第318話 皇帝陛下のクエスト11
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「デカい! 目の前で見るとこれほどかよ!」
思わず叫ぶマルディン。
コル・アビリムの体長は十五メデルト。
大角の長さだけで十メデルトもある。
マルディンにとって、これほど巨大なモンスターと対峙するのは初めてだ。
コル・アビリムはゆっくりと頭を下げ、大角の先端をマルディンたちに向けた。
その姿は、まるで突撃槍を構えた騎士だ。
「まさか、突進してくるのか……」
キルスが呟く。
その声は防塵面越しで聞こえづらいが、マルディンはキルスの焦りを感じ取った。
コル・アビリムは姿勢を下げながら、ゆっくりとマルディンたちに向かって進む。
距離は約二百メデルト。
しかし、一歩の距離が大きく、またたく間に距離が縮まっていく。
マルディンたちはコル・アビリムから目線を外さない。
目線を外した瞬間、コル・アビリムは襲いかかってくるからだ。
これは獰猛なモンスターに共通する習性だった。
「キルス。コル・アビリムが突進を始めたら、シャルクナと左右に一旦避けろ。俺はティアーヌを運ぶ」
「運ぶ? どういうことだ?」
「空中からコル・アビリムの角を攻撃する」
マルディンは悪魔の爪を一度納剣した。
「なるほど。ティアーヌの悪魔の重撃か」
「そうだ、俺も同時に攻撃する」
「分かった。追撃は任せろ」
「頼んだぞ」
元々拘束道具として開発した糸巻きは、進化を遂げていた。
対人間だと主に攻撃で使用するが、対モンスターでは移動で使用することが多い。
そのため、人間よりも動きが早いモンスターと同等か、それ以上の速度で動くことができる。
マルディンは糸巻きに手を置き、巻き取り速度を調整するダイヤルを最高速に回した。
「もってくれよ……」
呟きながら、マルディンは右手で左肩を擦った。
最高速は肩と腕にかかる負担が非常に大きく、多用できない。
だが、今はそんなことを言っていられる状況ではない。
「ティアーヌ!」
「はい!」
マルディンがティアーヌの名を呼んだ。
状況を察したティアーヌは、マルディンの右隣に立つ。
「大丈夫か?」
「はい、体重は増えてませんから!」
「そういうことじゃねーって。怖くないか聞いてるんだよ」
「怖くないと言ったら嘘になりますが、マルディンさんと一緒なので大丈夫です」
マルディンはティアーヌの腰に右手を回した。
「ちっ、相変わらず余裕だな」
「ほら、来ますよ」
コル・アビリムの右足が、砂地を激しく蹴る。
いや、蹴ったなんてものではない。
もはや爆発だ。
水面に大岩を叩きつけたかのように、白い砂が周囲に飛び散った。
それと同時に、キルスとシャルクナが左右に走る。
マルディンは右手でティアーヌを抱きかかえ、糸巻きの発射口をコル・アビリムの大角に定めた。
「グゴアァァ!」
白い砂塵を巻き上げながら、一直線に突進するコル・アビリム。
巨大な一本角が、マルディンたちを串刺しせんと迫りくる。
「歯、食いしばれ!」
「はい!」
マルディンは大角に向かって糸巻きを発射。
即座に巻き取り、ティアーヌともどもコル・アビリムの頭上へ飛ぶ。
「マルディンさん! 行きます!」
大角の根本の真上に差し掛かったところで、ティアーヌが叫んだ。
両手で悪魔の重撃を構えている。
「頼んだぞ!」
空中に浮いたマルディンは、右手でティアーヌの背中を押す。
ティアーヌは大角に向かって落下しながら、悪魔の重撃を振り被った。
落下速度に悪魔の重撃の打撃性能が加わる。
「っしょっおおおお!」
大角の根本を直撃した悪魔の重撃。
空気が割れたかのような破裂音が鳴り響く。
「まだだ!」
マルディンも即座に悪魔の爪を抜き、大角に糸巻きを発射し、すぐに巻き取る。
ティアーヌが打ちつけた箇所に向かって、猛烈な速度で剣を振り下ろした。
糸巻きの巻き取り速度は、落下速度を遥かに上回る。
さらにマルディンの剣術と、悪魔の爪の性能が加わる。
斬れないものなどないと言わんばかりに、甲高い衝突音が発生。
同時に、マルディンは右腕に確かな手応えを感じていた。
「どうだ!」
砂地に着地したマルディンは、コル・アビリムの頭部に視線を向ける。
「グゴアァァ」
短い咆哮を上げ、マルディンたちを睨みつけるコル・アビリム。
生暖かい呼吸を感じるほどの近さだ。
「き、効いてないのか」
コル・アビリムが、顔の周りを飛ぶ腐羽蠅を払うかのように、大きく首を回す。
「ティアーヌ!」
大角を振り回すコル・アビリム。
マルディンたちを薙ぎ払うつもりだ。
直撃したら大怪我では済まない。
最悪死ぬ。
マルディンは咄嗟にティアーヌに飛びつき、そのまま地面に飛び込んだ。
マルディンたちの頭をかすめながら、大角が音を立てて通り過ぎる。
少しでも遅れていたら、大角の直撃を受けていただろう。
二人はすぐに立ち上がった。
「くそっ! 効いてないだと!」
「マルディンさん、もう一回やりま」
ティアーヌが言いかけた瞬間、周囲の空気が震え始めた。
「ぐああああああ!」
「きゃああああああ!」
大角を振動させたコル・アビリム。
耳栓をしていても、大きな衝撃を受ける二人。
「ぐおおおおおお!」
マルディンは無理やりティアーヌを抱え、コル・アビリムの尻尾に向かって糸巻きを発射した。
少しでも離れるためだ。
尻尾の棘に糸を絡め、即座に巻き取る。
その勢いでコル・アビリムの眼前から離脱に成功。
空中に身体を投げ出したマルディンは、ティアーヌを両腕でしっかり抱えたまま砂地に滑り落ちた。




