表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/16

第十五話 納言さんと学園祭準備

 六月の初め。

 私たちのクラスには、いつもと違った空気が流れていた。

 なにしろ、今日は――!


「今日は、学園祭の出し物を決めます!」


「いぇぇぇい‼︎」


 一条さんの言葉に、クラス中が湧き立った。

 もちろん私も、大きな拍手をする。

 学園祭か、初めてだけど楽しみだな。

 私はなんとなく、そう思った。

 学園祭は、私立平安学園全体の大きなイベントで、中等部・高等部ともに二日間開催する。

 そう、高等部まで遊びに行ける貴重な日でもあるのだ。

 クラスの出し物のほか、部活動の出し物もある。


「まずは、どんな出し物をするかを決めます。教室でやる、店のようなものです」


「今回の学園祭全体のテーマは、四季です。中等部一年から二年の半分にかけては、春を担当することになりました」


「意見がある人は、手を挙げてください」


 学級委員のお二方が呼びかけると、さっそく手が挙がった。

 秋月だ。


「はいはい! メイド喫茶とか、どう?」


「ちょっと秋月、女子のメイド見たいだけでしょ!」


 私が思わずそうツッコミを入れると、クラスからどっと笑い声があがった。

 定子さまは、笑いをこらえながら、黒板に『メイド喫茶』と書いた。

 が、秋月のおかげで場の空気が明るくなった。

 みんなが発言しやすい空間を作り上げた秋月は、さすがだ。

 クラスの子たちは、次々に案を出していく。


「お化け屋敷!」


「いやいや、春らしくないでしょー」


「季節のスイーツとかよさそう!」


「ああ、さくら味とかね!」


 クラスメイトたちがどんどん案を出していくので、


「はいはい、順番に言ってくださいねー」


 と、定子さまはチョークを持って困ったように言った。

 確かに、春らしさは大事だ。

 でも……。


「お化け屋敷とか、季節感があまりないものでも、春らしく工夫すればいいんじゃない?」


 私がポツリと呟いた言葉に、さらにクラスメイトが盛り上がった。


「やっぱここはメイド喫茶で、さくら味のメニューを出すしかねぇだろ!」


 そう言うのは、みなさんわかっているとは思うが、秋月だ。

 こうして出された案は、黒板に書き入れられていく。


「じゃあ、多数決で決めますか?」


 定子さまがそう問いかけると、全員が同意した。

 私も、話し合いだとすぐに決まらないので、多数決が無難だと思う。

 右端に書かれているものから順に、一条さんが多数決をとっていく。

 定子さまは、結果を書く係になったようだ。


「じゃあ、一人三票までで。まずは、メイド喫茶がいい人ー」


 これはなかなか多い。

 おもしろそうなので、私も手を挙げておく。


「お化け屋敷がいい人ー」


 これは少数派だ。


「スイーツ屋がいい人ー」


 これも結構多い。

 私もおやつは食べたいので、これにも手を挙げた。


「脱出ゲームがいい人ー」


 私は、最後の票を入れた。

 だが、脱出ゲームは少数派のようだ。


「最後、写真館がいい人ー」


 これも少ない。

 結果を見ると、圧倒的に決定だ。

 一条さんが、結果を告げる。


「このクラスの店は、メイド喫茶に決定です!」


「やったあっ‼︎」


 声がした方を見ると、秋月を中心に男子たちが歓喜の舞をしていた。

 しかし、そこに進み出る人影が一つ。

 それは、あの大江和泉だった。


「男子たち? あんたらもメイドになるんだからね?」


 その一言で、彼らは凍りついた。


「終わった……」


 どこかから、そんな世尊寺のつぶやきが聞こえてきた。


 ―――


「次は、演劇を決めます!」


 この学園は、学園祭でクラスごとに演劇をするのが伝統らしい。

 劇なんて保育園のお遊戯会以来なので、少しワクワクする。


「では、やりたい演目はありますか?」


 定子さまの呼びかけに、教室中がざわめいた。

 演目、と言われても、あまり知らないし、思いつかないのだ。

 私も、『ロミオとジュリエット』や『シンデレラ』などしか知らない。

 なにをやればいいのだろう?


「あの、私に提案があって。自分たちでストーリーを作るのも、いいと思うの」


 定子さまが、スッと手を挙げてそう仰った。

 自分たちで……!

 教室内は、またざわめいた。


「昔話とか童話とかのストーリーを、少しだけ変えるのもいいかも!」


「確かに! 合体するのもおもしろくない?」


「え、それなら、シンデレラと桃太郎を合わせるとか?」


「それはさすがにムリでしょ」


 クラスのみんなが、笑い混じりに話し合っている。

 私も、勇気を出して発言してみた。


「じゃあ、……――」


 私の発言に、みんなが驚いたように目を見張った。

 そして、定子さまはにこりと私に微笑んだ。


「それ、やってみよう。みんなもいいよね?」


「もちろん!」


「おもしろそー」


「絶対主役やるからな!」


 秋月は、調子に乗ってそうほざいている。

 定子さまは、再び私を見た。


「書けるでしょう、納言さん」


「はい、承りました」


 私は、深くこうべを垂れて……って、え?

 今、私に書けと⁉︎


 私は、反射的に頷いた自分を憎んだ。

 なぜ、私が……。


 でも、任されたからにはいいものを作らないと。


 笑顔で任せてくる定子さまは、鬼か何かだろうか、とも思ってしまうが。


「絶対いいものにしましょうね、みんな!」


 私が絶句するのをよそに、定子さまは太陽のように微笑んだ。


 全く、かわいらしい鬼だ。


 ―――


 そうして、私たちの準備期間が始まった。

 本当に慌ただしい、一ヶ月間。

 ただし、その間に期末テストを挟んだため、実際は半月ほどだが。

 私は勉強の合間に脚本を書き、見事に書き終えた(テストの結果も、めちゃくちゃよかった)。

 さらに、定子さまとの家庭教師の時間には、定子さまが相談を聞いてくださり、とてもいい話になったと自負できる。

 部活の出し物も、定期的に集まって完成させた。

 劇の稽古もみんなで協力して頑張ってきた。

 劇の衣装とメイド喫茶のメイド服は、家庭科部が全員のサイズにピッタリ合うように作った。

 実際に出す料理は、料理が得意な人を中心にメニューを作り、当日の飾りつけを作り……。

 そんな半月が過ぎ、ついに学園祭本番を迎えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