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8-4


 ────


 急にまた沙那ママと目が合ってびっくりしました。どうやら病室で眠ってしまったようです。薄暗い部屋の中ですが、いつまで経っても明かりを点けようという気が起こりません。


 結局、沙那ママに関するものしかこの部屋にはなさそうです。


「出ようか」


 玄関に行って鍵をガチャっと開けてドアを開きます。


「えっ?」


 ザァァっと雨が降っていました。この部屋に入る前までは雨なんて降っていなかったのにです。


「和兎くん、これって」

「たぶんだけど、新しい人がここに来たんだと思う」


 私達は一旦晴れている場所まで移動して空を見ました。雨が降っている場所は割と多いみたいです。


「和兎くん、この世界って結構人の出入りが多かったりする?」

「そんなことないよ。前に人が来たのが多分十八年くらい前だから。四人も人が居ることだって初めてだよ」

「もしかして私達と関係あったりする人かな」

「分かんないけど探す? 雨降ってる所回ればいいかな」

「それなら」


 三日月さんに言われるまま、私達はショッピングモールに移動しました。


「あなた達、私宛のメモ大量にばら撒いてたでしょ」

「最後はそこいら中に手当たり次第に貼ってたもんね」


 メモに書いてあった吹き抜け広場で待ちます。


「罠だと思われてたらどうしよう」

「そもそもメモを読んでくれてるか分かんないし」

「近くに誰か来てないか見てくる」


 じっとしていられなくて、ショッピングモールの外に飛び出します。一番大きな出入り口から出て駐車場を見回し、外周を回ります。別の出入り口の前を通り、角を曲がり、搬入口などかある裏側まで進みました。


 目の端に風になびく黒髪が見えました。しぃちゃんかと思いましたが、今しぃちゃんは髪を結い上げています。

 その人物は建物の向こう側に消えて行きました。私は大慌てで追いかけて建物の角を曲がります。


「山田さん!」


 艶やかな長い黒髪、前髪にはホットケーキのヘアピン。間違えようがありません。


「何だお前か。ってかここ何だよ……ふぇくしょん」


 良く見ると全身ずぶ濡れです。


「どうしたの? 川でも落ちたの?」

「いやぁ急に雨降ってきたじゃん」

「取り敢えず中入ろっか。他にも人居るから」


 何だか凄く嫌な予感がします。


「おいおいどーした、そんな早足で。何焦ってんだよ」


 誰が焦らせていると思っているのでしょうか。

 みんなの居る吹き抜け広場に到着します。山田さんの姿を見た三日月さんがびっくりして叫びました。


「山田さん! 何で居るの!」

「お前、三日月か! なんだこれ、どうなってんだ」

「説明するからちょっと静かに」


 山田さんにこの世界のことを説明します。山田さんはずっと眉間にしわを寄せていて、理解しているのかどうか分かりませんでした。


「それでこっちが小泉和兎くん。沙那ママの弟さんだよ。こっちがしぃちゃん。しぃちゃんは……しぃちゃんだよ」

「はあ……ってか、お前ずっとこんな夢見てたのか? 何で言わねぇんだよ」

「夢で見たよーって言って信じてくれた?」

「……そりゃ無理だな」


 山田さんは一人納得していました。


「それより山田さんはどうやってここに来たの? 私みたいに夢で来れるようになったのか、三日月さんみたいに現実で何かあったのか」

「どうやってって……」


 山田さんが、はっとした表情に変わりました。


「そうだ、有吉! あんたんところの大家が犯人だ! 何のかは知らねぇが犯人だ!」

「ちょっと待って、どういうこと? 大家さんに何かされたの?」

「あの野郎、怪しいと思ってかまかけたら襲ってきやがった。咄嗟に『私に何かあったらあの人が黙ってねぇぞ、あの人は全部分かってんだからな』って意味深に言ってやったけどさ」


 サァーっと血の気が引きました。


「え、ちょっと……山田さん、今どうしてるの? まさか……」

「芽生ちゃん落ち着いて」

「早く起きて助けに行かないと山田さんが、山田さんが」

「待って、無策じゃ無理だって」


 三日月さんが叫んでいますが、それどころではありません。


「でも早くしないと」

「芽生ちゃん!」


 和兎くんが強い口調で続けます。


「芽生ちゃんの現実は今は夜?」

「違うと思う。お母さんの病室に居るはずだし」

「なら何時間も寝たりしないよ。それにこの夢の中と寝てる時間って同じ? 違う?」

「……違う。前に学校で数分居眠りした時も夢の時間そんなに変わらなかった」


 和兎くんが私の両肩を掴み、しっかりと目を合わせました。


「ならまだ夢の中にいた方がいいよ。こっちの方が時間がある。夢の中にいる間に話し合うんだ。いい? 今この世界と現実を行き来できるのは芽生ちゃんだけなんだ。芽生ちゃんに何かあったらもうチャンスはなくなるんだよ。芽生ちゃんが起きたら僕達は何もできないから、だから今、何をするべきか考えるんだ」


 深呼吸をします。震えは止まりませんが気にしている時間はありません。


「分かった」

 落ち着いて、集中して……失敗なんて許されないから、失敗しないようにしなければなりません。


「そういえば、何で大家さんが怪しいって思ったの」

「それは……」


 山田さんはバツが悪そうにそっぽを向きました。そんな山田さんの服の端を三日月さんが引っ張ります。


「芽生ちゃんはあなたのこと心配してるんだからね」

「分かったよ……手帳だよ」

「手帳?」


 山田さんがポケットから手帳を取り出しました。女の子が持つには渋過ぎる、使い込まれた手帳でした。


「隣のじじい昔警察で、あんたのことずっと捜してたらしい」


 そう和兎くんを見ながら言いました。


「警察辞めた後も捜してて、そん時のガキとも交流があったとかで……何ていうか、一人変だなって奴が居て。急に手帳に現れた有吉とかいう奴、ちょいちょい進み具合訊いてくるのが何か気になって」


 山田さんはじっと手帳を見ながら話していました。とても大切な宝物のように手帳をしっかりと持っています。


「山田さんは何でその手帳持ってるの?」

「じじいが落としたんだよ。返す前にじじいが死んじゃって、何となく気になって中見たら色々書いてあって」

「急に昔のこと調べようって言ってきたのって、この手帳があったから?」


「……謝らせたかった」


「誰を?」

「じじい、ずっと心配してた。急に居なくなった芝原のこと。凄く悲しそうにしてたから腹が立って……せめて芝原を仏壇の前に引きずり出して謝らせたかった」

「山田さん、そのおじいさんのこと好きだったんだね」

「うるせぇよ」


 初めて山田さんの本音を聞けた気がします。


 私は考えました。みんなも考えました。情報を整理して可能性を考えて、この不思議な夢の世界に与えてもらったチャンスを無駄にしない為に、知恵を絞り尽くして考えました。


 平和を取り返すんです。大切なものを取り返すんです。これ以上不幸が増えて黙ってられる訳がありません。


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