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7-13


 ────


「大丈夫! 三日月さんは死んでない! 目を覚ます可能性があるって」


 夢の世界に来てすぐそう叫んだら、三日月さんが腰を抜かしたように床にころがっていました。


「大丈夫?」

「えっ、あ……うん」


 和兎くんが三日月さんに手を差し伸べます。


「ここはそういう所だから。そのうち慣れるよ」

「あ、うん」


 もしかして、この世界に出入りする私の姿は、突然消えたり現れたりするお化けみたいだったのでしょうか? 何だか申し訳ないです。


「あっ、でも慣れたら困るよ。三日月さんには早く目を覚まして貰わないと。ああ、あと訊きたいこともいっぱいあるの」

「じゃあ場所変える? ここ暑いし何か暗いしだから。あっちに可愛いお店みたいなのあったよ」


 私達は一旦近くにあったカフェに移動しました。カフェは新しくて見た目もお洒落で、何処を切り取っても写真映えがしました。


「こんなのあったよー」


 和兎くんがケーキを何処からか手慣れた手つきで運んで来ました。常習犯に違いありません。

 テーブルの上に紅茶やフルーツジュース、ケーキが並びます。


「まずは三日月さんの状態なんだけど、今は病院に入院してるみたい。一応命の心配はないって」

「そっか……良かった」


 強張っていた三日月さんの表情が少し緩みました。


「それでなんだけど、三日月さんはどうしてこうなったの? 知念くんからは崖から落ちたらしいしか聞けなかったんだけど」

「私、お母さんのパート先に行ったの。お母さんが何隠してるのか知りたくて……でも、その仕事の場所でカーテンがほんの少しだけ開いていた所を覗いたら、中にあの……行方不明の子が居て」

「山本沙那さんがそこに居たんだね」


 三日月さんが頷きます。


「私びっくりして声が出ちゃったの。そしたらその子の近くに居た男に気づかれて」

「男? それってどんな人? 年とかは?」

「何か……普通な人だった。年も若いようなお父さんくらいいってるような……良く分からない人。でも目が凄く怖かった。私その人に追いかけられて、どんどん森みたいな変な所に入っちゃって……そこから記憶がない」


 三日月さんが紅茶の入ったティーカップをつんつん突いています。突かれるたびに紅茶に波紋が浮かびます。


「沙那さんの様子はどうだったの? 無事だった?」

「怪我とかはなしい、髪とか服とかも綺麗にしてた。ただ、凄く怯えていた」


 三日月さんがティーカップを突いていた指を止めて、手をぎゅっと握り締めました。


「あの子、何とか助けられないかな。私があの男に見つかった時、あの子私に「逃げて」って言ったんだよ。自分だって怖いはずなのに」

「頑張ってみるよ」


 地図を広げて沙那さんの居た場所を確認します。大きな川の土手近くで、持っていた簡易的な地図には何も描かれていません。学区も違うし近寄ったこともない場所です。


「ちなみにお母さんは何の仕事をしてるの?」

「良く分かんないないけど、事務みたいなこと言ってた」

「僕もこの辺は行ったことないから分かんないや」

「じゃあ行ってみる?」


 私達はケーキと飲み物を平らげてから、沙那さんの居たという場所を目指します。


 外は私達の気分とは違ってギラギラ眩しく照らされていました。三日月さんのキックボードがないので、一応ガラガラ押しながら歩いて進みます。

 道中は思いのほか和やかでした。時間によっては大渋滞になるほど交通量の多い道路も、ここでは車は一台も走っていないので真ん中を堂々と歩きます。


「佐倉さん、姫ちゃん達と会ったんだよね。みんな元気だった?」

「私が会ったのは二人だけだけど、元気……ではなかったよ。落ち込んでたよ」

「そっか、そうだよね。悪いことしちゃったな」


 しぃちゃんが真ん丸な目をこちらに向けます。


「悪いことしてるの?」

「えっと、心配かけちゃって申し訳ないかなって……そういえばこの子は誰?」

「この子はしぃちゃんだよ。何ていうか、お化け屋敷近くで会ってずっと一緒に行動してる」

「そっ……そっか」


 途中で何度か休憩を挟みます。和菓子屋さん、年配の人向きの服屋さん、やたらと暗い本屋さん……目的の場所に近づくごとに猛暑の場所が増えていき、逃げ込める建物を探しながら進みました。


「見てー、地図の本見つけたー」


 しぃちゃんが車の修理工場の事務所から、黒い表紙の大きくて分厚い本を見つけてきました。開いてみると全てのページに地図が描かれています。


「これって何処の地図?」

「関東って書いてあるからこの辺もあるんじゃないかな」

「このページにある?」

「東京タワーって書いてあるから絶対違うと思う」


 和兎くんが地図の本を手に取りペラペラとめくります。そして、あるページを大きく開きました。


「ここが今居る場所だよ。で、このページの上とか横とかに数字書いてあるでしょ。それがこの地図の続きが描かれてるページだよ」

「なるほどー」

「えっと、じゃあ……ここだよ。私達が向かってるのは」


 三日月さんが指差した場所は、何もないような場所にぽつんぽつんと建物が建っている寂しい場所でした。確かに、ここにある建物の中なら大声で叫んでも気づかれにくいのかもしれません。


「この本一応持っていく? でも重いよね」

「ポラロイドカメラでもあれば良いんだけどね」

「ポラ……ロイド?」

「撮った写真がそのまま現像されてカメラから出てくるやつ」

「チェキみたいな?」

「……多分?」


 忘れがちですが、和兎くんはお父さん達の一、二こ下なだけの大人の時代の人でした。


 重い本は諦めましたが、元々持っていた地図に必要そうなものだけ書き足して再び出発します。中心地を通り過ぎるとお店の数も民家の数も減ってきて、右も左も林に挟まれた道ばかりになりました。途中にある脇道もどれも車一台がやっと通れる細さで、狭苦しく感じる場所でした。


「わぁ、凄い」


 急に視界が開けました。道の突き当たりにあった大きな建物の駐車場から、低い位置に平たく何処までも広がる田んぼが見えました。

 田んぼの稲が風になびいてサラサラ波のように揺れています。平地だらけで高低差のあまりないこの町に、こんな景色があるなんて知りませんでした。


「この建物もすっごい。宮殿みたい」


 確かにそこにあった建物は派手な装飾はないけれどピカピカに磨かれた石のタイルで覆われていて、上品で重厚です。


「いや、そうなんだけど……ここ火葬場だから」


 それを聞いた私と和兎くんがしぃちゃんを建物から引き離します。多分安全なようになってるとは思いますが、しぃちゃんのことですからうっかり変な所に入って燃えかねません。


「お母さんのパート先ってまだ遠いの?」

「ううん。木で見えないけど、もうすぐ着くよ」


 再び林の中みたいな道に入って行きましたが、言われた通り数分で目的地に到着しました。


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