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【書籍発売中】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第十章 秋の雷光

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第318話 皇帝陛下のクエスト11

 ◇◇◇


「デカい! 目の前で見るとこれほどかよ!」


 思わず叫ぶマルディン。


 コル・アビリムの体長は十五メデルト。

 大角の長さだけで十メデルトもある。

 マルディンにとって、これほど巨大なモンスターと対峙するのは初めてだ。


 コル・アビリムはゆっくりと頭を下げ、大角の先端をマルディンたちに向けた。

 その姿は、まるで突撃槍(ランス)を構えた騎士だ。


「まさか、突進してくるのか……」


 キルスが呟く。

 その声は防塵面(マスク)越しで聞こえづらいが、マルディンはキルスの焦りを感じ取った。


 コル・アビリムは姿勢を下げながら、ゆっくりとマルディンたちに向かって進む。

 距離は約二百メデルト。

 しかし、一歩の距離が大きく、またたく間に距離が縮まっていく。


 マルディンたちはコル・アビリムから目線を外さない。

 目線を外した瞬間、コル・アビリムは襲いかかってくるからだ。

 これは獰猛なモンスターに共通する習性だった。


「キルス。コル・アビリムが突進を始めたら、シャルクナと左右に一旦避けろ。俺はティアーヌを運ぶ」

「運ぶ? どういうことだ?」

「空中からコル・アビリムの角を攻撃する」


 マルディンは悪魔の爪(ヴォル・ディル)を一度納剣した。


「なるほど。ティアーヌの悪魔の重撃(ヴォル・トール)か」

「そうだ、俺も同時に攻撃する」

「分かった。追撃は任せろ」

「頼んだぞ」


 元々拘束道具として開発した糸巻き(ラフィール)は、進化を遂げていた。

 対人間だと主に攻撃で使用するが、対モンスターでは移動で使用することが多い。

 そのため、人間よりも動きが早いモンスターと同等か、それ以上の速度で動くことができる。


 マルディンは糸巻き(ラフィール)に手を置き、巻き取り速度を調整するダイヤルを最高速に回した。


「もってくれよ……」


 呟きながら、マルディンは右手で左肩を擦った。

 最高速は肩と腕にかかる負担が非常に大きく、多用できない。

 だが、今はそんなことを言っていられる状況ではない。


「ティアーヌ!」

「はい!」


 マルディンがティアーヌの名を呼んだ。

 状況を察したティアーヌは、マルディンの右隣に立つ。


「大丈夫か?」

「はい、体重は増えてませんから!」

「そういうことじゃねーって。怖くないか聞いてるんだよ」

「怖くないと言ったら嘘になりますが、マルディンさんと一緒なので大丈夫です」


 マルディンはティアーヌの腰に右手を回した。


「ちっ、相変わらず余裕だな」

「ほら、来ますよ」


 コル・アビリムの右足が、砂地を激しく蹴る。

 いや、蹴ったなんてものではない。

 もはや爆発だ。

 水面に大岩を叩きつけたかのように、白い砂が周囲に飛び散った。


 それと同時に、キルスとシャルクナが左右に走る。

 マルディンは右手でティアーヌを抱きかかえ、糸巻き(ラフィール)の発射口をコル・アビリムの大角に定めた。


「グゴアァァ!」


 白い砂塵を巻き上げながら、一直線に突進するコル・アビリム。

 巨大な一本角が、マルディンたちを串刺しせんと迫りくる。


「歯、食いしばれ!」

「はい!」


 マルディンは大角に向かって糸巻き(ラフィール)を発射。

 即座に巻き取り、ティアーヌともどもコル・アビリムの頭上へ飛ぶ。


「マルディンさん! 行きます!」


 大角の根本の真上に差し掛かったところで、ティアーヌが叫んだ。

 両手で悪魔の重撃(ヴォル・トール)を構えている。


「頼んだぞ!」


 空中に浮いたマルディンは、右手でティアーヌの背中を押す。


 ティアーヌは大角に向かって落下しながら、悪魔の重撃(ヴォル・トール)を振り被った。

 落下速度に悪魔の重撃(ヴォル・トール)の打撃性能が加わる。


「っしょっおおおお!」


 大角の根本を直撃した悪魔の重撃(ヴォル・トール)

 空気が割れたかのような破裂音が鳴り響く。


「まだだ!」


 マルディンも即座に悪魔の爪(ヴォル・ディル)を抜き、大角に糸巻き(ラフィール)を発射し、すぐに巻き取る。

 ティアーヌが打ちつけた箇所に向かって、猛烈な速度で剣を振り下ろした。


 糸巻き(ラフィール)の巻き取り速度は、落下速度を遥かに上回る。

 さらにマルディンの剣術と、悪魔の爪(ヴォル・ディル)の性能が加わる。

 斬れないものなどないと言わんばかりに、甲高い衝突音が発生。

 同時に、マルディンは右腕に確かな手応えを感じていた。


「どうだ!」


 砂地に着地したマルディンは、コル・アビリムの頭部に視線を向ける。


「グゴアァァ」


 短い咆哮を上げ、マルディンたちを睨みつけるコル・アビリム。

 生暖かい呼吸を感じるほどの近さだ。


「き、効いてないのか」


 コル・アビリムが、顔の周りを飛ぶ腐羽蠅(モルファ)を払うかのように、大きく首を回す。


「ティアーヌ!」


 大角を振り回すコル・アビリム。

 マルディンたちを薙ぎ払うつもりだ。


 直撃したら大怪我では済まない。

 最悪死ぬ。


 マルディンは咄嗟にティアーヌに飛びつき、そのまま地面に飛び込んだ。

 マルディンたちの頭をかすめながら、大角が音を立てて通り過ぎる。

 少しでも遅れていたら、大角の直撃を受けていただろう。

 二人はすぐに立ち上がった。


「くそっ! 効いてないだと!」

「マルディンさん、もう一回やりま」


 ティアーヌが言いかけた瞬間、周囲の空気が震え始めた。


「ぐああああああ!」

「きゃああああああ!」


 大角を振動させたコル・アビリム。

 耳栓をしていても、大きな衝撃を受ける二人。


「ぐおおおおおお!」


 マルディンは無理やりティアーヌを抱え、コル・アビリムの尻尾に向かって糸巻き(ラフィール)を発射した。

 少しでも離れるためだ。


 尻尾の棘に(フィル)を絡め、即座に巻き取る。

 その勢いでコル・アビリムの眼前から離脱に成功。


 空中に身体を投げ出したマルディンは、ティアーヌを両腕でしっかり抱えたまま砂地に滑り落ちた。

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