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7-6


 伸ばした手の先は天井でした。


 時間を確認しようとスマホを見ると、ハルちゃんからメッセージが届いていました。


—今どこにいる。


 どうやら昨日の夜に届いていたみたいです。メッセージでも丁寧な文章を書くハルちゃんにしてはさっぱりとした内容です。


「起きろー朝めしだぞー」


 山田さんが廊下を通り過ぎていきました。


 今日は雲が多い日です。青空は見えるけど太陽が雲に隠れるたびに薄暗くなり、またギラッと眩しくなりを交互に繰り返しています。ぼーっと見ていると酔ってしまいそうです。

 今日は、一度家に帰って空気の入れ替えとお母さんに頼まれた仕事のものを取ってくる予定です。山田さんと一緒にチカチカする外へ出ると、隣の家の前に坂本さんが立っていました。


「あ、そうか君の家だったな、そこ」


 山田さんが舌打ちします。


「何かあったんですか?」

「いやいや、ここは世話になった人の家でな」

「もういーだろ、早く行くぞ」


 山田さんに強引に引っ張られながら私達は出発しました。空は雲の量が少し減って、ギラギラの太陽が照りつけてきます。


「ちょっとコンビニ寄っていいか」

「うん」


 家までの道中にあるコンビニの自動ドアが開くと、ヒヤッとする冷気に迎えられました。かいた汗が冷えて震えるほどでした。


「あれ、芽生ちゃん?」


 聞き覚えのある声に、何故かゾクッと身震いしました。振り返るとニコニコと満面の笑みのハルちゃんが立っていました。


「終業式以来だね。元気だった?」


 当たり障りのない返事を返しました。心配性なハルちゃんには、お母さんのことも山田さんの家にお世話になっていることも言っていません。


「あ、昨日メッセージ返事できなくてごめんね。気が付かなくて」


 すると、ハルちゃんの顔から笑顔が消えました。


「何のこと?」

「え、だって」


 スマホを取り出してメッセージを開きます。その画面をハルちゃんに見せると、ハルちゃんはびっくりしながら自分のキッズ携帯を確かめます。その顔はみるみる青ざめていきました。


「何これ知らない。だってこの時間習い事だし」

「どうかした?」


 買い物を終えた山田さんが、棚からひょっこり顔を出しました。


「ぎゃあぁ!」


 店内中に響き渡る叫び声を上げてハルちゃんは店の外へと逃げて行きました。


「ハルちゃん?」


 慌てて追いかけますが、店の外に出た時にはもうハルちゃんの姿はありませんでした。困惑気味の店員さんが、どうしたのか訊いてきましたが上手く答えられません。


「ってか、何の話してたんだよ」

「昨日ハルちゃんからメッセージが届いたんだけど、ハルちゃんは知らないって」

「なりすましとか、乗っ取りとか言うやつか?」

「分かんない、そうなのかな? あ、でも驚いたのは山田さんのせいだと思うよ」

「結局私かよ」


 店員さんに騒いでしまったことを謝ってから、コンビニを後にします。


「どうしよう、ハルちゃん捜した方がいいかな。でも山田さん見たらまた逃げちゃうだろうし」

「人を殺人鬼か何かだと思ってるのか。流石に親にでも相談するだろ」

「そうだね。じゃあ私達も早く行こうか」


 痛いくらい強くなってきた日差しを、影を渡りながらかわして進みます。アパート近くまで来ましたが、もう影がありません。


「あと十数メートル、一気に行くぜ」


 意を決して、私達は影から飛び出します。


「きゃあ」


 急な悲鳴に体が勝手に飛び退きました。アパートの玄関側から聞こえたような気がします。行くべきか誰かを呼んでくるべきか考えている間に、小さな子がアパートの陰から飛び出してきて走り去って行きました。


「どうしよう、何かあったのかな……家に行って大丈夫かな」

「ちょっと待ってろ」


止める間もなく、山田さんはアパートまで走って行ってしまいました。玄関が見える所まで行った山田さんが立ち止まり、何かを見ています。


「山田さん、どうしたの? 何かあったの?」


 山田さんがこっちを向いて手招きしています。変に思いながら山田さんの傍まで行きました。

 眩しい日差しの影になっている玄関付近は暗くて良く見えませんでした。でも、目が慣れてくると座り込んでいる人が見えてきました。


 ウェーブのかかった長い黒髪、白い長袖のブラウスに黒いワンピース、全身花まみれになって呆然としている中学生くらいの知らない女の子でした。


「あの、大丈夫ですか?」


 呆然としていた目がこちらを向きます。


「あ……はい」


 女の子は立ち上がろうとしましたが、ふらっとよろけてまた座ってしまいました。足を痛めてしまったようです。


「きっ、救急車を呼んだ方が」

「ひねっただけなので大丈夫です」


 壁に寄りかかりながら立ち上がり、よろよろと道の方へと歩いて行こうとしてます。でも一歩進むごとに体がよろめき、今にも転んでしまいそうでした。


「待って下さい。あの、ここ私の家なので湿布ぐらいならあるので」


 ぱっと女の子が振り向きました。


「ここの子なの?」

「はい」

「じゃあ、あの……隣の芝原さんって、いつ頃帰ってくるとか分かるかな。いつ来ても留守で」


 びっくりして山田さんと顔を見合わせました。彼女の顔は真剣で、本当に何も知らないようでした。


「どうする?」


 山田さんが訊きます。


「話をした方が良いと思う」


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