8-3
────
「その人、私が住んでいるアパートの大家。あと名字違うけど沙那さんの父親の弟だって」
和兎くんと三日月さんが目を真ん丸にして驚いています。しぃちゃんは相変わらずきょとんとしていました。
私は取り敢えず最近起こったことや聞いた話を話しました。何がヒントになるか分からないからです。
「そういえば確かにあの宝の倉の家の子に似てる気がする。でもあんまりみんなの話に入ってこなかったから良く分かんないや」
「手紙を盗んだっていうのは知ってた?」
「姉ちゃん結斗兄ちゃんのとこ好きだったみたいだけど、僕の知ってる姉ちゃんはそんなことしない。円ちゃんも思い込み激しいけど逮捕されるなんて。僕が居なくなっちゃったせいかな」
三日月さんが喋ります。
「あのさ、和兎くんってどうして消えちゃったの? 私まだそこ聞いてない」
「それは宝の倉ってみんなが呼んでた場所に……」
何かに思い当たってしまったのか、和兎くんの言葉が止まります。代わりに私が説明しました。
「それって、もしかしてそこからこの男のせい?」
「分かんない。けど取り敢えずここ調べよう。多分三日月さんが沙那さんを見つけた時のままだと思うから。沙那さんの監禁場所があるはず」
私達は建物内をくまなく探しました。事務所らしい大きな机の並んだ部屋、並んだ無機質な棚に書類がぴっちり詰まっている部屋、給湯室、明かりが漏れて見えていたのはシャワールームみたいです。二階も見て回りますが、どこも段ボール箱が部屋いっぱいに詰まっていて誰かを隠していそうなスペースはありません。
「普段は別の場所に居るとか? シャワーの時だけここに連れてきて」
「いちいち外を通るのって犯人としてはリスク高くないかな……外のプレハブとか?」
私と三日月さんと和兎くんが首をひねりながら考えていると、しぃちゃんが目をらんらんとさせながら廊下の端から走ってきました。
「やっぱり変だよ、ここ」
しぃちゃんが何の変哲もない壁を指差しました。
「何処が変なの?」
「この部屋とあの部屋のドアの間隔が変。部屋の大きさが外と中で違う」
驚いて確かめてみると、確かに給湯室と書類の部屋の間にに妙な間があります。
「この間に何かある?」
「だとしたらこの鏡怪しくない?」
書類の部屋には大きな鏡が壁に張り付いていました。ドアぐらい大きな姿見です。鏡に触ってみます。鏡は動きませんが、ぴったり壁にくっついている訳でもなさそうです。
「あ、ここに鍵穴がある」
鏡の側面のへこんだ場所に鍵穴がありました。三日月さんは無言でポケットから鍵を出しました。ガラクタの山で拾った、三日月さんのお母さんの鍵です。鍵はすんなりと鍵穴へ入り、ぐるっと回るとカチャっと音を立てました。三日月さんが凄く悲しそうな顔をしました。
鏡がドアのように開きます。その先は暗くて良く見えませんが、そこにあったスイッチを押すと明かりがぱっと点きました。地下へと続く階段です。
「これ……何?」
「分かんない」
念の為に三日月さんは上に残り、私達は地下へと下りていきました。階段を下りた先は思ったよりも普通でした。古い雑居ビルのみたいな細い廊下にドアが横に二つ並んでいます。一つは今でも使われていそうですが、もう一つは前に荷物が積まれていて塞がっています。荷物にはほこりが積もっていて、長い間動かされていないみたいです。
使われている方のドアを開けようとして違和感を感じました。何だろうと良く見てみると、内鍵がこちら側についていました。この先は地下通路でもあるのだろうかと思いながら開けてみますが、その先にあったのは部屋でした。
ベッドと机と本棚とカラーボックス、本棚には少女マンガ雑誌が、カラーボックスには女の子の着替えが入っています。まるで子供部屋でした。小さな冷蔵庫もあります。床には女の子向けのおもちゃが積まれていましたが、どれも封すら開いていませんでした。
部屋の中にはドアがもう一つあって、先にはトイレがありました。人を閉じ込めるにはとても丁度良い部屋でした。
大家さんはわざわざこんな部屋まで作っていたのかとびっくりしましたが、この建物は大家さんよりも年を取っているように見えます。もっと昔の人が作った……本当に何の部屋なのでしょうか?
