第十一話 納言さんと遠足道中
とうとう、遠足当日がやってきた。
四月末、私たち中等部一年生は土間の外に集まっていた。
「安全に気をつけて、出発しましょう!」
学年主任の先生が高らかにそう言うと、一年生たちから笑みが漏れ、ワクワクとした声があちこちから聞こえてきた。
ちなみに私服なので、いつもよりラフな印象だ。
おしゃれをしている女子もいれば、動きやすさ重視の格好をした人もいる。
私は後者で、ジーンズに半袖のTシャツ、日焼け防止のパーカーといった感じだ。
定子さまも私と似たような服装をしているが、私よりも断然素敵だった。
和泉はデニムの短パンにふんわりとしたかわいいトップスで、とてもおしゃれ。
心なしか、髪型にも気合いが入っているきがする。
一条さんは、シャカシャカとした素材の長ズボンにTシャツ。
世尊寺は、ジーンズに白Tシャツで、パーカーを羽織っている。
秋月は、短パンにTシャツという動きやすい格好だ。
私服のみんなが珍しく、私が思わず見ていると、前の列が動きだした。
私たち一年一組を先頭として、歩いていく。
さらに、後ろから他学年も続く。
私たちの班は一班なので、その中でも一番先頭だ。
一列目には、班長となった一条さん、そして副班長となった定子さま。
二列目には、地図係となった私・納言諾と、時計係となった世尊寺。
三列目には、保健係となった和泉と、秋月。
そのように二人ずつ並んで歩いていき、学園の正門を出た。
「学校の活動で学校から出るなんて、なんか新鮮ね」
「だよねだよね〜。学校抜け出すとか楽しそう!」
私の呟きに、和泉がはしゃいだ声を出す。
すると、定子さまが眉を下げて笑いながら言った。
「ちょっと、大江さん。サボりは駄目でしょ?」
「ごめんごめん、冗談だって!」
調子のいい和泉のおかげで、明るい班になりそうだ。
ふと後ろを振り返ってみると、ズラリと行列が見えた。
なにせ、中等部全体の遠足なのだ。
ちゃんと数えたわけではないが、三百人以上はいそうだ。
「人、多っ!」
秋月も、私と同じことを思ったようだ。
すぐさま和泉が反応する。
「それな。でも、全校生徒集めたらこんなもんっしょ」
「確か、だいたい一クラス三十五人、一学年五クラスくらいだったはず。かける三だから……」
一条さんの声を聞きながら、私は頭の中で素早くそろばんをはじく。
三十五かける五、かける三。
答えは、五百二十五だ。
「五百二十五人ね。本当にすごい数!」
「さすが納言さん……。やっぱり、計算が早いわね」
定子さまが感心したようにそう言う。
私は、照れながら頭をかいた。
「頭がいいんだね」
一条さんまで感心している。
周りを見まわすと、班の全員がそのような反応をしていた。
なんだか恥ずかしい。
「頭がいいと言えば、行成もだよね。二人は、図書委員で一緒だっけ」
「あっ、はい。でも、納言さんには及ばないですよ」
世尊寺が、謙遜するように苦笑いする。
すると、秋月が首を傾げた。
「それマジ? 行成はメッチャ頭いいぞ? 諾が行成を超えてるってのか?」
確かに、それはまだちゃんと勝負をしていないのでわからない。
「じゃあ、今度勝負してみたら? ほら、五月の半ばに中間テストがあるでしょう」
「うわぁ、思い出させんなよ!」
「テストかー、うわー」
定子さまの提案に、秋月と和泉が頭を抱える。
ここは超名門校なので、それなりに難しい試験を突破しなければ入れないはずだ。
そうすると、二人も賢いはずなのだが……、テストは嫌なのか。
「ごめんなさい。そうね、今日は遠足。楽しまなきゃ損よね」
そう言って定子さまが微笑む。
するとふいに、一条さんが声をあげた。
「そろそろ着くはずだよ。ほら、あそこに木がいっぱい生えてる」
一条さんがさした指の先を目で追うと、青々とした葉をつけた木が視界に入った。
学校を出発して、十五分ほど。
私たち私立平安学園中等部は、今回の目的地、梅野公園に到着した。




