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伊東ズ・ファイアワークス・フェスティバル・イズ・フリーティング

ハチオウジギアの世界観で起きる短編です。

ライフウェーブ製薬の実験体にまつわる話。


隔週日曜日20時に更新。作成状況によっては不定期になります。

※ハチオウジギア、ハチオウジ鬼譚と同じ世界観で起きる出来事です。独立して読めます。

ページ下部にも関連作品リンクあります。



◆



 夜空へ垂直に火の玉が上がった。と次の瞬間、火の玉は弾けて円状に色とりどりの光が広がった。静岡県伊東の空に次々と花火が打ち上げられている。


『狂牛丼! 提供ー!』


 花火が打ち上げられる度に提供企業の名前が読み上げられていた。車道には大勢の見物客が座って観覧していた。歩道は移動通路になっており、所々に「歩道では立ち止まらないでください」という張り紙が掲示されている。


 歩道を女が携帯端末を掲げながら歩いている。女は半袖に短パンを履いていた。


 半袖の女は警備車両のフロントガラスに映る自らの顔を見る。茶髪で猿のような短髪、三十代に見えるが皺のない丸みを帯びた顔が映った。


 女の名前はスタンプ人間識別番号〇三六と呼ばれている。データ学習と成長速度を早めた生後五年のクローンだ。


 しかし、失敗作としてスペア利用か廃棄処分という情報を偶然耳にした瞬間、生き残る為に施設を脱走した。


 それから一年近くが過ぎ、チーギュウ街で偽りの身分を手に入れてからは各地を転々とし、現在は伊東に流れつきコンビニでバイトをしている。今日はバイトを休み、花火大会を見物に来ていた。


 再び、花火が打ち上がり、大きな音が谺した。


『マエダヤ! 提供ー!』


 美しい、今日実際に見る花火に〇三六は息を飲んだ。色とりどりの光の粒が拡散している。データでは知っていたが本物は別物だ。


「お姉ちゃん、花火綺麗だね」


 隣を歩いている母親に手を引かれた女の子がこちらを見あげた。


「そうだね」


「娘がすみませんね」


 母親が〇三六に頭を下げる。


「良いんですよ、本当に綺麗」


 女の子に微笑むと彼女はニッコリ頷いた。心がなぜか明るくなる。


 〇三六は感情があることに安心を抱く、感情のある一人の人間として生きてるのだ。


 親子が足早に立ち去ると〇三六は花火が良く見えるポイントを探しながら雑踏を進む。


『マイナ! 提供ー!』


 美しい花火が空に広がった。その時、〇三六は光に照らされた群衆の中に一瞬、殺気を放つ女を見た。


 刺客か? 〇三六は仕掛けてくるのを待つように歩道にある電信柱の前で立ち止まった。電信柱には「歩道では立ち止まらないでください」という張り紙があったが気にせずに携帯端末を掲げて自撮りをしてる振りをした。


