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7-9


 ────


 気が付くと夢の中のショッピングモールの二階でした。三日月さんの姿はもう何処にもありません。


「何かあったの?」


 一階から和兎くんが上ってきました。


「三日月さんが居たんだけど逃げられちゃって。和兎くん見てない?」

「僕は見てないけど、警戒されちゃったかな? 来たばかりの子だとたまにあるよ」

「でも、どうしよう。会えても逃げられちゃうんじゃ」

「あんまりグイグイ行くともっと逃げられちゃうし、しばらく別のこと調べてみる? バーベキュー場の火事とか、結斗兄ちゃんが行きそうな場所とか……そうだ、警察行かない?」

「警察?」

「警察が捜査してる資料見れるかもしれないよ」


 はっとしました。確かに夢の中ならどんな場所でも入り放題調べ放題です。


 警察署へは行ったことはありませんが、場所は分かります。町中から少し外れた所にあって、木が鬱蒼と生えた道を抜けた先に建っています。木陰が多くて多少は涼しいです。

 警察署の建物は、近くで見ると入ることを躊躇してしまうほど古く汚れていました。自動ドアを通って中に入ると節電の為なのか、明かりが所々点いていません。冷房もそれほど効いていないみたいで、外よりはマシですがじんわり暑いです。


「何か、怖いね」


 今まで色んな所を巡って来ましたが、ここが一番不気味でした。


「けーさつしょって牢屋あるの?」

「探してみる?」

「止めようよ、怖いよ」


 入り口から入ってすぐの壁には案内板らしいものがありましたが、ごちゃごちゃと文字が書いてあって良く分かりません。


「何処探せばいいんだろう」

「刑事ドラマに出てきそうな場所探してみる?」


 警察署の廊下は思っていたよりも狭く、天井も低い気がして圧迫感がありました。ドラマに出てきそうなパソコンが机の上に並んだ部屋がありましたが、どのパソコンも真っ黒い画面のままです。


「あ、これ電源が入らないんじゃなくて画面が映らないんだ」


 どっちにしろ使えません。


 机には書類や資料らしきものがまとめられたファイルなどもありましたが、どれも書いてあることが難しくて良く分かりません。それに私達には関係ないものばかりみたいです。


「困ったね。全然わかんないや」

「ドラマだと証拠品しまってある倉庫みたいなのあるよね」

「鍵かかってるんじゃない?」

「じゃ、鍵探す?」


 あまりにも途方もない気がします。


「ねぇ、あれ」


 しぃちゃんが窓の外を指差しています。覗くと警察署の門に人影がありました。間違いありません、三日月さんです。


「あの子が来たよ」

「でもどうしよう。このまま行っても逃げられちゃうだろうし」

「なら、さっき見られてない僕が行ってみるよ」


 私達は一階に移動して、私としぃちゃんは受け付けカウンターの陰に隠れます。息を潜めて待っていると、三日月さんが警察署内へと入って来ました。


「すみませーん、誰か居ませんかー」


 何度も声を上げている三日月さんの声は、少しづつ自信なさげに小さくなっていきました。


「どうしたの?」


 和兎くんが声をかけるのと同時に「ひゃっ」と三日月さんが小さな悲鳴を上げました。でも、すぐ逃げたりはしませんでした。


「あの、他に誰か居ない? 警察の人は?」

「居ないよ。多分ここ大人は居ない」


 少し無言になりました。


「えっと……えっと……ここって何? 日本で合ってる?」

「僕も良く分かんないんだけど、町の記憶が形になった場所かな。ホラーに出てくるような裏側の世界とか異界とか……怖いことないからそれとも違うのかな。取り敢えずお姉さんの元々居た世界ではないと思うよ」

「え……私、帰らないとなんだけど」

「別の人は夢から醒めたら元の世界に戻れるらしいけど、お姉さんは違うの?」

「夢? 夢なのここ?」

「その人にとっては夢らしいけど、多分僕にとってはそうじゃないよ」

「あの……ちょっと良く分からないんだけど、あなたは何者?」

「僕は小泉和兎。結構昔からここに居るんだ。ねぇ、お姉さんはどうしてここに来ちゃったの? それ次第で帰れるか帰れないか変わっちゃうけど」


 長い沈黙がありました。


「私、私のお母さん、何かおかしくなっちゃって。で、人殺しって言われて、でも信じたくなくて……お母さんの跡をつけたの。で、働いてる場所が分かって、そこをこっそり覗きに行ったりしてて、で……」


 聞き取り難いほど弱々しくなる声が途切れてしまいました。もどかしいけれど、今カウンターから飛び出しては台無しです。ぐっと我慢をします。


「私、見ちゃったの」

「見た? 何を?」


 耳を澄まします。自分の息の音すら煩わしく感じました。


「ニュースの子。みんなが捜してた子。でも私追いかけられて……あ、どうしよう、私……死んじゃったのかな」


 私にも聞こえるほど、三日月さんの呼吸が荒れています。蒸し暑さも忘れてしまうほど体の芯がサーッと冷えていきました。和兎くんは動じずに話を続けます。


「もっと詳しく話してくれない? 捜してた子って、えっと……山本沙那って子で合ってる?」

「知ってるの?」

「さっき言った、夢でここに来てる子が教えてくれた」

「それって、佐倉芽生って子?」

「そうだよ」

「……その子、私のこと怒ってなかった?」


 びっくりしました。一体何のことでしょうか。


「何でそう思うの?」

「前にお母さんと、知り合いっていう人が言い争ってて、こっそり聞いちゃったんだけど、昔イタズラが原因で火事になったとかどうかって言ってたけど……夏休み前に玲音くん、私の友達の男の子なんだけど、玲音くんと別の男子が廊下で言い争ってて、それが佐倉さんのお父さんのことで、もしかしたらだけど私のお母さんが殺したっていうのは佐倉さんのお父さんのことだったんじゃないかって……私、お父さんの仇の娘だから」


 声が震えています。私はそこまで考えてなかったのに。


「怒ってなかったよ」

「……本当に?」

「そうだよね?」


 私は立ち上がり、カウンター越しに三日月さんと対面します。彼女は今にも泣き出しそうな顔で体を震わせていました。


「私はお父さんのことまだピンときてないし、もし三日月さんのお母さんが悪いことしてたとしても三日月さんは関係ない……と思う。ただ、姫ちゃんには謝って。すっごく心配してたんだよ」


 私を見る目が潤んで、サンキャッチャーのように煌めきます。


「ごめん、代わりにごめんって伝えてくれないかな」


 直接謝りなよと、危うく言うところでした。三日月さんが姫ちゃんにもう一度会えるのかどうかは、まだ分かりません。


 ────


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