第四十六話 叛逆者達
「次はどこに行く?」
いつものように尋ねたルシアに、普段よりも少しだけ低い声で大佐が答えた。
「一旦、総司令部へ報告へ来いという命令が来ているので、王都へ立ち寄る。その後、東へ向かおう。」
「了解!」
次の目的地は、王都だ──
王都へ向かう汽車の車内。
アルグレイ隊はいつも二つのコンパーメントを借りて乗車する。
大体は大佐、ヴァイスさん、グレインさんの大人組。フェルン姉弟、カーティア姉弟の姉弟組で分かれる。
姉弟組にはフェルや妖精たちも一緒に乗車しており、時々うるささに耐えかねたウィル先輩が大人組の方へ逃げていくのもいつものことだった。
「ねーね、ミアたちって服、変えられないの?」
リア先輩の疑問に、ルシアたちも顔を見合わせた。
「確かに……ドワーフたちが変われるなら、ミアたちも変えられそうだね」
「寒いとか暑いとか思ったことないから、考えたこともなかったわ」
「できるのかしら?」とミアたちが、期待した目でルシアたちを見つめる。
「やってみたら?可愛いのがいいな」
「シルフィは格好良いのがいいよ」
ルシアとノエルが注文すると、「分かった!」と二人とも悩み始めた。どんな格好にするか考えているようだ。
しばらく悩んだのち、シルフィがミアになにやら囁く。「それいいわね!」とミアが返し、二人は顔を見合わせて頷いた。
「せーのっ」
回転し、キラキラした光を発した二人の妖精は、光が消えた時にはお揃いの仕立て服を纏っていた。ミアは水色ベースのメイド服。シルフィは緑シャツの執事服だ。
「可愛いー!でもなんでメイド?」
「なんとなく?ルシアたちのお世話役?」
「二人がいいならそれでいいけど」
くるくる回ってファッションショーを始めた二人は、「隣にも自慢してくるっ!」と言って飛んでいった。
「服装を変えられるのは、気分が変わっていいね」
「私たちいつも軍服だからつまんないもんね」
リア先輩の言葉にルシアは頷いて同意を示す。黒がベースの軍服は格好いいのだが、慣れてしまうと面白くはない。まぁ軍服に面白さを求める方が間違っているのだが。
「これからは定期的に二人に衣装替えしてもらおう!」
こんなデザインもいい、あんなデザインもいいと盛り上がり、賑やかだった車内は更に賑やかさを増す。
こうして、妖精たちのファッションショーは、アルグレイ隊の列車移動の定番になったのである。
⸻⸻
季節は巡り、春になった。
久しぶりに訪れた王都は、所々で花が咲き乱れ、前回とはまた違った彩りを添えている。
前回来た時には秋だったのだから、実に半年の月日が過ぎた。行く先々で様々な出会いがあり、実に濃密な半年間だった。
「一旦、宿に荷物を置くか。」
「はーい。報告は?」
「私とフェルン姉弟。あとノアを連れていく。他の者たちは休んでおけ。」
大佐の指示を聞いたリア先輩が喜びの声を上げた。
「やったー!観光だー」
「パフェじゃ!パフェを食べるぞ!」
「大佐は休んでおけって言ったんだぞ、リア……」
呆れたように言うウィル先輩の言葉は、楽しいことで頭がいっぱいの一人と一匹には聞こえていない。
いつもルシアの頭に乗っているフェルも、今回ばかりはあっさりと裏切って観光組についていくようだ。
「また後でねー」
ルシアたちはいつものように手を振り、別れた。
それが、さよならの合図だとも知らずに。
無邪気に笑った。
何も疑わずに。
何も、終わるはずがないと信じて──
⸻⸻
マレディア王との謁見。
何時間も待たされた挙句、謝罪もなく始まった謁見。すべての人間は自分に従うべきだと言わんばかりの態度。
前回フェルンベルクであった人物とは、別人のようだった。きっとこちらが本来の姿なのだ。
「して、どうだ?王国内は」
