第二話 式部さんと小説
家に帰ると、私は真っ先にパソコンのキーボードに手を置いた。
光る液晶に映し出されるのは、文章、文章、文章……。
小説だ。
私は、まっさらなページを開いた。
まだ何も書かれていない、開拓されていない場所。
私だけの更地。
毎日のように訪れる場所。
そこに行くと、ありえないくらいにするすると言葉を紡げた。
頭の中には、主人公・源ヒカルくんの学園生活が、女の子との出会いが。
ああもう、打鍵するスピードも遅いくらいだ。
もっともっと、速く叩けたらいいのに。
気がつくと、書き切っていた。
私は、ページの最上部までスクロールした。
読み直すために、だ。
読者の視点から読み直すことは、とても大切だ。
独りよがりな文章になってしまっては、いけないから。
連載タイトルは、『源くんの学園生活物語』。
そのまま。直球すきるけど、これでいい。
源ヒカルくんは、早くに母を亡くした男の子。
そんなヒカルくんにも、今は継母がいる。
名を、藤さんという。
ヒカルくんの実母、桐子さんによく似た女性だ。
ヒカルくんは、中学校に入ると葵ちゃんという彼女ができた。
四つ年上の彼女はツンデレで、まだなかなか素直になれない。
これまでは短編を書いてきたが、これは新連載。
この作品で、初めて長編に挑戦する。
これまで短編を読んで好きになってくださった方々が、連載作品の『源くん』を好きになってくれるのか。
そんな不安も、もちろんある。
けれど、私はこれを書きたい。
のびのびとやっていればいいのだ。
早速、投稿してみようか。
そう思い立ち、投稿ボタンを押す。
心臓が、一回高鳴った。
ああ、投稿しちゃった。
血液が巡る。頰が紅潮する。
私は数分後、じっとりと汗をかいた手でアクセス画面を開いた。
どれぐらいの人が見てくれただろう。
見たくない、見たくないけど……見なければ。
薄目で液晶を見ると、「十」という数字が見えた。
十PV。
この物語は、十回見られたのだ。
あっ、感想が来ている……!
感想を書いてくれる人は、あの人しかいない。
案の定、私の思い浮かべていた人の名が書かれていた。
名前は、「Aki」。
私の読者だ。
『藤香さんの連載、待ってました……!
葵ちゃんとの関係性、この先がとても気になります。じれったいです……。
無理せず書き続けてください!』
気がつくと、私は頰を触っていた。
私、にやけてしまっている。
嬉しい。こうして感想を書いてくれるのが。
藤香というのは、私のペンネームだ。
そして、葵ちゃんとの関係性のことだが……私は、とても複雑な気持ちになった。
なぜなら、ヒカルくんは今後、たくさんの女性と巡り合い、恋愛に陥っていくから。
正直、作者である私も彼のことはクズだと思う。
でも、クズでいいじゃないか。
物語の中なのだから、夢を見たっていい。
私は、そう思っている。
それと。
応援してくれる方がいるから、私は頑張れる。
「ありがとうございます」
気づいたら、そう呟いていた。




