8-4
「きゃあ」
「うわぁ」
目が覚めると、すぐ横でびっくりしているアミラさんが居ました。
「凄くうなされてたけど、大丈夫?」
「あ……えっと、大丈夫です。ちょっと怖い夢を見て」
時計を見ると十時を過ぎていました。いつもは遅くても八時には起きるのに、だいぶ寝過ごしてしまいました。お昼ご飯まで中途半端な時間ですが朝ご飯を食べます。山田さんは出かけているようで居ません。
「芽生ちゃん、お母さんの退院だけど前もってやっておくこととかないかな。冷蔵庫空っぽだし、掃除とかしておいた方がいいのかな」
「……アミラさんは何でそこまでしてくれるんですか? お母さんとアミラさんって元々どういう関係だったんですか?」
アミラさんはすっと表情を硬くして考えるように無言になりました。一息ついた後、話し始めます。
「先輩はね、私の命の恩人なんだ」
それからアミラさんは言葉を絞り出すように、話してくれました。
昔、アミラさんはある男性に好意を持たれていました。でもその男性はあまりにも身勝手で強引で、人の気持ちが分からない人だったそうです。それなのに他の人からの評判は良くて、逆にアミラさんの方が我が儘な人だと思われるようになって孤立していきました。
その男性に何をされたかはぼやかしていましたが、アミラさんの辛そうな表情からとても酷いことをされたのだろうことは分かりました。
「そんな中、私の言うことを一人だけ信じてくれたのが先輩だった。先輩が匿ってくれて、何もできなくなっていた私の代わりに色々動いてくれて、解決してくれたの。先輩が居なかったら私、多分生きてない。だから今度は私が恩を返すの。やっと私を頼ってくれたから」
「……」
「芽生ちゃん、お母さんと喧嘩しちゃったんだよね。一緒にまた暮らす前にちゃんと話し合った方がいいよ」
「……うん」
外へ出ると、空は曇っているのに蒸し暑いままです。天気予報では夕立ちがくるかもしれないそうです。
私とアミラさんで病院へ向かいます。山田さんは帰ってこなかったので一応メッセージだけは入れておきます。
病院へ着いて、長い廊下を歩くほど緊張が高まります。病室のドアを開けてお母さんの所へ進みます。ベッドの上のお母さんの姿はとても弱々しく見えました。
「私ちょっと外してるね」
アミラさんがぽんと私の背中を押しました。囲われたカーテンの中、私とお母さんの二人きりになりました。
「お母さん、私ずっと訊きたかったの。何でお父さんが居ないのか、何でみんなには居る親戚が私には居ないのか、服を送ってくれる人が誰なのか、ずっと気になってた。でも訊いちゃいけないような気がして訊けなかった」
お母さんの瞳が潤んで光を反射しています。見たことがない、悲しい顔をしていました。
「ごめんね」
涙声でお母さんが語ります。
「芽生は覚えてないと思うけど、赤ちゃんの時に誘拐されたのよ……お父さんの両親に。何とか取り返したんだけど、今度は私の両親が養子に出せ手放せって言ってきて……」
ぽろっとお母さんの目から涙がこぼれ落ちました。
「あの人の……お父さんの両親と私の両親が結託してたの。どうせ……どうせ一人じゃ育てられないんだからって。だから私、私……一人でも平気だって思わせないとって、少しでも無理だって思われたら、お父さんのこと悲しんだりしてたら、また芽生が連れて行かれちゃうんじゃないかって、芽生に会えなくなるんじゃないかって怖くて、怖くて」
お母さんに抱きつきます。柔らかくて暖かくて懐かしいです。
「私もお母さんと離れたくない」
涙が溢れて止まりません。お母さんと離れるなんて考えられません。嫌です。そんな恐ろしいこと二度と考えたくありません。お母さんも同じでした。
泣いて泣いて、ずっと泣きました。今感じている温もり、きっと忘れることはないでしょう。




