で起きる短編です。
つけ麺 少将屋にまつわる話。
隔週日曜日20時に更新。作成状況によっては不定期になります。
※ハチオウジギア、ハチオウジ鬼譚と同じ世界観で起きる出来事です。独立して読めます。
ページ下部にも関連作品リンクあります。
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東京都台東区に本店がある「つけ麺 少将屋」。煮干しをきかせた魚介系のスープと極太の麺が絡むことで多くのファンを生み出した。しかし、店主である川端ジロウの死により弟子たちの内紛が発生。弟子たちは共に一番弟子である草野チヒコと畑山ギロウの二つの派閥が分かれて後継者の座を競いあうようになった。
後継者争いの末に畑山の派閥が優位に立ち、草野を追放。草野は本店から離れたハチオウジ市三鷹区に「元祖つけ麺 少将屋」を開店。畑山は本店を継いだ。
元点ナガオは畑山がオーナーを務める「つけ麺 少将屋本店」でバイトをしていた。元点は葱を切りながら隣をしきりに気にしている。隣では同僚の青森がつけ汁を入れたお椀を置き、麺を湯切りしていた。元点は葱を切っていた手を止めるとポケットに手を入れて何かを取り出した。
奥では彫りの深い顔をした畑山がバイトを怒鳴る声が聞こえる。
「お前らしっかりやれや! ぶち殺すぞ!」
「はい!」バイトが大声で返事をした。
カウンターは満員で客は皆一様に太麺を魚介スープにつけて口に運んでいる。スープと絡み合った麺が口に吸い込まれ、店内の各所で麺を啜る音が響いていた。
青森はおぼんに麺を盛った皿とつけ汁のどんぶりを載せるとカウンター越しに客に手渡している。隣では元点が葱を切り終わり、包丁を置こうとした時、手元が滑った。包丁が床に落ちて金属音が響いた。
「おい! 何やってんだよ!」
畑山が怒鳴りつけながら、つかつかと元点のもとに歩みよってきた。
「すみませんでした」
「このバカヤロー!」
畑山が怒鳴るとポケットからスタンガンを取り出した。畑山は失敗をしたバイトに制裁としてスタンガンを浴びせる罰を課している。スタンガンが元点の頬に押し付けられた。
「罰だ! 罰!」
「やめて……ギャァァァァァァァァァァァァ」
元点の顔面にスタンガンの電撃が襲いかかった。顔中に痺れるような痛みが駆け巡った。元点は床に崩れ落ちると顔面を抑えたまま、痛みで転がりまわった。
「ぐぐ……」
「おら、さっさと立て! 落とした包丁を拭け! バカ! 減給だ!」
畑山は身体をくの字に曲げて痛みに耐えている元点の脇腹に容赦なく蹴りを入れた。
「うわぁぁぁ、おえぇぇぇ、スープにカタツムリが入ってんぞ! ああー、三匹もぉ! おえっ」
客席からの怒声が聞こえた。畑山は元点への蹴りをやめて客席を睨みつけた。
「キャァァァァァァァァァァァァ」
「本当だ! なんだこの店は」
怒声を上げた客は箸でカタツムリをつけ汁からすくい上げて周囲に見せると客からの悲鳴が響いた。客はつけ麺を残したまま、次々と席を立っていく。
「嘘つくんじゃねぇ!」
畑山はカタツムリを見せつけている客に駆け寄った。元点は倒れたまま、畑山を見つめていた。
「嘘じゃねーよ! 見てみろ、食っちまったじゃねぇか!」
客がどんぶりを畑山に見せた。どんぶりの中にはたしかにカタツムリが三匹も浮いていた。それを見るなり畑山はスープの入った寸胴鍋に向かった。スープをかき回し何度もすくいあげるがカタツムリは見当たらない。
「こんな店、二度とくるか!」
大勢いた客が吐き捨てるように言った。いつの間にか満員だった店内は客一人を残して閑散としていた。
「誰があの客に提供した? 元点か?」
