第六十一話 継がれる意志、動き出す王国
「我々にも……どうか、どうか……
この命、再び王家のために使う機会を──
お与えいただけませんでしょうか」
ヴァルレイ准将の言葉のあと、室内には沈黙が落ちた。
「……ルシア?」
大佐がそっと呼びかけると、
「あ、ごめんなさい……あまりにも展開が怒涛すぎて……両親の想いが、こんなにも生きていたことを実感して……」
呆然と呟くルシアに、「そうですか……そうですよね……」とヴァルレイ准将も噛み締めるように繰り返す。
「我々だけではないのです。
かつての忠臣たちがアイゼンブルク中将を中心に続々と名乗りを上げています。
どうか、我々の指揮を。
我々に、機会を──」
再び項垂れたヴァルレイ准将は、微動だにしない。
ルシアの言葉をただ待っていた。
ルシアがちらりとノエルを見ると、ノエルも力強く頷きを返す。「姉さんが言うべきだ」と、ノエルの目が強く訴えていた。
「──私たちに、どうか力を貸してください。
ルミナリア王国復興の光を、皆で掴みましょう」
どこまでもルシアらしい、優しく、だが力強い言葉に、顔を上げたヴァルレイ准将は目を輝かせ、再度深く頭を下げた。
⸻⸻
「……一旦、座りませんか」
微動だにしない一同に痺れを切らし、そう切り出したのはノエルだった。
そこらへんの機微に聡い弟は本当に助かる。
上手く空気を切り替えてくれるのだ。
「それにしても、アイゼンブルク中将がそこまで動いてくれていたとは思いませんでした……」
「実は、国王に悟られてしまったのも、途中でその話がどこかから漏れたようで……アルグレイ隊の皆さまには大変なご迷惑をおかけしました……」
その言葉に、国王が気付いた理由にルシアたちはやっと腑に落ちた。
一時は中将が寝返ったことまで考慮に入れていたのだ。
あのときの中将の誓いが、偽りのものでなくて良かった。ルシアは、ほっと息を吐いた。
「結果的に誰も命は落としていないのです。中将の方は大丈夫なのでしょうか?」
「中将までは辿り着けなかったようで……何名か、命を落としてしまったようですが……」
「そうですか……」
大将と会話する准将の言葉に、ルシアは心臓を掴まれるような心地がした。だが、自分たちが選んだ道はそういう道なのだ。何度も誓い直した覚悟を、再度噛み締める。
挫けない。前を向くのだ。その想いに報いるために。
「クーデターの首謀者は、大佐ということになっておりますが……そちらは変わりなく?」
「ルシアは、ルミナリア王族はぎりぎりまで隠します。最終的に反旗を翻すときには、前に立ってもらうことになりますが」
「それがいいでしょう。軍と国王の方も、なかなか見つからないアルグレイ隊に苛立ちが隠せないようですよ」
「隠れるのがお上手です」と楽しそうに笑うヴァルレイ准将は、どこかクラウディオに似ていた。
「そういえば、ルシア様には愚息が大変なご迷惑をおかけしたようで。ルシア様に出会ってから人が変わったように心を入れ替えて安心したのです。
私たちは過去に囚われて、この子にきちんと向き合えていなかったのです……大変お恥ずかしい……」
「辞めてくれよ……」
頭を下げるヴァルレイ准将に、嫌そうに顔を歪めるクラウディオは息子の顔になっていて少し面白い。
「私は何もしてませんよ。クラウディオが自分で向き合った結果です」
「いえ、そんなことは……」
「クラウディオ、未練がましいですよ」
「は、母上!?」
否定しようとするクラウディオの言葉を遮ったのはクラウディオの母、ヴァルレイ婦人だった。
「ルシア様がそう仰るのです。貴方は引きなさい。いつまでも初恋を引きずって……だから貴方は相応しいわけがないと言ったのです!」
ピシャリ、と言い放つ婦人は強い。クラウディオは顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。
「クラウディオって姉さんが好きだったんだ……」
少し嫌そうな顔をしたノエルが、納得の表情を浮かべている。「なるほどなぁ」などと頷かないでほしい。居た堪れない。
「ごめんなさいね、ルシア様」
「い、いえ、全然」
「クラウディオ、相手にもされてないぞ」
声を出して笑ったヴァルレイ准将に、部屋の空気がふっと緩む。
その後は、和やかながらも真剣な雰囲気で、今後の予定や、中将との連絡方法などの詳細が詰められていった。
室内の空気は、張り詰めていた先ほどとは打って変わって、どこか柔らかいものへと変わっていた。
だがその裏で、揺るがぬ意志は静かに王国全土へと張り巡らされていく。
各地で、号令を待つ騎士が息を潜めている。
——戦いはもう、始まっているのだ。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
ブックマークやいいねしていただけると励みになります!
毎日投稿しています。応援よろしくおねがいします。




