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7-5


 ────


 ある地区の小さな公民館に、古ぼけた地図の看板が立っていました。今使っている地図はざっくりとしか道が描かれていなくて、細かい場所は分からなかったので助かります。


「三日月さんが向かった先にあるのはお父さんの実家くらいだけど」

「そのお友達、よく友達の親の実家知ってたね」

「昔、三日月さんお父さんの実家で暮らしてた時があったんだって。その時に何度か遊びに行ったことがあったらしくって」


 三日月さんのお父さんの実家も、それなりに大きな日本家屋の家でした。敷地内に何軒も建物が建っていて、古い木造の倉庫みたいなものから鉄骨造りで中にトラクターが停まっている車庫、一階が一面ガラス張りの作業場みたいな建物もあります。

 多分母屋だと思う建物の、玄関にあるインターフォンをドキドキしながら押します。家とはちょっと違うピンポンという音が響きましたが、何の反応もありません。


「すみませーん、誰か居ませんかー」


 誰も答えません。和兎くんが玄関扉をガラッと開けます。


「誰か居ませんかー」


 留守のようです。


「居ないね」

「玄関にメモでも置いてみる?」


 ノートのページを一枚破り「これを見たらショッピングモールの吹き抜け広場で待ってて下さい。話したいことがあります」と書いて、玄関にあった置物を文鎮代わりに上に置きます。


「次の場所は?」

「三日月さんの家も、良く遊ぶ場所も逆方向で結構遠いんだよね。そろそろ徒歩だと辛いね」

「何処かで自転車でも借りる? あ、でもしぃちゃん自転車乗れる?」

「乗ったことない」

「一応ホームセンターでも行って探してみる?」

「そうだね、他回るのに時間がかかり過ぎでショッピングモールで待ちぼうけにさせちゃったら帰っちゃうかもしれないし」


 私達は一旦ホームセンターに立ち寄ることにしました。広い建物の中にも外にも色んな商品がたくさん売られています。

 しぃちゃんは、やっぱり自転車には乗れませんでした。補助輪が付いているものでも拙いです。


「良いの見つけたよ!」


 和兎くんが持ってきたのはキックボードでした。


「これならしぃでも乗れるよ」


 広い駐車場をしぃちゃんがキックボードで縦横無尽に走り回っています。


「坂道は危ないから絶対キックボードから降りるんだよ。私達の前を走らないでね。分かった?」

「分かったー」

「……大丈夫かな」


 私達はキックボードに乗って、三日月さんの家へと向かいました。途中から暑くなった気温に苦戦しながらも何とか辿り着きました。

 三日月さんの家は、比較的新しい今どきな家でした。インターフォンを鳴らしますが、ここにも三日月さんは居ません。流石にこの家の鍵はかかっているだろうなと思いながらも、ドアノブに触れます。ガチャ、開きました。


「え、あ、開いちゃった」

「どうする? この家さっきの家と違って気温も変わってたし、何か手がかりあるかもしれないけど」

「え、う……うーん」


 勝手に入ったのを三日月さんに知られたら、信用を失って話にならない気がします。


「ショッピングモールでの待ち合わせを優先させよう。全然駄目だった時にまたここに来よう」


 玄関ドアに、ホームセンターでついでに手に入れたガムテープでメモを貼り付けます。メモには追加で「何処かにメモを残してくれると助かります」とも書き加えました。


「あれ、でもこの世界って勝手に元に戻っちゃうんだよね。メモってちゃんと残るの?」

「僕達が理由があって動かしたり何かしたりしたものは結構長く残るから大丈夫だと思うよ」


 他の三日月さんが関わる場所も一気に回ります。三日月さんは見つかりませんでしたが、メモは大量に残すことができました。


「じゃあ待ち合わせ場所に行ってみようか」

「そういえば私が夢から醒めている時って、こっちはどうなってるの? もし待たせちゃうようなら先に行ってもらったほうが良いけど」

「多分だけど一、二分芽生ちゃんが消えてる時があるから、その時なのかな? そんなに時間経ってないから大丈夫だよ」


 ショッピングモールの近くは、五月末の気温に戻っていました。景色もそれくらいの季節です。


「中、結構変わってるね。前は……八年くらい前のショッピングモールだったし。僕の時代だとまだ建ってなかったんだけどね」

「ここってショッピングモールが建つ前って何があったの?」

「何もなかったよ。木がわしゃわしゃ生えてただけ」


 ショッピングモールに入ると店内放送が陽気な音楽と共に「いらっしゃいませ」と迎えてくれました。でも誰も居ません。

 待ち合わせの吹き抜け広場へ来ました。三日月さんは居ませんし、メモらしきものもありません。


「もうちょっと待ってみる?」

「吹き抜け周りの店なら誰か来たら分かるだろうから時間潰そうか」


 吹き抜け広場のベンチに「店内に居ます。ベルで呼んでください」と書いたメモと、何処かのレジ横から持ってきた呼び出しベルを置いて、私達は自由行動にしました。

 二階アクセサリー店にしぃちゃんと一緒に行きます。キラキラしたヘアクリップにしぃちゃんが夢中になっています。


「着けてみる?」

「うん」


 最初は、これでもかとヘアクリップを髪に大量に挟んでいたしぃちゃんですが、何か違うと思ったのか全て外します。


「しぃ、あれやりたいけど、どうやるの?」


 アクセサリー店に貼ってあったポスターを指差しています。そこには凝った編み込みの髪型をした女性が写っていました。


「あれは難しいかな」

「無理?」

「うーん、ちょっと待って」


 近くにあった本屋さんからヘアアレンジの本を借りてきます。見よう見まねでしぃちゃんの髪を編み込みます。不格好ながらもそれっぽく仕上がりました。


「飛び出た毛はピンで隠しちゃえ」

「わぁ、かわいー。ありがとう」


 ずっと長いストレートヘアを、そのままにしていたしぃちゃんの印象ががらりと変わりました。そして、気が付きました。

 中島さん。いつも凝った編み込みのヘアアレンジでアップスタイルだった中島さん。彼女が髪を下ろしたら山田さんくらいの長さになるのではないでしょうか。ゆりあさんを階段から突き飛ばしたのは彼女だったのではないでしょうか。


「どうかしたの?」

「ううん、何でもない」


 もっと早く気づいていれば何か変わったかもしれませんが、もう遅いです。もうみんな一番最初のこの事件のことを忘れてしまっています。そういえば中島さんの話は、ゆりあさん以上に聞きませんが今どうしているのでしょうか。


「よし、じゃあ次はしぃが芽生ちゃんの髪やる」

「えっ、いいよ。私そんなに髪長くないし」

「大丈夫大丈夫、遠慮しない遠慮しない」


 興奮気味にヘアアレンジの本をめくっています。遠慮というよりも心配なのですが……。

 ……視線を感じました。しぃちゃんは本に夢中なので違います。一階でガチャガチャの機械を分解していた和兎くんが来たのでしょうか? でも見渡してみても誰も居ません。

 ヘアクリップの陳列棚の前へ行きます。後ろにある鏡を使って、私の後ろ側を観察します。居ました。吹き抜けの反対側にある雑貨店のディスプレイに身を隠しながらこちらを見ています。キラリと髪飾りが反射しています。


「三日月さん」


 振り返って叫ぶと三日月さんは驚いたように立ち上がり、逃げ出してしまいました。


「え、待って!」


 私は届かないと分かっていながらもでを伸ばしました。


 ────


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