7-14
朝も早くから自警団のメッセージが届きました。
「作戦行動をするから、今日は外に出ないで」
このメッセージは山田さんやみやちゃん達にも届いていたようです。
「何するんだろ。見に行こうかな」
「早速邪魔しようとしないの」
今日は大人しく夏休みの残りを進めます。
「前に奢った分、宿題写させろ。読書感想文」
「読書感想文!? 写したら写したってすぐバレるじゃん」
「お前が写したって思われるかも知れねぇだろ」
「私と山田さん、先生はどっちを信じるかな」
「……クソっ」
山田さんの宿題を手伝っているうちに、お昼も過ぎてもうすぐ三時です。
「三時だ、三時はおやつの時間なんだぞ!」
「今までも三時きっかりにおやつ食べてなかったじゃん」
山田さんをなだめていると、突然私のスマホが鳴りだしました。電話です。急に電話がかかってくるのは、お母さんが病院に搬送された時以来です。心臓の鼓動が勝手に激しくなります。
画面を見ると自警団からでした。これはこれで不安になります。何かあったのでしょうか?
「あ、佐倉さん。急に電話してごめん。先に言うけど誰が来ても絶対に会わないで」
いつも冷静そうだった自警団のリーダーの女の子が、焦った声をしています。
「何があったんですか? 会わないでって、誰か来るんですか?」
「私達、おとりを使って白い花の髪飾りの子供を捜してる奴を捕まえたんだけど、もう一人居たらしくて……それで、佐倉さんが今居る場所がもう特定されてたらしくって、二人の狙いは君だよ」
息が止まりそうでした。咄嗟に山田さんを見ます。
「おい、どうした? 顔が青いぞ」
「山田さん、どうしようヤバい人がここに来るかもって。白い花、やっぱり私だって」
「はぁ、マジかよ」
ピンポーン。
家中に来客を知らせるチャイムが鳴り響きました。
「お前は隠れてろ」
山田さんが部屋を出て行きました。玄関の方から揉めている声が聞こえてきます。少しずつ、家の中へと移動しているようです。
「佐倉芽生! ここに居るんだろぉ!」
甲高い子供の声がします。同じクラスの、中島さんの取り巻きの一人です。
「お前が中島さんをさらったんだろぉ! 返せよ中島さんをぉ!」
「ちょっと、何言ってるの君」
「中島さんだけじゃねぇ。ゆりあも消えて、隣の中川ぁ? とかいう奴も消えてんだよ! 偶然で三人も消える訳ねぇだろ。最初の女含めて四人全員お前がやったんだろぉ!」
廊下を進みながら色んな場所を開けている音がします。
「お前、何訳分かんねぇこといってんだよ」
「うるさい共犯者どもめ! 汚ねぇ手使いやがって」
ガタンと音がして、走る足音が聞こえます。和室のすぐ前まで来た足音の主が、ザッとふすまを開けました。
姿も声もクラスメイトのあの子でした。でも目の前に立ってるのは初めて見る怪物にしか見えません。
「ほら、やっぱりそうだ」
怪物が指を差して笑います。
「あんたが無事なのが証拠よ! 押し付け人形を使ったのに無事なのは、あんたが黒姫さんの仲間か黒姫さんの正体だからよ! バレないとでも思ったぁ? 観念して中島さんを返せぇ!」
アミラさんに押さえられながらもなお暴れる怪物は、私から目を離しません。早く逃げなきゃいけないのに体が動きません。繋ぎっぱなしの電話から「もしもし」と声がします。
「この電話、全員に聞こえるようにして!」
はっとして電話をすぐにスピーカーにして、音量も最大にします。そしてスマホを盾のように怪物にかざします。
「中島さんは夜逃げしました!」
和室の中に大音量で響きました。
「六月に父親が逮捕されて、その後家族も身を隠さないといけなくなったとかで夜逃げしました」
和室に居た皆が固まりました。怪物も数秒ぽかんとしていましたが、また怒り狂います。
「嘘だ! そんなの聞いてない」
「言える訳ないでしょ。親逮捕で夜逃げだよ。プライドが高かったら尚更ね。それに中川三日月さんも入院してる。居なくなってない」
怪物だった彼女が急に力を失い、へたっと床に座りました。静かな部屋の中で、みんなの呼吸音だけが聞こえます。
「……呪ったんでしょ」
「は?」
「呪って父親を逮捕させたんでしよ。中島さんが目立つから目障りになったから呪ったんでしよ」
「もう駄目だこいつ」
「だってあの人が言ってたもん。あの親子が邪魔な奴らを消してるんだって。ニュースにならないのは呪いのせいで圧力かけてるんだって。ゆりあや中川の家へ行ったら本当に居ないのに全然ニュースになってないんだもん、事実じゃん。言論弾圧って言うんだってあの人が教えてくれた。あの人が親の方をやってくれたけど中島さんも誰も帰ってこなかった。だったらあなたが」
アミラさんの表情が変わりました。
「それ、何の話」
彼女がケタケタ笑い出します。
「図星突かれたから焦ってるんでしょ? やっぱりあの人の言うことは正しいんだ。お前達の嘘なんかに騙されないからね」
「学校か警察に通報しようぜ。話にならない」
その後、学校に連絡をして先生達と彼女の両親がやって来ました。最初は言いがかりだと反論していた彼女の両親ですが、山田さんが和室を出る時に録音を開始させていたらしいボイスレコーダーを聞くと顔を真っ青にさせていました。
「あの、一つ訊きたいんだけど」
気味が悪いですが、私はニタニタ笑っている彼女に訊きました。
「あの人が親をやってくれたって言ってたけど、それって私のお母さんが怪我をしたのって、あの人って人のせい?」
「天罰でしょ、ザマーみろ」
彼女の両親は、ケタケタ笑いながらそう言った実の娘を化け物を見るような目で見ていました。
混乱する話し合いの中を、一人抜けて電話をかけます。
「もしもし? 急に電話なんてどうしたの?」
「お母さん、今日クラスメイトが来て言ってたんだけど」
「なあに?」
「邪魔な親子の親の方をあの人がやってくれたって。お母さん、誰かに怪我させられたの?」
電話の向こうが無言になりました。
「ねぇ、お母さん。本当に誰かにやられたの? 何で言ってくれなかったの? 答えてよ」
「芽生……あの」
声が動揺しています。
「あんまり大騒ぎになって欲しくなかったのよ。お巡りさんがきっとすぐ犯人捕まえてくれるだろうし、お母さんだって大丈夫だったんだから」
「大丈夫じゃないじゃん! お母さん入院してんじゃん! 何でいつも大丈夫大丈夫って、何でいつも話してくれないの? 教えてくれないの? ……お父さんのことだって!」
電話の向こうからは何の声も聞こえません。それでも口から出てくる言葉は止まりません。
「何でお母さんはお父さんのこと何も話してくれないの? 何で私、自分の父親のこと何も知らないの? そんなにお父さんのこと嫌いだったの? 何か悪いことしてたの? じゃあ何で毎日毎日仏壇に手を合わせるの? 分かんないよ」
答えはありませんでした。病院の雑音が薄っすら聞こえます。
「もういい」
電話を切って、スマホの電源も落とします。
「大丈夫……んな訳ねぇか」
山田さんが近くに居ました。
「この後警察一応呼ぶらしいから、それまでに顔洗って麦茶でも飲んでろ」
「……うん」
私は涙を拭いて洗面所へ向かいました。




