第六話 式部さんとファン
「式部さんは――藤香さん、なんですか?」
その細くも熱い声が、私の耳の奥に染み込んでいく。
――大きな衝撃と共に。
藤香。
それは確かに、私のペンネームだ。
なんでわかる? なんで知っている?
……いや、さっきノートを見られていた。
ノートには、ヒカルくんを描いた。
丁寧に、源ヒカルという名前も添えて。
もしかして、私の小説の読者?
頭の中に、一筋の光が差し込む。
知っている、あの子なら。
このたった数秒間で、私の頭は何回転したことだろうか。
私は、なんと言うべきだろうか。
「そうだ」と言おうか。「違う」と吐こうか。
リアルと投稿サイトを、混同させたくはない。
面倒くさい。
バレたくない。
そんな言葉が、頭の中を駆け回る。
できることなら、否定したい。
嘘つきになってもいい、現実と液晶の向こうは違うのだから。
でも。
「――そう、です……Akiさん」
こんなに近くにいた読者を、どうして逃すことができようか。
今度は、彰子さんが目を見開く番だった。
「わかったんですか……? 私のこと」
わざわざ、教室の真ん中で言うことでもない。
チラチラとこちらを見ている人たちもいる。
なぜあの二人がこんなに長く話しているのか、などと思っているのだろう。
正直、視線が煩わしい。
けれど、私の口からは言葉が流れていく。
「わかりますよ。たった一人のファンだから」
自分でも、顔が赤くなっているのがわかる。
なんてこと言ってるんだ。
「藤香、さん……!」
「式部です。リアルでは呼ばないでください。私は、今は藤香ではないですから」
「は、はい、式部さん」
小さな声の、私たちにとっては大きな会話。
はあ、どうしようか。
新しいクラスでも地味に生きようとしていたこの式部香は、どうやらクラスメイトにファンがいて、身バレしてしまったようだ……。




