第三話 式部さんと委員会
委員会。
それは、面倒極まりない仕事。
自分から進み出る者は多くなく、私も本来ならやりたくない。
……あれを除けば。
今日は、委員会決め。
私の心は、戦に出陣する武将のようにやる気に満ちていた。
学活は、六限目。
それまで、そわそわしたままでいるのか。
……私らしくない。
でも、私は絶対にあれをやりたい。
その気持ちだけは、変わらない。
……次の授業は、国語。
担任の赤染先生の授業だ。
準備をすべく、私は机の中から国語の用意を出した。
そのとき。
「ってことで、頼むわー」
「う、うん……わかっ、た」
なにやら、女子たちのやりとりが聞こえてきた。
……それも、妙に嫌な感じの。
チラリと向こうを窺うと、藤原彰子さんが陽キャ女子に絡まれていた。
「頼む」、と言っていたな。
何を頼んだのだろうか。
……って、私は関係ない。
ああいうのにいちいち首を突っ込んでいたら、トラブルの元だから。
なんとなく重く沈んだ気分を切り替えるため、私はお茶を口に含んだ。
―――
ついに、六限がやってきた。
運命の時間。
「まずは、学級委員から決めましょうか」
赤染先生が、黒板に「学級委員」と書く。
候補者を募り、投票で決めるのだろう。
「男女一人ずつなのだけれど、やりたい人はいますか? まずは、男子から」
先生が、教室をくるりと見た。
そこに――一つの手が、挙がった。
名は確か、一条懐仁。
このクラスで一番の優等生……だろう。
「一条くん以外はいませんか?」
沈黙。
いないようだ。
「では、男子学級委員は一条くんに決定しましょう。次は、女子ですね」
来た。
私はやらないぞ、と思いながら、顔を俯ける。
どうせ、誰かがやってくれるだろうし。
「女子でやりたい人はいますか?」
ひたすら、黙って俯く。
仕立て上げられるのは、ごめんだ。
机の木目と見つめ合うこと、数秒。
教室の空気が、変わった。
「……藤原さん。いいのね?」
「…………はい」
蚊の鳴くような声に、顔を上げる。
上げざるを得なかった。
彰子さん、が?
そんな疑問が、頭の中を駆け巡る。
彰子さんは、確かに手を挙げていた。
頰は赤くなっている。
勇気を出したから、だろうか。
「では、男子は一条くん、女子は藤原さんにお願いします」
パチパチ、という拍手が鳴り響く。
おかしい。彰子さんが、なぜ?
彼女は内気で、学級委員なぞ望む人ではない。
それは、私が見てきてわかったことだ。
なぜ。なぜだ。
少し冷めたような教室の空気。
押し付けられたのか。
視界の隅で、何かを捉えた。
瞳を動かす。
そこでは、一人の女子が笑っていた。
まるで、「よくやった」とでも言うように。
……押し付けたのだな。
彰子さんの優しく、抵抗しない人柄を利用して。
その女子は、朝、彰子さんと話していた人だ。
きっと、誰も女子学級委員になることを望まなかったからだろう。
私は入っていないが、トークアプリのクラスチャットなどで、希望者がいないことは把握できるだろう。
その陽キャ女子は、彰子さんに押し付ければ早く話し合いが終わると思った。
自分に回ってこないと思った。
……嫌なものを見てしまった。
私は、彼女から目を逸らした。
その後は、委員会決めはつつがなく進んでいった。
「では、図書委員は式部さんと世尊寺くんで決定です」
よしっ、と机の下で拳を握る。
私は、望んだ委員会に入ることができた。
絶対に勝ち取ってやるとも思っていたし、そのこと自体には胸が高鳴るけれど。
頭にチラつくのは、彰子さんのあの表情。
図書委員 式部香
世尊寺行成
そう書かれた黒板を見ても、なぜだか去年ほど嬉しく思わない。
それは多分、いやきっと、このクラスの雰囲気のせいだ。そうに違いない。




