8-2
堂本くんと松岡くん、それと念の為に高学年の男女二人ずつが出発して行きます。
「これからどうする?」
山田さんが能天気に手を上げます。
「せっかくだから戻って来るまで確かじゃない情報の話ししよーぜ。この中に黒姫さんを押し付ける人形を押し付けられた奴いる?」
自警団のリーダーが手を上げます。
「すでに五個は貰ってるね」
それを見て手を上げる子が数人現れました。
「昨日さー、家に訳分かんないこと言う奴が突撃してきたんだけどさ、そいつが言うには黒姫さんを押し付ける人形を受け取っても、無事なのは黒姫さんとグルか黒姫さんの正体らしいぜ。で、ここにいるってことは手を上げた全員無事だった人になるんだけど、全員黒姫さんの手下だと思うか?」
自警団のリーダーが、言い争っていたお下げの女の子を見ます。
「流石にそうは思わないわよ」
「ならあの人形は何の効果もないデタラメってことだろ。他にも黒姫さんのことで言われてること一つづ調べていこうぜ」
みんなから黒姫さんの話を訊いていくと、思わぬことが分かりました。あるグループは黒姫さんは夜になると家に来ると思っていました。別のグループは分裂して囲んでくると、また別のグループは子供に取り憑いてその子の友達を襲うと聞いていたそうです。みんなが考えていた黒姫さんの像はバラバラでした。
「みんな親しい人とだけ黒姫さんの話をしていたから、それぞれのグループで独自進化したのかな。目立ったところの黒姫さん話しか集めてなかった私達のミスだ」
自警団の人達が申し訳なさそうにしています。
「私も近くのことしか見えなかったわ。そりゃ、みんな違う黒姫さんの話してるんだもの、混乱もするわ」
お下げの女の子もため息をついています。
「えっと、つまりどれが本当の黒姫さん?」
呑気に小さな男の子が訊きました。姫ちゃんの弟だそうです。お下げの女の子が答えます。
「どれも違うと思うよ。いや……それぞれが一番怖いと思ったお化けの姿が黒姫さんなのかもしれない。怖い怖いと思う心が見せる恐怖心のお化け」
「じゃあ、僕の黒姫さんは蛙だ」
プッと笑い出す人が居て、それに釣られて次々とに笑い出しました。笑い声がどんどん増えていきます。
「そういや、あんた夜怖くてトイレ行けないーって言ってたもんね。だから黒姫さん夜に来るんだ」
「うるせぇ、最初に夜って言い出したのそっちじゃなかったか」
「何だろ、黒姫さんの正体がこれだとしたら大人が言っていた祟りとかも怖くなくなってきた」
さっきまでピリついていた空気が消えていきます。この数ヶ月、私達の周りに毒ガスみたいに充満していたあの不気味な空気が、色んな人が何とかしようとお祓いをしたり噂がデマだと証明をしようとしても消せなかったあの空気が、たった一人の男の子の何気ない一言で掻き消えていました。
図書室内がガヤガヤと賑やかになってきます。みんな笑っています。黒姫さんの騒ぎが始まる前に戻ったようでした。……私もみんなと同じように笑えたら良かったのに、できませんでした。
堂本くん達が出て行ってから一時間近くが経ちました。私のスマホに松岡くんからメッセージが届きました。
「自警団の人とかみんなに話す前に言っておくことがある。電話していい? できれば山田さんも一緒に」
良く分かりませんが、山田さんを呼び出して図書室を一旦出ます。「電話OK」と返信すると、早速電話がかかってきました。
「沙那ママ達四人が祟りや黒姫さんを信じ込んだ理由が分かったよ。昔、万里さん宛の手紙を沙那ママが盗んだらしいんだけど、それで沙那さんが行方不明になった時に気が動転してた彼女が万里さんが恨んでるのかもと思って手紙を家に返したんだって。そうしたらその手紙が本当に消えてしまい、沙那ママが祟りだと思い込んで他の人もそう思うようになっていっちゃったらしいんだけど」
手紙……万里さんの家に返した……。
「まさか、お化け屋敷から山田さんが盗んだ暗号の……」
「前に貰った手紙の写真見せたら間違いないって。堂本くんの伯母さん崩れ落ちてたよ」
「私のせいか?」
やっぱり悪いことはするものではありませんでした。
「これ、このまま話して良いかな」
「あーもう好きにしろ」
堂本くんの伯母さんは手紙の行方を知ると、まるで憑き物が落ちたかのように落ち着き全てを話してくれました。やはり彼女達四人はドライヤーに粉を入れるイタズラをしていたようです。
当時、何故か万里さんを和兎くん行方不明の犯人だと思い込み続けた四人は、結婚して子供も授かって幸せそうな万里さんのことが許せなかったそうです。そこでにいなママが、ネット上の友人から教えてもらったあのイタズラを提案したらしいです。執拗に攻撃を続けていれば、いつか音を上げて自首するだろうと正義感でやってしまったと言っていたそうです。
今思えば万里さんが犯人という根拠はなかったのに、何故そう思っていたのか分からない……と、伯母さんは答えたそうです。
伯母さんは全てを警察や関係者に話すと約束してくれました。
凄く……複雑な気持ちです。彼女達四人のせいで火事は起こりましたが、閉じ込めイタズラの方がなければ逃げられたのかも知れないのです。そもそもあのイタズラは必ず火が出るというものでもないのですから……やっぱり不幸な事故だったんです。全員が不幸になった事故……でも、何かすっきりしません。
その後は、例の卒業アルバムを引っ張り出してみんなで鑑賞したりしていました。沙那ママ達四人に万里さんと私のお父さん、自分の親戚が居ると驚いている子も居ました。大家さんの面影のある子供も居ました。ただ名字が山本で違います。
「そいつが気になんのか?」
「気になるって言うか……大家さんに似てるけど名字違うし親戚とかかな」
「もしかして有吉さん?」
堂本くんが話に入ってきました。
「多分、あ行だった気がするから」
「その人、沙那の父親の弟だよ。建築関係の家に養子に入ったとかで名字変わったって聞いたけど」
「はあぁぁ!」
山田さんが叫びます。
「何で先に言わねぇんだよ」
「いや、佐倉の家の大家がそうだなんて知らなかったから」
「もしかして本家の人?」
「うん。三兄弟の一番下だったと思う」
そうこうしている間に保護者会が終わったらしく、一斉に大人達が子供を迎えに来ました。あっという間に人が減っていきます。
「佐倉さん」
島倉先生が手招きをしています。隣にはアミラさんも居ます。
「お母さんを怪我させた犯人、逮捕されたよ。正しくは話を訊きに行った警察に暴力を振るったからなんだけど、お母さんの件も間違いないだろうってことだから」
「誰だったんですか?」
「それは……この学校の保護者の人で」
「にいなちゃんのお母さん?」
「分かっちゃうか。あの人、前からネット上の過激な考えにハマってたらしくって。ネット上の人からもどんどん煽られて変になったらしい」
「あと一つお知らせがあるよ」
アミラさんも話し始めます。
「お母さんの退院が決まったよ。このまんまの状況だったら私の家に居た方がいいのかもしれないけど、犯人も捕まったし変なことしてた子供も見つかったし、大丈夫そうならすぐにでもお母さんと家に帰れるよ」
一瞬嬉しかったのですが、ゾワッと背中が冷たくなりました。私達の家はあのアパートです。大家さんが合鍵を持っていて、やろうと思えば出入り自由なあのアパートです。




