第五十九話 届いていた想い
「ルーク……だよな?」
しばらくルシアを凝視していたクラウディオは、はっとしたように周囲を見渡し、小走りで駆け寄ってきた。
「ごめん、大きな声で名前呼んだりして」
コソコソと小声で話しかけてくるせいで、逆に目立っている。なにせ、クラウディオは軍服を着ているのだ。
「そこに話せる場所があるんだ。場所を移しても?」
クラウディオから問いかけられ、ルシアは困ったように大佐を見上げた。
大佐はため息を吐き、「しょうがない……」と渋々頷いた。
「武器はこちらで預からせてもらうぞ」という大佐の声に、クラウディオはやっと大佐の存在に気がついたのか、「え……?アルグレイ大佐……?え、でも髪色が……」と慌てていた。
──だが、ルシアの髪色も違うのだ。
気にする場所が少しずれているんだよな。と変わらないクラウディオの姿にルシアは苦笑した。
「僕もいるんだけどなー……」というノエルの悲しそうな呟きに、ウィル先輩がノエルの肩を叩いていた。
⸻⸻
「ここ、僕の父が治めている街なんだ」
先ほど話した場所から通り1つ分の場所にある飲食店の個室に案内されたルシアたちに、クラウディオはそう切り出した。
「驚いたよ。三年に上がったら、ルークたちは卒業したって教官から知らされるし、それなら追いついてやると思って猛勉強していたら、反逆したって指名手配はかかるしで」
「……クラウディオは通報しなくていい訳?」
「僕が?冗談じゃないよ」
何がそんなにおかしいのだろうか。
お腹を抱えて笑い始めたクラウディオを、アルグレイ隊は不思議そうに見つめた。
ひとしきり笑ったクラウディオは、涙を拭きながらルシアに尋ねた。
「フェルンベルクの街へは行った?」
「寄ってない。検問も厳しいって聞いたから」
「その様子だとそうだろうね。
フェルンベルクでは、アルグレイ隊がそんなことする訳ないっていう人ばっかりだよ。フェルンベルクの軍でも、殆どがそう。違うのは一部の王都上がりの人間だけかな。
万が一、アルグレイ隊が本当に反逆したのなら、何か理由があったんだっていうのが皆の見解。
表立って言ってはいないけどね」
その言葉に、アルグレイ隊の空気が凍りついた。
「……な…んで…?」
「なんでってそりゃ、アルグレイ隊がどれだけフェルンベルクのために尽くしてくれたか、地元の人間が一番分かっているからじゃない?」
「そうじゃなかったら、あんな見送りはないでしょ」当然かのように言われ、ますます疑問が膨らんでいく。そんなこと、あり得るんだろうか。
「そんなこと……あるの?」
「普通ならないな」
一足早く意識を取り戻したノエルと大佐の言葉に、他のみんなも深く頷いている。
「そう言われても……それが事実なんです。アルグレイ隊が積み上げてきた結果なんですよ」
そう話すクラウディオは自分のことのように嬉しそうだ。最初の印象が悪すぎて、クラウディオとちゃんと話したことはなかったが、態度を改めたという話は本当だったのかもしれない。昔の傲慢な態度は微塵も感じなかった。
「それはそうと。なんでルシアに気づいたんだ?」
「ルシア?あ、ルークですか?そりゃ、命の恩人の顔を見間違えたりしませんよね?」
どこかで聞いたような言葉を、当然かのように言われ、再びルシアたちは固まる。命を救われたらその人だけ色が変わって見えるとかあるんだろうか。
「僕は、生き方自体をルークに変えてもらいました。ルークは僕の先生のような存在なんです。そんな存在、人生に何度も出会えませんよ」
「また会えてよかった」そう嬉しそうに微笑むクラウディオの言葉に、嘘は見えなかった。
「そっかぁ」
アルグレイ隊のみんなが積み上げてきたものは、確かにフェルンベルクの人たちに伝わっていて。
それをフェルンベルクの人たちは信じてくれていたんだと、ルシアの胸は温かくなる。
「良かったね、大佐」
「良かった……は良かったが、街の人たちは大丈夫なのか?我々にそんな想いを抱いていて」
「取り締まりなどは問題なかったのか?」とクラウディオに尋ねると、「はじめの頃こそ、取り締まりの軍人に殴りかからんばかりの勢いで怒る人たちもいました。だけど、その人たちも、『自分たちの手助けができる状況がきたらそのときは助けよう。』と宥められたみたいです。だから表面上は大丈夫です」という答えにほっと肩を撫でおろした。
「それにしても、クラウディオ。詳しいな」
「そりゃ、僕はルークが居ましたから。アルグレイ隊のことに関しては情報通ですよ」
胸を張るクラウディオに、ウィル先輩から肩を小突かれた。
そんなこと言われても、ルシアにはどうしようもない。
だが、自分たちが思い込んでいたよりも状況は悪くないらしい。
一般の市民の人たちを巻き込む気は微塵もないが、自分たちのことを信じていてくれる人たちが大勢いるのだ。と思うだけでも元気が湧いてきた。
この1年で一番心が軽くなった気がする。
マレディア王国にとって、自分たちが反逆者であるという事実は変わらないが、少なくとも自分たちのことを見てくれていて、味方だと言ってくれる人たちがいるという事実に、胸の奥が、じんわりとあたたかくなった。
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