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その建物は雑木林に取り囲まれているような場所にありました。色褪せた白い壁が、その木の侵攻を必死で食い止めているように見えます。
白い塀の中には車が何台も停められる駐車場と、山田さん家の和室くらいの大きさのプレハブの倉庫らしきもの、それに壁が煤けて元の色が分からなくなった二階建ての四角い建物が建っていました。とても殺風景です。
二階建ての建物には読めない漢字と事務所という文字が書かれていました。
「ここって何の事務所なの?」
「建物を建てる会社が使ってたらしいけど、今は必要なものを置いておく物置きみたい。置いてあるものの管理? をするんだって」
ガラス扉の入り口は鍵がかかっていて開きませんでした。覗いてみても明かりが一切点いていないので、暗くて良く見えません。
「三日月さんが沙那さんを見たのはどの辺?」
「こっち」
建物の裏側の、カーテンの閉まった窓の前で三日月さんは立ち止まりました。ほんの少しだけカーテンに隙間があったので覗いて見ると、何処かの部屋の明かりが少しだけ漏れているのが見えました。
「ここの窓も閉まってる。開いてる窓か出入り口がないか探さないと」
「もしかしてここの鍵だったのかな。お母さんが落としたっぽい鍵拾ってポケットに入れてたんだけど……ないや」
一階の外周全てを調べてみましたが、通用口らしきドアはカードか生体認証で開けるような凄い機械が付いているし、窓は一つも開いていませんでした。
「……割る?」
「その前に二階も調べられればいいんだけど」
「あそこにある箱に乗ってあの棒で開くかどうかやってみたら?」
しぃちゃんが指差した先には、塀沿いに無造作に積まれていたガラクタがありました。中には足場になりそうな木箱と長い棒があります。
「やるだけやってみよう」
私達は木箱をそこから引っ張り出しました。
「あれ、何か落ちてる」
「あ、それだよ、お母さんの鍵。私逃げる時ここよじ登ったから落としちゃったんだ」
鍵を持って正面の入り口へ行ってみましたが、鍵は合いませんでした。
それからは地味な作業でした。木箱を足場にして、長い棒で二階の窓を開くかどうか突きます。駄目だったら別の窓の下に木箱を移動させて同じことを繰り返します。途中で嫌になったしぃちゃんが一階の窓に石を投げましたが、防犯フィルムでも貼ってあったのかびくともしませんでした。
暑い中での作業でふらついてきました。
「この窓が駄目だったら、一旦火葬場まで戻って休憩しよう」
そう言いながら二階の窓を突きました。感触が今までと違います。窓がほんの少し動きました。
「開いた!」
「ここの下に足場になるもの全部集めよう」
その窓の下にガラクタの山を積み上げます。二階に届くところまでくると、和兎くんが窓をガラッと開けて中に入りました。
「一階の鍵開けてくる」
一階裏側の窓の鍵が開けられて、和兎くんがひょっこり顔を出します。
「何か、通用口の方は変な形してたから良く分かんなかった」
建物の中に入ると、明かりは点いていないのに冷房は何故かちゃんと効いていました。
「駄目だ、フラフラする」
「ちょっと休もう」
給湯室らしい部屋にあった冷蔵庫の中には、お茶にジュースにプリンに野菜お肉……家の冷蔵庫みたいでした。戸棚の方には電子レンジでチンするご飯とパンとお菓子まであり、不自然なほど食料が豊富です。
そこにあった紙コップに飲み物を注いで、テーブルとソファーのある部屋に移動します。ゴツゴツした大きなソファーに高そうな置き物がいくつも置かれている部屋でしたが、どれも薄っすらほこりが被っています。
一息ついたあと、和兎くんが切り出します。
「三日月ちゃんを追いかけてきた人ってさ、ここに居たってことは職場の関係者だよね。写真があれば三日月ちゃん分かるんじゃない?」
写真ぐらいなら何処かに飾ってあるかもしれません。紙コップを持ったまま事務所内をうろついて探します。
「あっ、あった。こいつ、こいつだよ!」
入り口の方で三日月さんが大声を上げました。入り口から少し進んだ場所に、社員の集合写真みたいなものが飾ってありました。何人も並んでいる中、三日月さんは一人を指差します。
「……本当にこの人なの?」
「間違いないよ、はっきり覚えてるもん」
写っていたのは、大家さんでした。
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