でも、ここに山本沙那さんが閉じ込められているのは間違いないでしょう。
三日月さんの所まで戻って、地下にあった部屋のことを話します。
「ここにいるのは分かったけど、どうやって助けようか」
「無理しちゃ駄目だよ。私みたいになっちゃうから」
三日月さんが切なく微笑みます。
「それに何日か経ってるんでしょ? もう別の場所に移動してるかも」
「流石にそう簡単には動かせないと思うけど……芽生ちゃん、大家さんの家分かる?」
「分からないけどアパートの一室を物置きみたいにしてるから、そこに住所が分かるものがあるかも」
アパートまで行くことにします。しかしカフェからここまでよりも距離があります。
「私がここに来る時に使った自転車あるよ」
「ここまでキックボード押してきて良かった」
それぞれ乗り物に乗って急いでアパートへ向かいます。
アパートは毎日暮らしていた場所なはずなのに何だか恐ろしい場所のように見えました。そんなことはないと思っていても、何処かからひょこっと大家さんが現れそうな気がして薄気味悪いです。
二階の階段から、一番奥が大家さんの使っている部屋です。
「この部屋がそうなんだけど、鍵かかってるよね」
「ベランダからガラス割っちゃう?」
「他のドア開いてないか調べよう」
二階は全ての部屋に鍵がかかっていました。しかし玄関前の置き物の下に鍵を隠すというベタなことをしている人がいたので、その部屋を通ってベランダに出ることができました。灰色の髪のお兄さんの部屋です。
「何でこの部屋マネキンの首があるの? 怖い」
「多分美容師の練習用のだよ」
ベランダからは簡単に壊れる壁を壊しながら移動します。一番端まできましたが、やっぱり鍵がかかっていて入れません。
「いくよ、みんな離れて」
灰色の髪のお兄さんの置き物を勢いをつけて窓にぶつけます。しかし、ひびが入るだけで穴は空きません。事務所と同じように防犯フィルムが貼ってあるのかもしれません。
「どうしよっか」
私達は作戦を考え直す為に、一度私の家に入りました。仏壇に置いてあった父の写真を見た和兎くんは、複雑な表情をしていました。
「うちに何か使えそうなものないかなー」
「あれは? そこのやつ取ろうとした時に脚立運んだじゃん。あの倉庫に何かあるんじゃない?」
「そっか、見てくる」
「僕も行くよ」
倉庫には脚立の他にも工具がいくつもありました。ドライバーやペンチの入った工具箱は使えるかもしれません。チェーンソーや草刈り機もありましたが、使い方が分からないので放置します。
「そういえば脚立で何取ろうとしたの?」
「高い所にある戸棚にお父さんのものがあって。危なくて見れなかったけど」
家に戻ってからあれこれ作戦を立てましたが、やっぱり良い案は浮かばす結局壊れるまで窓ガラスを殴りました。防犯フィルムのお陰で破片は飛び散らなかったので思ったよりも安全でした。
何とか空いた穴から鍵を開けて、窓と閉じていたカーテンを開きます。開けた瞬間、目が合いました。
暗い部屋の中、大量の人物写真が貼られていました。みんな同じ人に見えます。沙那さんかと思いましたが、違います。
沙那さんのお母さんです。子供の頃からつい最近まで、一緒に写っている人は塗り潰されたり切り抜かれたりしています。おぞましい数の沙那さんのお母さんだけの写真です。
────




