ロザリアという姉御
ターケシは倒れた三人を見下ろした。
「そういうことなら…」
顎へ手を当て、少し考える。
「まずは証拠隠滅のために、こいつらから焼くか……。」
「はい。」
ロザリアが反射的にレイピアを構え魔力を集め…
だが、その途中で動きが止まった。
「……え?」
「本当に焼くんですの?」
ターケシは真顔のままだ。
「証拠は残さない方がいい。」
黒蛇の三人は一斉に飛び起きた。
「や、やめろ!」
「俺たちは何も言わねぇ!」
「助けてくれぇ!」
その様子を見ていたシフォンが、小さく首を振る。
「ご主人様。」
「それは、やめましょう。」
「ん?」
シフォンは腕の中のフウを見下ろした。
「フウのエサにするなら、別ですけど。」
「ぐぅ?」
突然名前を呼ばれた子オーガが、きょとんと首を傾げる。
黒蛇の三人は真っ青になった。
「食われるのか!?」
「オ、オーガじゃねぇか!」
「いやだぁぁぁ!」
ロザリアは額へ手を当てて深いため息をつく。
「シフォン……。」
「そこは止めるところですわ。」
フィリアも肩を震わせた。
「どちらにしても駄目です。」
ターケシはニヤリと笑う。
「冗談だ。」
「安心しろ。」
黒蛇の三人はその場へへたり込む。
「じょ、冗談……?」
「寿命が縮んだ……。」
ターケシは笑みを消し、三人を見下ろす。
「じゃあ、今度は本題だ。」
「アジトはどこだ?」
三人は顔を見合わせた。
言えば組織にいられなくなるが、言わなくても焼き殺される。
黒蛇の男は震えながら答えた。
「み、南の運河沿いだ!」
「倉庫街の外れ……!」
「赤い扉の倉庫だ!」
「もう勘弁してくれ!」
ターケシは小さく頷く。
「よし。」
「弱者が強者に勝つ基本の一つ。」
職人たちが固唾を呑む。
「奇襲による先制攻撃だ。」
「こっちから行くぞ。」
職人たちが一斉に目を丸くする。
「……え?」
「今からですか!?」
「いや、待ってください!」
「相手は黒蛇ですよ!」
ターケシは真顔で答える。
「だから?」
「アジトが分かったんだ。」
「だから叩く。やられる前にな。」
シフォンが頷く。
「はい。」
フィリアも静かに弓を担ぐ。
「賛成です。」
ロザリアは深いため息をつく。
「結局、そうなりますのね。」
ターケシは何でもないことのように振り返る。
「ロザリア。」
「はい。」
「焼きに行くぞ。」
「やっぱり私ですのね…」
「得意だろ。」
「そうですけれど!」
職人街に、ようやく笑い声が戻った。
親方は拳を握ったままターケシたちを見送る。
「……あの人たち。」
「本当に行く気だ。」
若い弟子が呟く。
「親方。」
「もしかして……。」
親方はゆっくり頷いた。
「ああ。」
「ようやく風向きが変わるかもしれねぇ。」
◇
ターケシは赤い扉の前に立った。
「ここか。」
シフォンが鼻をふんふんと鳴らす。
「間違いありません。」
フィリアも静かに頷いた。
「私の知る黒蛇の拠点とも一致します。」
フィリア、意外とこういう裏社会には詳しいんだな、とターケシは思った。奴隷時代、ああいう連中に使われていたんだろうか。落ち着いたら聞いてみよう。
ターケシは建物全体を見渡す。
「このアジト…他の店も入っている雑居ビルだったりするか?」
フィリアは一瞬ターケシを見るが、赤い扉の倉庫に目を戻して答える。
「『ザッキョビル』という言葉は分かりませんが…おっしゃりたい意味は分かりましたよ。」
「この建物を使っているのは黒蛇、もしくは黒蛇と繋がりのある裏社会の者だけです。」
「出入りしている第三者がいたとしても、気になさらずともよいかと。」
「よし。」
ターケシは腕を組んだまま指示する。
「シフォン。」
「扉を剥がせ。」
「はい!」
シフォンはフウをターケシへ差し出す。
「でもフウを落とさないで抱っこしててくださいね、ご主人様。」
「任せろ。」
ターケシは慣れた手つきでフウを抱える。
「ぐぅ!」
大好きなお姉ちゃんから離されて子オーガは不機嫌そうな声をあげた。
シフォンは両手を赤い扉へ掛け、
ぎし……
べきっ!!
蝶番ごと扉を建物から引き剥がす。
倉庫の中が見える。
酒を飲んでいた禿頭の男が、突然なくなった入口を見て目を丸くする。
「……あ?」
ターケシと目が合った。
ターケシは軽く手を挙げた。
「ロザリア。」
「待たせたな。」
「焼け。」
「はいはい……。」
気のない返事。
しかし、その指先へ集まる魔力だけは凶暴だった。
轟っ!!
圧縮された火球が一直線に倉庫へ飛び込む。
次の瞬間――
ドォォォンッ!!
赤い扉の倉庫が内側から爆ぜた。




