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8-6


 病院の外は雨がザアザアと降っていました。ここからは徒歩移動ですが、病院からならそれほど遠くはありません。やって来た松岡くんとも合流できました。道中、細かな説明をしながら進みます。


 事務所に到着します。明かりは点いていませんし人の気配もありません。警戒しながら白い塀の内側へと入ります。


「あっ」


 事務所の裏側まで来ましたが、ガラクタの山がありません。落ちていたはずの鍵もありません。


「どうしよう、鍵がない」

「それってどんな鍵? 大きさは? 形は普通?」


 私は記憶をたぐりながら鍵の特徴を話しました。


「それなら大丈夫。僕に任せて」


 松岡くんがうっすら微笑みます。


「でもこれからどうするんだ? 中入るのか? 窓開いてんの二階だろ」

「あそこの倉庫っぽい所に何かあるんじゃない?」

「でもそこにも鍵が」


 姫ちゃんがプレハブ倉庫の引き戸を外しました。


「これ、おばぁちゃん家の倉庫と同じだから、こうすれば外れるよ」


 とんでもない欠陥倉庫でした。びっくりしましたが時間もないのでさっさと倉庫を漁ります。

 倉庫の中にあった脚立を使ってガラッと二階の窓を開けました。何度も練習した通りではありませんが、ここまで順調です。


「本当に鍵開いてた……」


 知念くんが呆然と脚立の上の私を見ています。


「ここからは私が見てくるからみんなは外で待っててって言いたかったんだけど……松岡くん一緒に来てくれる?」

「鍵を開ければいいんでしょ」

「俺も行く。姫は外で見張っててくれねぇか? いざとなったら通報してくれ」

「分かった」


 私と知念くんのスマホをテレビ通話で繋ぎっぱなしにして、知念くんのスマホを姫ちゃんに渡しました。一階の窓の鍵を開けて二人を建物内に招きます。


 室内はやっぱり暗いです。でも、どこに何があるのか分かります。気が急いて早歩きになっていきました。書類の部屋の鏡の前に到着します。


「ああ、あるね鍵穴。ちょっと待ってて」


 松岡くんは持ってきていた荷物から道具を取り出すと、カチャンとあっさり鍵を開けました。


「どーやってんだよ。それ」

「秘密」


 鏡のドアが開いて、暗い空間が現れます。書類の部屋は明かりを点けても外に明かりが漏れません。地下への階段の明かりを点けます。


「マジかよ、本当じゃん」


 興奮気味に知念くんが言います。その直後、地下から物音がした気がします。


「誰か居ますか?」


 地下に向かって言いました。大声で叫ぶつもりだったのに、実際に出た声は驚くほど小声でした。しんと静かになり雨音しか聞こえなくなります。もう一度ちゃんと大きな声を出そうと息を思いっ切り吸い込んだ時、聞こえました。


「ここ」


 弱々しい声でしたが、はっきりと聞こえました。松岡くんと知念くんにも聞こえたらしく、表情が一気に変わります。


 落下するような勢いで階段を下ります。迷いなく地下にあるドアの内鍵を開けて、思いっ切り開きます。

 女の子が立っていました。写真よりも髪は伸びていて痩せていますが間違いありません。


「山本沙那さんだよね」


 青白く、人形のように表情の固まった沙那さんがゆっくり頷きます。


「大丈夫? 歩ける? 痛いところない?」


 沙那さんが一歩、後退りしました。


「早く逃げて……私見たら殺されちゃう」


 これ以上離れないように沙那さんの手をギュッと掴みました。


「あなたを見たって子からここを聞いたの。通報もしてるから」


 ふっ、と力をなくして崩れ落ちそうになった沙那さんを支えます。その目から涙が流れ、こぼれます。


「良かった、生きてた」


 こっそり知念くんに目配せをします。三日月さんのことを今彼女に話す必要はありません。


 沙那さんが見つかりました。大勢が必死に捜していた沙那さんが、今目の前に居ます。彼女に大家さんが犯人だと証言してもらえば、警察は大家さん関係のものを一気に捜査して山田さんも見つけてくれるはずです。……でも気を抜くのはまだ早いです。ここから脱出しないと……


「誰か近づいてくるよ!」


 スマホから姫ちゃんの声がしました。


「誰だか分かるか?」

「雨でぼやけて良く見えないの。でも建物に近づいてる。早く!」


 私達は急いで階段を上ります。鏡のドアを閉める頃に正面入り口からガチャガチャという音が聞こえてきました。


「入ってくるぞ、本棚の奥に隠れるか?」

「この部屋は駄目。出入り口が一つしかないから逃げられなくなる」


 音を立てないよう慎重に部屋を出ます。どうしても出てしまう音も雨が掻き消してくれました。


 二階へ一旦逃げる中、松岡くんが一人離れます。


「どうしたの?」

「危ないから離れて」


 バンという音がして、どこからかピピッという機械音がします。


「念の為、停電させたよ。ブレーカーまで行けそうにないから無茶したけど」

「何で?」

「ちょっとタイミングが良過ぎるから、カメラがあるのかもって」


 ゾワッという感覚が全身を巡ります。それは……考えていませんでした。


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