第二十話 納言さんと春はあけぼの
春は、明け方が好き。
そんな書き出しで始まった桔梗色のノートを、私は次々と埋めていった。
まずは、四季の話。
私なりの四季って、なんだろう。
そう考えたときに最初に思いついたのは、春の明け方の情景だった。
空が明るくなっていくところ。
雲がたなびいているところ。
そんな空の様子が、私は好きだ。
他の人が読んだら、呆れるかもしれない。
だって、春といえば桜だから。
桜に限らず、色とりどりの花が咲き乱れる様子は、確かに春ならではだ。
でも、春のテンプレートをなぞるだけなんて、嫌だ。
どこかで見たような文章になってしまうのは、嫌だ。
それで、おもしろくなるのか。
それで、定子さまは喜んでくださるのか。
何より、私が魅力を感じる春は、明け方だった。
だから、私はこう書き出した。
春は、明け方が好き。
だんだんと白くなっていく山際の空が少し明るくなって、紫がかった雲が細くたなびいているのが好き。
これが、私から見た春だ。
それから私は、次々と夏、秋、冬を書いた。
夏は、夜が好き。
月はもちろん、闇も、蛍が多く飛び交っている。
そして、ただ一匹二匹、ほのかに光って飛んでいくのも、素晴らしい。
秋は、夕暮れが好き。
夕日が差して山の端にすごく近くなったとき、カラスが家に、三羽四羽、二羽三羽、急いで飛んでいくのも美しい。
まして、鳥たちが連なっているのが小さく見えるのも、好き。
日が沈んで、虫や風の音が聞こえるのも、言うまでもない。
冬は、早朝が好き。
雪が降っているときは言うまでもないし、霜がとても白いのも、そうでなくても、とても寒くて、ストーブをつけるのも冬らしい。
ストーブを切ったら寒くなるのは、ちょっと嫌だ。
全部を書いてから、見直す。
ちょっと、下手な文章になってしまったかもしれない。
でも。
私は、私の感じたままを書けたんだ。
感じたままの四季を。
私が見て、感じている、この世界を。
胸の奥に、火がついた気がした。
それは、達成感という火なのだと思う。
もしかしたら、創作意欲という火なのかも。
この火が消えないうちに、また書こう。
私は、転がっていたシャーペンを手に取る。
そして、湧き出てきたアイデアを、綴り始めた。