「はっ、報告書の通り、王国内は非常に環境に富んでおり、各地の気候を生かした産業が盛んです。この特色を生かした発展を支援していくべきかと」
何段も高い位置の椅子から見下ろす視線。
両脇にずらりと並んだ軍人たちが威圧するかのようにこちらを睨む。
──敵陣の中にいるようだった
その中でも、大佐の表情は変わらない。
あくまでも部下としての態度を崩さない。
「そんなことは聞いていない。国を富ませるため、どのように攻め込み、魔術を活用するのか。そう聞いているのだ」
その言葉に、ルシアとフェルンは思わず出そうになった声を飲み込んだ。
大佐からはそんな事は聞かされていない。
──いや、違う。
聞かされていなかったのだ。
守るために。
その事実に気づいた瞬間、背筋が寒くなった。
自分たちはまた、知らないうちに守られていた。
自分たちと、あまりにも見るものが違う国王に、目の前が暗くなる。
本当に同じ人間なのか──分からない。
「その点については未だ検討中です。国内を回り終わったのちに報告できるかと」
絶望するルシアとは裏腹に、大佐の返す言葉はいつもと変わらない。
──そんな事はとっくに知っている。
その大きな背中は、そう語っていた。
「そうか。それがお前の答えか」
"パンパン"
国王が二度、両手を打ち鳴らす。
周囲を固めていた軍人たちが一斉に銃を構えた。
標的は──ルークたちだ。
頭が、真っ白になる。
身体は石になったかのように動かない。
銃口の黒が、やけに近く見えた。
「お前たちには期待していたんだ──」
「残念だ」そう言った国王は、全く残念そうではない。
「──要らん。処分しろ」
こちらを見もせず、王座の奥に足を進める。
"カチリ"と引き金を引く音が部屋に響いた。
「撃て」
静かな声が発される。
それを合図に、一斉に銃が焔を噴いた。
発砲音が耳をつんざき、硝煙で謁見室内が覆われる。
弾がつき、静かになった部屋の中央では、ルシアたちの前に立ち、結界を張る大佐の姿があった。
「──逃げるぞ」
固まり反応が遅れたルシアの腕を掴み、引きずるようにして、大佐が出口へ駆ける。ヴァイスさんが走りながら発砲し、前を塞ぐ軍人を撃ち抜いた。
崩れ落ちる軍人の身体を視界の隅に捉え、走り抜ける。
足がもつれるルシアをすくい上げるように、大佐が抱え上げた。扉を蹴破るように開ける。
「ノエル、扉を塞いでくれ」
「了解です」
ノエルは淡々と返事をし、シルフィと共に置いてあった観葉植物を成長させ、たった今出てきたばかりの扉を塞ぐ。
そのまま廊下を駆け抜ける。
「そこの窓から飛ぶ、ノエル、下に植物を」
呆然としていたルシアの意識が、聞こえてきた大佐の言葉に引き戻された。ノエルばかりに頼る訳にはいかない。
守られるばかりじゃいられない。
役に、立てる。
──違う。
守られるだけで、終わりたくない。
「私がやる!」
ルシアの言葉を聞き、口角を僅かに上げた大佐が、「頼む」と言うのを確認し、ルシアは大佐が示した窓に手を向けた。
「ミア、アイスコールド」
窓に向かってミアが飛んでいき、氷の滑り台を作り出す。出来る限り、遠くまで。
門の外まで伸びるように。
"ピキピキ"という音を立てながら、厚い氷で出来た滑り台が出来上がった。
後ろからバタバタと慌ただしい足音が追いかけてくる。「いたぞ!」という声が聞こえ、掻き立てられた。
「上出来だ。」
勢い付いたまま大佐が氷上を滑り、その後をノエルとヴァイスが追う。
ルシアは大佐に抱えられたまま、振り返った。追いつかれないように窓から伸びた氷を破壊した。
窓際には唖然としたように立ち尽くす軍人たちの姿が見えた。
──この日、アルグレイ隊は
マレディア王国の叛逆者となった。
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