 〇三六は自らに携帯端末のカメラを向けて左右に動かした。


『シンジン! 提供!』


 花火が打ち上がり、周囲が明るくなった。〇三六の背後にいる群衆の中に暗い眼をしたボブヘアの女が携帯端末の映像越しに一瞬映った。


 車道で座りながら花火を鑑賞している見物客がこちらを睨む。見物客が邪魔だと無言の圧力をかけてくるが、無視して自撮りを続けた。


『イコンクール! 提供!』


 花火が打ち上がり、周囲が明るくなった。


 携帯端末の映像越しにボブヘアの女が笑いながらサイレンサー付きの拳銃を構えていた。口元だけで顔の全体は見えない。


 パシュン、空気を切り裂く微かな音を聞き逃さなかった。銃弾が放たれたのだ。〇三六は弾道を見切って首を傾ける、背後の電信柱に着弾し穴が空いた。


 それを機に〇三六は携帯端末で自撮りしながら左手をショルダーバッグに入れているサイレンサー付きの拳銃を抜き出し、ボブヘアの女に向ける。


 万一の時を考えて闇市で購入した拳銃だ。


『オワラ! 提供!』


 花火が打ち上げられた瞬間、〇三六は引き金を引いた。パシュン、微かな音がしてショルダーバッグ越しに、銃弾がボブヘアの女に向かう。


 女はこちらと同じく首を傾けて躱すと、背後の看板に穴を穿つ。


 周りの人々はこの銃弾の応酬に花火や携帯端末、会話に夢中で気づいていない。


『ニヒャクナイ! 提供!』


 花火が打ち上げられる。


 パシュン、パシュン、〇三六とボブヘアの女は同時に引き金を引いた。銃口から火が吹く。


 僅かに身体を動かして銃弾を躱した。背後の鉄柵に火花が散る。女も身を翻す。土産物店の壁に穴が空き、木片が散る。


 立ち止まる〇三六に見物客が一様に批判の目を向けるも、彼女たちが静かな銃撃戦が繰り広げられていることに誰一人気づいてなかった。


 〇三六は人並みを縫うように銃弾を放つ。女も雑踏の隙間からこちらのみを狙う。相当の腕だ。


『ヒャクチョーアル! 提供!』


 花火が打ち上げられる。


 パシュン、パシュン、〇三六とボブヘアの女は同時に引き金を引いた。携帯端末で自撮りしているのを装うかのように身体を捻る。銃弾が虚空に消えた。


『プラス! 提供!』


 花火が打ち上げられる。


 パシュン、パシュン、〇三六とボブヘアの女は同時に引き金を引いた。頭を下げる。電信柱から小さな破片が飛び散った。


『ウソツイカオ! 提供!』


 花火が打ち上げられる。


 パシュン、〇三六の視界にお喋りに夢中な二人組の女子高生が飛び込んでくる。弾道上に彼女たちが重なる。


 危ない。少女たちを断ち割るように押しのけた。銃弾は空を切る。その時、パシュン、さらに繰り出された銃弾が〇三六の脇腹に突き刺さる。


「うっ」


 〇三六が呻くと女子高生二人は怪訝そうな顔を向けるが、再び笑顔で歩き出した。


 花火が途切れた。


 〇三六は脇腹を押さえながら、ようやく歩道を歩きだした。痛みを噛み殺す。


 ボブヘアの女も移動しているのを横目で確認。〇三六は車道に下りると座った群衆の間を進みながら暗くなった商店街へと向かった。脂汗が頬を伝う。


 暗い商店街に入る。既に店は閉まり、誰もおらず閑散としていた。


 〇三六は商店街の中程まで進んで振り返る。商店街の入口にボブヘアの女が立っていた。


「私を……殺しに来たの?」


 〇三六が言うとボブヘアの女が頭を振り乱した。


「話しかけてきた……ふぅんゆぅんかぃん、ふぅんゆぅんかぃん、不愉快」


 ブツブツと呟いていたボブヘアの女が突然、睨みつけてきた。


 女の顔を見て〇三六は驚きで目を見開いた。


 彼女の顔は〇三六と同じ顔をしている。その顔はライフウェーブ製薬ジャパンの代表、チルコ・オージカーターのクローン、自らと同じスタンプ人間の一人だ。


「見るなよぉぉぉー! 見るなよぉぉぉー!」


 女が銃口を向けた。〇三六も拳銃を構えようとする。脇腹の痛みで一瞬、遅れた。


パシュン


「ギャァ」


 女の銃弾が〇三六の左胸を抉った。さらに左手の拳銃を弾き飛ばす。


 〇三六はそのまま、後ろに倒れる。ゴボリ、血が口から溢れ出た。痛みで顔が苦痛に歪む。


 ボブヘアの女が足音を響かせながら近づいてきた。


 血を吐きながら女を睨みつける。


「ち……超人になれない失敗作お……なじ」


 血の塊を吐く。


「いずれ……消される……ざんね……ん」


 呼吸が荒くなる。痛みを噛み殺しながら呟いた。


 不思議と怒りはなく、虚しさが押し寄せてくる。


 ボブヘアの女が怒りで顔が真っ赤になり、頭を掻きむしる。


「見てほしくない奴が私を見るなぁ!」


 ボブヘアの女は〇三六の顔面に向けて拳銃を構えた。遠くから花火の音が聞こえる。花火を見れて良かった。


パシュン、パシュン、パシュン、パシュン


 乾いた音が聞こえた。痛みが消えて、暗闇に落ちる。



◆



 ボブヘアの女は〇三六の顔面に全弾を撃ち込んだ。顔が原型を留めない程破壊されて真っ赤になった。


 アスファルトの血の海が足元まで広がる。光に照らされて、破壊した顔と同じ顔が血に映る。


 髪を振り乱して、呼吸を整えた。


「フー、いつものことか、いつものこと、フー、フー、大丈夫、大丈夫」


 ボブヘアの女は自分を落ち着かせるように呟くと耳に付けた通信器から声が聞こえてきた。


『〇四五、良くやった。これから回収班を向かわせる』


 ライフウェーブ製薬のオペレーターが淡々と告げる。


「……はい」


 〇四五と呼ばれたボブヘアの女が答える。視線を動かなくなった〇三六に向けた。同じ顔をした失敗作は消えた。


 暫く無感動に見つめてから静かに立ち去る。


 商店街の出口で足を止めると一度だけ〇三六を振り返った。



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