第十四話 納言さんと一学期中間テスト
ある日の帰りの会。
今、私の目の前には一枚のプリントがある。
――テスト範囲表。
ついに、一学期中間テストの二週間前となった。
今日は五月の初め。
テストは、五月中旬だ。
これが、私たち一年生にとって初めての定期テスト。
定子さまの家庭教師である私にとっては、とても重大なイベントだ。
私と定子さまは、密かに目を合わせた。
―――
「遠足が終わったと思ったら、もうテストかぁ」
「そうですね。さあ、どこから攻略しましょう?」
その週の土曜日の午後過ぎ、私は定子さまのお宅に家庭教師としてお邪魔していた。
テスト範囲表が配られてから、初めての訪問だ。
ちなみにこの範囲表の裏は、計画表が書けるようになっている。
「とりあえず、私なりに計画を立てたの。見てもらえる?」
上目遣いにこちらを見上げる定子さまに、私の心臓は爆発寸前だ。
定子さまから計画表を受け取り、目を落とす。
今回のテストは二日に分かれており、五教科のみと、比較的少ない。
まず一日目の社会は、ノートまとめやプリント、理科はワーク、国語はプリントや漢字ノート中心。
そして、二日目にある英語は、単語練習やワーク、数学はワークや計算練習中心。
全てまんべんなく配置されており、一日の労力なども考慮されてとてもいいスケジュールだ。
私もまだ初めてなので探り探りだが、なにかアドバイスできるだろうか。
でも、強いて言えば……。
「とてもよくできていると思います。ですが、苦手な教科中心でやった方がよいと思います。定子さまで言ったら、英語とか」
「そうよね……」
定子さまは、腕を組んで考え始めた。
そこで、私は一つ提案をすることにした。
「定子さまの今の実力を知るために、テストをしてもいいでしょうか」
「もちろん!」
定子さまが快く頷いてくださったので、私は用意しておいた問題用紙とルーズリーフを取り出した。
―――
私たちはこの二週間、苦手なところを中心的に勉強してきた。
私も、定子さまに教えることで理解が深まった気がする。
そして迎えた今日、テストの日。
教室に入ると、いつもより張り詰めた空気が漂っていた。
みんな、最後の悪あがきをしているみたいだ。
「ねえ、納言さん。ここの公式は、これよね?」
定子さまが、不安そうな顔でノートを見せてくる。
私は、グッと定子さまと目を合わせ、力強く言った。
「あなたなら、大丈夫です。私は、あなたの努力を知っていますから」
そう言うと、彼女はいつもの花が綻ぶような笑みを浮かべてくれた。
「頑張りましょうね」
「ええ!」
私たちは、そう言って勝ち気に微笑んだ。
―――
「はじめ!」
チャイムと共に聞こえる先生の声。
それと同時に、私は問題用紙をめくる。
問題に目を通すと、定子さまとこれまでしてきた勉強の日々を思い出す。
一時間目、社会。
地理の問題がズラリと並んでいる。
この問題をお教えしたときの定子さまの表情は、真剣そのものだったっけ。
総理大臣の娘だから、世界に関心があるのかもしれない。
そうして、定子さまとの時間を思い出しながら解くテストは、思った以上に手応えがあったのだった。
―――
翌週、テストが終わったクラスには、再び活気が戻ってきた。
そして今日、テストが全て返ってくる。
数学、国語、理科、英語は、すでに返ってきていた。
残すは社会。
そして、社会の授業は今日の一時間目にあった。 ドキドキと待っていると、チャイムが鳴った。
ついに、テストが返ってくる。
挨拶をしている間や先生が話している間も、なんとなく胸が落ち着かなかった。
「今日はテストを返すよ。まずは模範解答配るねー」
模範解答が私の手元に渡り、後ろの子に回してから模範解答を見てみた。
ミスは二、三くらい?
自分の問題用紙と模範解答を見比べていると、先生が解答用紙を返し始めた。
私も、その列に並ぶ。
やがて列が進み、私は先生から紙を受け取った。
解答はコンピューターに取り込まれており、自分の書いた方とスキャンされた方の二枚がある。
席に着いてから、スキャンされて点数が書いてある方の紙を、勢いよくめくる。
そこに書いてあった数字は――。
「納言さん、どうだった?」
「九十二点。やりましたよ!」
「すごい! 私は、八十五点!」
「すごいじゃないですかっ!」
定子さまと解答用紙を見せ合いながら、思わずはしゃいでしまった。
すると、向こうから世尊寺と秋月がやってきた。
「オレは七十五だぜ」
「僕は、九十点です」
挑むような表情で言う世尊寺に、私は誇らしげにこう返した。
「九十二点。私の勝ちね」
「……、そうですか。でも、合計ならどうです? 僕は四百三十三点です」
私は、世尊寺が悔しげな表情をしたのを見逃さなかった。
「あー、合計なら……。四百六十くらい?」
素早く計算して言った数字に、定子さまと秋月は面食らったようだ。
「なんか、すごすぎてついていけねえわ」
「奇遇ね。私もよ……」
ちょっと、引かないでください、定子さま。
そんな風に、私たちの初めてのテストは終わっていったのだった。




