第十三話 納言さんと遠足 後編
十二時近くなり、梅野公園の敷地内でお弁当を食べることになった。
今いる場所は、広場。
広場内であればどこで食べてもいいということだった。
私たち一年一組一班は、木の下に陣取ることにした。
それぞれレジャーシートを敷き、リュックから弁当箱を取り出す。
「いただきます」
全員の声が重なる。
私は、弁当箱の蓋を開けた。
母が作ってくれたお弁当には、おにぎりはもちろん、唐揚げなどのおかずもたくさん入っていてとても美味しそうだ。
「おっ、諾、唐揚げじゃん! うまそー」
「秋月こそ、昆布おにぎり美味しそうね」
秋月はとても食欲旺盛なヤツみたいだ。
お互いのお弁当を褒める、和気あいあいとしたお昼時になった。
「てかさー、諾。オレらのこと、秋月ーとか、世尊寺ーとか、一条さんーとか呼んでるけど、よそよそしくね?」
「へっ?」
よそよそしいとは思っていなかったので、びっくりして顔を上げてしまった。
ただ、名字で呼ぼうということも、下の名前で呼ぼうということも、あまり考えていないのが事実なのだ。
気がつけば秋月、世尊寺、一条さんと呼び、それに慣れてしまっているだけ。
「一回さ、下の名前で呼んでみねえ?」
下の名前、か。
それって、斉信、行成、懐仁と呼ぶということ?
急にそう呼ぶなんて、なんだか恥ずかしい。
私が躊躇していると、秋月が
「オレは斉信って呼んでくれた方が嬉しいかな! 行成と懐仁は?」
と二人に尋ねた。
すると、
「そうだね、僕はどちらでもいいけど……」
「僕もです。納言さんの、好きな呼び方で構いません」
二人は優しくそう言った。
でも、それが一番困る答えなんだよ……。
困り眉でおにぎりのラップを剥がしていると、今度はその矛先が世尊寺に向く。
「行成もさ、女子のことみんな名字呼びだよな! 照れてんのか〜?」
「てっ、照れてないですっ。どう呼ぼうが、僕の自由じゃないですか」
世尊寺は顔を赤くする。
全く、わかりやすいヤツである。
「アハハッ、行成の照れ顔かわい〜」
「やっ、やめてください!」
ついには、和泉も揶揄い始めてしまった。
気の毒だなぁと思いながらおにぎりを頬張っていると、
「じゃあ、試しに諾のこと下の名前で呼んでみろよ」
「えっ、そんなの無理ですよ!」
まあ、私もどんな呼び方でも構わないのだが、ちょっとだけ気になった。
世尊寺が女子のことを下の名前で呼ぶと、どんな感じになるのだろう?
「えー、行成、もしかしてナゴンのこと好きだから照れてる?」
「ちっ、違いますよ!」
ちょっと世尊寺、そんなに全力で否定しなくてもいいと私は思うよ。
そうして揶揄い合戦をしているうちに、私はお弁当を食べ終えてしまった。
全員が食べ終えると、自由時間で広場内で遊んでもいいと言われていたが、これではまだ無理そうだ。
「そろそろ折れれば?」
「あたしの名前でも許してあげよう」
かわいそうに、世尊寺は真っ赤だ。
観客のように見ている私と定子さまと一条さんは、もう哀れみの目で見ることしかできない。
「僕は絶対言いませんから!」
そう叫んだ世尊寺は、なぜこんな争いをしているのか、もうよくわからなくなってきている感じだ。
それは、和泉たちも同じのようだ。
「拒否するなら、鬼ごっこで勝負だ!」
「負けないよ〜?」
いつの間にかお弁当を食べ終えていた和泉と秋月は、レジャーシートを高速でしまって駆け出す。
「ほら、みんなも!」
和泉が、太陽の光を浴びながらニコリと笑う。
ホント、しょうがないなぁ。
私たちは、眉を下げながらレジャーシートを片付ける。
そして、日の当たる広場へ駆け出したのだった。




