第十五話 納言さんと学園祭準備
六月の初め。
私たちのクラスには、いつもと違った空気が流れていた。
なにしろ、今日は――!
「今日は、学園祭の出し物を決めます!」
「いぇぇぇい‼︎」
一条さんの言葉に、クラス中が湧き立った。
もちろん私も、大きな拍手をする。
学園祭か、初めてだけど楽しみだな。
私はなんとなく、そう思った。
学園祭は、私立平安学園全体の大きなイベントで、中等部・高等部ともに二日間開催する。
そう、高等部まで遊びに行ける貴重な日でもあるのだ。
クラスの出し物のほか、部活動の出し物もある。
「まずは、どんな出し物をするかを決めます。教室でやる、店のようなものです」
「今回の学園祭全体のテーマは、四季です。中等部一年から二年の半分にかけては、春を担当することになりました」
「意見がある人は、手を挙げてください」
学級委員のお二方が呼びかけると、さっそく手が挙がった。
秋月だ。
「はいはい! メイド喫茶とか、どう?」
「ちょっと秋月、女子のメイド見たいだけでしょ!」
私が思わずそうツッコミを入れると、クラスからどっと笑い声があがった。
定子さまは、笑いをこらえながら、黒板に『メイド喫茶』と書いた。
が、秋月のおかげで場の空気が明るくなった。
みんなが発言しやすい空間を作り上げた秋月は、さすがだ。
クラスの子たちは、次々に案を出していく。
「お化け屋敷!」
「いやいや、春らしくないでしょー」
「季節のスイーツとかよさそう!」
「ああ、さくら味とかね!」
クラスメイトたちがどんどん案を出していくので、
「はいはい、順番に言ってくださいねー」
と、定子さまはチョークを持って困ったように言った。
確かに、春らしさは大事だ。
でも……。
「お化け屋敷とか、季節感があまりないものでも、春らしく工夫すればいいんじゃない?」
私がポツリと呟いた言葉に、さらにクラスメイトが盛り上がった。
「やっぱここはメイド喫茶で、さくら味のメニューを出すしかねぇだろ!」
そう言うのは、みなさんわかっているとは思うが、秋月だ。
こうして出された案は、黒板に書き入れられていく。
「じゃあ、多数決で決めますか?」
定子さまがそう問いかけると、全員が同意した。
私も、話し合いだとすぐに決まらないので、多数決が無難だと思う。
右端に書かれているものから順に、一条さんが多数決をとっていく。
定子さまは、結果を書く係になったようだ。
「じゃあ、一人三票までで。まずは、メイド喫茶がいい人ー」
これはなかなか多い。
おもしろそうなので、私も手を挙げておく。
「お化け屋敷がいい人ー」
これは少数派だ。
「スイーツ屋がいい人ー」
これも結構多い。
私もおやつは食べたいので、これにも手を挙げた。
「脱出ゲームがいい人ー」
私は、最後の票を入れた。
だが、脱出ゲームは少数派のようだ。
「最後、写真館がいい人ー」
これも少ない。
結果を見ると、圧倒的に決定だ。
一条さんが、結果を告げる。
「このクラスの店は、メイド喫茶に決定です!」
「やったあっ‼︎」
声がした方を見ると、秋月を中心に男子たちが歓喜の舞をしていた。
しかし、そこに進み出る人影が一つ。
それは、あの大江和泉だった。
「男子たち? あんたらもメイドになるんだからね?」
その一言で、彼らは凍りついた。
「終わった……」
どこかから、そんな世尊寺のつぶやきが聞こえてきた。
―――
「次は、演劇を決めます!」
この学園は、学園祭でクラスごとに演劇をするのが伝統らしい。
劇なんて保育園のお遊戯会以来なので、少しワクワクする。
「では、やりたい演目はありますか?」
定子さまの呼びかけに、教室中がざわめいた。
演目、と言われても、あまり知らないし、思いつかないのだ。
私も、『ロミオとジュリエット』や『シンデレラ』などしか知らない。
なにをやればいいのだろう?
「あの、私に提案があって。自分たちでストーリーを作るのも、いいと思うの」
定子さまが、スッと手を挙げてそう仰った。
自分たちで……!
教室内は、またざわめいた。
「昔話とか童話とかのストーリーを、少しだけ変えるのもいいかも!」
「確かに! 合体するのもおもしろくない?」
「え、それなら、シンデレラと桃太郎を合わせるとか?」
「それはさすがにムリでしょ」
クラスのみんなが、笑い混じりに話し合っている。
私も、勇気を出して発言してみた。
「じゃあ、……――」
私の発言に、みんなが驚いたように目を見張った。
そして、定子さまはにこりと私に微笑んだ。
「それ、やってみよう。みんなもいいよね?」
「もちろん!」
「おもしろそー」
「絶対主役やるからな!」
秋月は、調子に乗ってそうほざいている。
定子さまは、再び私を見た。
「書けるでしょう、納言さん」
「はい、承りました」
私は、深くこうべを垂れて……って、え?
今、私に書けと⁉︎
私は、反射的に頷いた自分を憎んだ。
なぜ、私が……。
でも、任されたからにはいいものを作らないと。
笑顔で任せてくる定子さまは、鬼か何かだろうか、とも思ってしまうが。
「絶対いいものにしましょうね、みんな!」
私が絶句するのをよそに、定子さまは太陽のように微笑んだ。
全く、かわいらしい鬼だ。
―――
そうして、私たちの準備期間が始まった。
本当に慌ただしい、一ヶ月間。
ただし、その間に期末テストを挟んだため、実際は半月ほどだが。
私は勉強の合間に脚本を書き、見事に書き終えた(テストの結果も、めちゃくちゃよかった)。
さらに、定子さまとの家庭教師の時間には、定子さまが相談を聞いてくださり、とてもいい話になったと自負できる。
部活の出し物も、定期的に集まって完成させた。
劇の稽古もみんなで協力して頑張ってきた。
劇の衣装とメイド喫茶のメイド服は、家庭科部が全員のサイズにピッタリ合うように作った。
実際に出す料理は、料理が得意な人を中心にメニューを作り、当日の飾りつけを作り……。
そんな半月が過ぎ、ついに学園祭本番を迎えた。




