第319話 皇帝陛下のクエスト12
「マルディン! ティアーヌ!」
キルスとシャルクナが、マルディンたちに走り寄る。
「マルディン! 大丈夫か!」
「ぐぅぅ」
マルディンの身体は砂まみれだ。
だが、砂地のおかげで身体に傷はない。
「キルス……。あの大角の振動……、危険なんてものじゃないぞ……」
耳栓をしていなかったら、鼓膜は破れ意識を失っていただろう。
だからといって、距離を取れば戦えない。
「しばらく私が引きつけます。マルディン様はダメージの回復を」
シャルクナがコル・アビリムの側面に走った。
シャルクナの思惑通り、コル・アビリムはマルディンたちに背を向ける。
マルディンとティアーヌのダメージは思ったよりも深い。
二人は片膝をつくが、まだ立ち上がれない。
脳を大きく揺さぶられていた。
マルディンはティアーヌの肩に手を置く。
「ティアーヌ、大丈夫か?」
「少し……頭がクラクラしますが大丈夫です」
「無理するな、と言いたいところだが、ここは我慢のしどころだぞ」
「はい、分かってます」
ティアーヌは深呼吸を何度か繰り返し、ゆっくりと立ち上がった。
両足には力が入っており、しっかりと砂地を踏みしめている。
「大丈夫そうだな」
その様子を見て安心したマルディンも立ち上がる。
そして、キルスに視線を向けた。
「キルス。あの大角に傷が入れば、振動を止められるかもしれん」
「傷? どういうことだ?」
「大角に亀裂が入った状態で振動させたら、どうなると思う?」
「むっ、傷は広がるな。つまり傷をつければ、コル・アビリムは角を振動させることができなくなるということか」
「そういうことだ。僅かでもいいから傷を入れたい」
「分かった。まずは大角に傷を入れる。お主たちはダメージ回復に努めろ」
キルスもコル・アビリムに向かって走った。
すでにコル・アビリムを牽制しているシャルクナの前に立つ。
「シャルクナ! 大角を狙うぞ!」
「かしこまりました、陛下」
コル・アビリムは大角を横に振り回した。
キルスたちを薙ぎ払うつもりだ。
「舐めるな!」
キルスは縦に大きくジャンプし、愛剣砂塵の雷を斜めに構えながら、空中で大角を受け流す。
通常ならば弾き飛ばされるのだが、キルスの剣技は神がかっていた。
宙に浮いたキルスの身体は、吸い寄せられるように大角の根本へ接近していく。
剣の刃の角度を超高速で微調整することで、コル・アビリムの薙ぎ払いの力を、大角へ向かうための推進力に変換していた。
板を使った波乗りのごとき大角の上を滑っているが、それは坂道を上っているような不思議な光景だった。
火花を散らしながら、剣を使って大角の上を滑るキルス。
剣と大角の接触面には、鉋で削られたような薄い削り屑が舞っていた。
「喰らえ!」
根本へ到達したキルスは、電光石火の突きを放つ。
マルディンとティアーヌが攻撃を加えた場所だ。
激しい衝突音が響く。
「くそっ!」
しかし、大角に傷はつかず。
「陛下! 離れてください!」
「シャルクナか!」
キルスの背後で、シャルクナが両断剣を振り被っていた。
遠心力を使う独特なフォームで、キルスが狙った場所へ寸分違わず振り下ろす。
両断剣が大角に当たった瞬間、シャルクナの表情が歪む。
「ぐうぅぅぅぅ!」
強烈な振動音がシャルクナを襲う。
それと同時に、シャルクナの両手にこれまで感じたことのない衝撃が走った。
骨の芯を通り、全身へ回る振動。
そう、コル・アビリムは大角を振動させて、両断剣を迎撃した。
振動によって、シャルクナの黒髪が逆立つ。
「舐めるなぁぁぁぁ!」
珍しく叫ぶシャルクナ。
シャルクナの剣は一撃必殺だ。
普段は黒の砂塵として任務を優先させているが、本来は初撃以外のことを全く考えない流派だった。
食いしばる口から血を流し、痛みに顔を歪めながらも、シャルクナは全身全霊をかけて剣を握り続けた。
鼻血が垂れ、耳から血が吹き出し、瞳から血の涙が流れる。
両手の血管が切れたことで、真っ白な腕は見る見る青く変化していく。
「マルディン様……。後は……お願いします……」
シャルクナはたった一人で大角の振動を受け切った。
そのおかげで他の三人に影響はない。
白い砂漠に崩れ落ちるシャルクナ。
「シャルクナァァァァ!」
その姿を見たマルディンが、叫びながら大角に向かって糸巻きを発射。
最速で巻き取り、シャルクナが攻撃した根本に悪魔の爪で突きを放つ。
マルディンには見えていた。
シャルクナの攻撃で、大角に極僅かな亀裂が生まれたことが。
数ミデルトの極小の傷に向かって、悪魔の爪を突き刺す。
糸巻きの速度、マルディンの卓越した技術、そして悪魔の爪の性能が三位一体となった。
マルディン渾身の突きにより、剣身の半分が大角に突き刺さる。
「ティアーヌ! 悪魔の爪の柄を叩け!」
マルディンは振り返りながらティアーヌの名を呼ぶ。
ティアーヌは全速力で走り、悪魔の重撃を振り被りながら全力でジャンプした。
「よくもシャルクナさんをっ!」
悪魔の爪の柄に向かって、悪魔の重撃を振り抜く。
シャルクナが作った僅かな亀裂に、マルディンが剣を刺し、ティアーヌが押し込んだ。
三人の見事な連携だった。
キルスは呼吸を整え、砂塵の雷を構える。
「みな、よくやった」
エマレパ皇国最高の剣士かつ、世界三大剣士の一人であるキルスが、雷光と呼ばれる超高速の剣撃を放った。
音を置き去りにする砂塵の雷。
大角の左右から発せられた六回の閃光。
直後に、耳を塞ぎたくなるほどの衝撃音が鳴り響く。
それはまさに、砂塵に轟く稲妻だ。
「グゴアァァァァアアァァァァ!」
コル・アビリムの大角には、まるで落雷したかのような痕跡ととも、大きな亀裂が入っていた。
◇◇◇




