メモリーズ・オブ・日野橋
ハチオウジギアの世界観で起きる短編です。
日野橋にまつわる話。
隔週日曜日20時に更新。作成状況によっては不定期になります。
※ハチオウジギア、ハチオウジ鬼譚と同じ世界観で起きる出来事です。独立して読めます。
ページ下部にも関連作品リンクあります。
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二〇一五年に発生した日本大災害。
この影響で多摩川に架かる日野橋は崩落した。再建には日野区の公共芸術として約一千万個の特注ブロックを現地手作業で積む異例の工法を採用。しかし、工事は一向に進んでいない。現在の通行は全て隣に建設された仮橋が担っている。
朝靄のかかる多摩川沿い。河川敷を老人が歩いていた。
深く刻まれた皺と日焼けした肌、青い鉢巻きを巻いた老人の名は頭口アキタ。
頭口の片手には火ばさみ、もう片手には大きなごみ袋。地面は昨夜の大雨でぬかるんでいるが足取りは慣れたものだった。毎朝四時には動き出している。夏が近づき周囲はだいぶ明るい。
草むらに白いレジ袋が引っ掛かっているのを見つけると、火ばさみでつまみ上げる。肩が重い。
カサリ、ごみ袋の中へ落とす。
誰もいない河川敷には、川の流れる音と鳥の声だけが響いていた。
頭口はブロックが小さく積み上げられたままの日野橋の跡地に目をやる。
あれから二十年。あの大災害で当時十歳だった息子のハルトはこの日野橋崩落で行方不明になった。それから、頭口はハルトの痕跡を見つける為に清掃活動に打ち込んだ。
朝四時、まだ街が眠りについている静かな時間が、頭口は一番好きだった。遮るもののない川の音を聴いているとハルトと会える気がしていた。
「頭口さん!」
朝靄の奥から人影が近づいてくる。ラフな格好をした男だった。太いハの字眉に長い顔が特徴的なこの男は茄子ハマヒト。
「今日も早いですね」
「年寄りは朝しか取り柄がないからな」
二人は並んで歩き始めた。茄子は火ばさみで煙草の吸い殻、注射針を拾い、頭口は草の根元に埋もれた壊れた拳銃を拾う。慣れた作業だった。
さらに頭口は草むらを分け入り、空き缶を拾う。腰に痛みが走るが気にせず、薬莢を拾い、ペットボトルを拾う。疲れを感じ、「猛獣注意」と書かれた看板に腕を置く。これは大災害で動物園や研究施設から逃げ出し、繁殖した肉食獣への警告だ。
頭口は離れた場所で清掃する茄子を見て目を細める。茄子はハルトの幼なじみだ。頭口の活動を知り、茄子も一緒に清掃している。頭口は彼にハルトの成長した姿を重ねていた。
「頭口さん!」
茄子が大声を張り上げた。看板から離れて、彼のもとに向かう。足早に草むらをかき分ける。
「どうした?」
「これ……」
茄子が指差した先には、半分ほど泥に埋まった黒い皮が見える。頭口は跪くと夢中になって泥をかき分けた。
「頭口さん、汚れますよ」
茄子の声に応えずにさらに手でかき分ける。
「あぁ」
泥に塗れて朽ちた黒いランドセルが出てきた。ランドセルを慎重に開けると金属でできたネームプレートが見える。
「あ……あ、これは」
ネームプレートには「頭口ハルト」と書かれていた。中身は泥と土が詰まっているが紙のようなものも見える。
泥の塊の中から、指先でそっと紙片を引きはがすと、それはまだかろうじて形を保っていた。水を吸い、波打った学校の連絡帳の一部らしき印字だ。
「ハルト……」
声にならない呼気が漏れる。隣の茄子は言葉を失い、立ち尽くしていた。
頭口はランドセルの内側をさらに探った。泥の塊の奥から、錆びついた金属が見つかる。泥を擦り取ると松本城が彫られたキーホルダーだ。
「それは」
「大災害の前の週に家族で長野旅行に行ったときに買ったものだ……」
頭口は呟くとキーホルダーを胸に抱いた。茄子の手がそっと頭口の肩に置かれる。
「俺たちはハルトとずっと一緒だったんですね」
茄子の言葉に自然と涙が溢れた。止まっていた刻が動き出した、そんな気がした。