「ち……違います……青森さんですよ」
「青森、お前か?」
青森は顔面蒼白になっていた。青森は畑山の古い弟子であり畑山からの信頼も厚かった。
「てめえ、カタツムリが入ったことに気付かない訳ねぇよな? 最近、草野の嫌がらせが多いと思っていたが、てめぇ、草野のまわしもんか?」
「違います、私が鍋からスープを入れた時には何もありませんでした」
畑山は客をじろりと睨んだ。
「じゃあなんだ、客の私が入れたっていうのか? もう許さない! 今のやり取りは動画に撮ってるからな! 拡散してやる」
客はそう言うと店から出ていった。店内に重苦しい空気が流れた。倒れていた元点はシンクと床の隙間にポケットからケースを取り出して中身を振り撒いた。白い小さな丸い粒が広がっていく。
二週間後、開店前の店内。畑山がスープを黙々と作る前で元点は必死にカウンターを拭いていた。この二週間の間に畑山と青森の関係が悪化し、腕の良かった青森は退職した。それでも客はひっきりなしに訪れている。
元点はふと天井を見ると光る粘液の線が無数に付いていてその先には小さなカタツムリが這い回っていた。さらにステンレスキッチンの側面にも小さなカタツムリが複数蠢いていた。
「てめぇ! 何ニヤついてんだ! またスタンガンが……あっ? クソ! また、カタツムリがいやがる!」
畑山が怒鳴るのに元点は頭を下げた。畑山がカタツムリを踏み潰している隙に元点は携帯端末を取り出してカウンター越しに厨房にいるカタツムリを撮影した。
■
元点は仕事で疲れ果てて家の畳で携帯端末を操作していた。トイッターを開いて数日前にテンモという元点の裏垢でトイートした内容を見た。
テンモ『この前、少将屋に食べに行ったら厨房と床にカタツムリいた』
文章と合わせてカタツムリが天井とステンレスキッチンを這い回っている画像が投稿されている。紐づく形で次々とリトイートが増えていた。
『私も少将屋でカタツムリを見た』
『本当に汚い店だ』
『カタツムリなんて大したことない。チーギュウ街に比べたらこの店の方が綺麗だ』
『もうお店に行きません』
『そういえばこの店、前に店長がスタッフに暴力を振るっていたぞ。最低な店だ』
『カタツムリ少将』
『元祖つけ 麺少将屋の方が本店よりも味を継承してる』
リトイートの内容を見てニヤリと笑った。元点は携帯端末で電話番号を入力した。プルルルルル、呼び出し音が鳴り相手が出た。
『はい』
「元点です。やってやりましたよ。カタツムリの卵が孵化して順調に繁殖してます。青森がカタツムリで辞めさせた件もあったので順調に炎上してます。あいつのことです、ずぼらだからカタツムリが増えても対処しないんでもっと増えますよ、畑山の野郎が困る姿が目に浮かびますよ。あいつにずっと暴力を振るわれてきたから、本当にありがとうございました」
『良くやってくれましたね。では、ちょっと早いですが約束の金とうちの店舗で雇う手続きを進めるんから、一度会いましょう』
「ありがとうございます! これで本当に美味しいラーメンを作ることだけに集中できそうです。ありがとうございました、草野さん」
元点は電話越しにも関わらず頭を下げた。元点ナガオは少将屋の先代、川端の味に惚れ込んで畑山の店にバイトで入った。しかし、待っていたのは畑山の教育という名の暴力と暴言の嵐だった。そんなある日だ、元点に草野チヒコから接触があった。畑山の店を炎上させれば店の移籍と謝礼を払うという打診であり、元点は一つ返事で引き受けた。
「良かった……」
元点は開放されるように呟いた。これからはストレスなく仕事ができる、明るい未来が待っている、そう思って心が踊った。




