第十九話 納言さんと枕草子
「うーん」
私は、頰杖をついて唸っていた。
目の前には、桔梗色のノート。
手には、シャーペン。
私は、定子さまより賜ったこのノートに「枕」を書くべく、ここ数日間ずっとこうしている。
でも、アイデアはなかなか降ってこなくて。
アイデアが、そこらへんから出てきてくれるといいのに。
「はあ、何も書けないよ……」
定子さまはあのあと、書いたら見せてね、と仰っていた。
だから、最高傑作を書きたいのに……。
私は、机に置いてあったスマートフォンを手に取る。
メッセージアプリの定子さまとのトークを開いて、文字を打ち込む。
「えーっと、枕に何を書いたら良いでしょう……なんて、相談できないや」
私は、送信しないままメッセージを消した。
定子さまから課された宿題なのだ。
自分一人の力で遂行したい。
「うーん、でもわかんないーっ」
私は、そのままSNSのアプリを開いた。
ここに、日々の鬱憤やら、ちょっとしたポエムやらを書き込むのが、最近のマイブームだ。
推しからノート貰っちゃった!
でも、何書けばいいかわかんない
おもしろいことなんて書けない
どうしよ
そう書き込んで、私は投稿ボタンを押した。
しばらく経つと、ブーン、とスマホが震えた。
私は、スマホを手に取って、通知を見る。
「あっ、さっきの投稿に反応が」
私は、その通知を開いた。
先ほどの投稿に、リプライが来ていた。
書いてくれたのは、最近仲良くなったフォロワーさんだ。
早速、読んでみると。
推しからのプレゼントなんて最高じゃないですか!!!!
何書けばいいか、、悩みますよね
私はナゴンさんの書く何気ない日常とか、感性が大好きです♡
応援してます!!
……何気ない、日常。
正直、私の日常なんて需要ないと思ってた。
なのに、SNSでこうして見つけてくれて、「大好き」と言ってくれる人がいる。
それが、たまらなく嬉しい。
……そうか。
私は、ありのまま、感じたままを書けばいいんだ……!
この人も言ってくれている通り、私は人と感性が少し違うらしい。
だから、それを武器に、思ったことを綴れば。
定子さまも、喜んでくださるかもしれない。
私は、その人に返信した。
大好きって言ってくれてありがとうございます!
まずは日記みたいに書いてみようかな?
頑張ってみまーす!!!
私は、スマホを伏せた。
そして、ただ目の前のノートと向き合った。
いつか、このノートを私の文章で埋め尽くしてみせる。
そして、定子さまに喜んでもらうのだ。
一条さんは、「史記」を写すと言っていた。
なら、私も「しき」を書こう。
私なりの、「しき」を。
私は、シャーペンを真っ白なノートのページに踊らせた。
私の感じたままの、「四季」。
私はまず、こう書き出した。
――春は、明け方が好き。




