第七話 式部さんと家庭教師
それから彰子さんは、私が小説を更新するとリアルでも感想を伝えてくれるようになった。
あのシーンの二人が良かったとか、もどかしい、とか。
まあ、話すのも少しだけだ。長くは話さない。
そんな日々が続いていた、ある日。
「式部、さん、あの……」
「なんでしょう?」
彰子さんが、もじもじと手を弄りながら話しかけてきた。
なんだろうか。
「源くん」の感想だろうか。
いや、それにしては、いつもと様子が違うような……。
「あの、その、式部さん、に……お願いが、ありますっ」
「お願い?」
お願い、か。
無理なものでなければ、応えても良いだろう。
私は、小さな彰子さんの声に耳を傾けた。
「式部、さん……! 私の……」
彰子さんの小さな口が、柔らかな瞳が、開かれていく。
「私の、家庭教師になって、ください……!」
心臓が、大きく波打った。
「家庭、教師……」
何か、普通なら言われないことを言われたような気がする。
反応が遅れる、というか反応に困る。
私の口から溢れた言葉を、彰子さんはどう捉えたのだろうか。
「あ、その、『源くん』の小説のことを、父に話してみたの……」
「えっ、私の小説を⁉︎」
先ほどと違い、秒で反応した私に、彰子さんはビクリとした。
そして、精一杯というふうに言葉を絞り出す。
「あの、本当に少し……そうしたら、父が興味を持って……この作者の子は賢いんだよ、と説明したら……ぜひ家庭教師に、と……」
ちょっと待て。
なぜ私の成績が良いことを知っている⁉︎
私は地味に地味に、陰になろうと心がけて……そのために、成績のこともバレぬようにしていたのに……!
いや、待てよ。
彰子さんは、去年も同じクラスだった。
去年の陽キャクラスメイトに、テストの結果を見られたことがあったっけ。
国語が九十八点で、学年一位だった時だ。
そのとき、点数を言いふらされたっけ。
だから知っているのか。
いや、それは良くて。
「なぜ家庭教師に?」
「いや、それは父に聞かないとわかりません……」
彰子さんの、父。
何故私に娘さんの家庭教師を、そして何故娘さんに家庭教師をつけようと。
何も見えないからか、不安が残る。
家庭教師ということは、彰子さんに勉強を教えるのだよな。
私の成績なら彰子さんにも教えられるような気がするし、私が役立てるのならやってもいいけれど。
彰子さんには、いつも小説を読んでもらっているし。
でも、すぐに引き受けるのは違う気がする。
「いいですけど……でも、お試しで何回かやってからでいいでしょうか」
「本当ですか……?」
彰子さんの顔が、ぱあっと輝く。
「あ、報酬は弾みますから!」
笑顔で付け足す、彰子さん。
その顔が見られるのなら、やってみてもいいのかな、なんて思った。




