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奴隷市場から始まる異世界冒険譚―第一部王都編  作者: たーけし
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槌音に巣くう黒い蛇

転がされた男は怒鳴りながら剣を抜いた。

「殺――」

最後まで言えなかった。

ごっ。

ターケシの拳が男の顎を正確に打ち抜く。

男の体が一回転し、そのまま石畳へ転がった。

白目をむく。

動かない。

「なっ!?」

残る二人が慌てて剣を抜く。

右。

左。

同時に斬りかかろうとしてくる。

ターケシは一歩だけ前へ出た。

右の剣をかわす。

左の剣を盾で弾く。

そのまま体を入れ、

どん。

肘が右の男の鳩尾へ沈む。

「げぇっ!」

男は胃の中身を吐きそうな顔をして崩れ落ちた。

残る一人。

「ひっ……。」

思わず後ずさる。

「来ないのか?」

ターケシが首を傾げる。

男は叫びながら突っ込んできた。

「うわあああ!」

がっ。

ターケシは手首を掴む。

軽くひねる。

「ぎゃああ!」

剣が宙を舞う。

続いて足払い。

どさり。

そのまま男をうつ伏せに押さえ込み、

背中へ膝を乗せた。

「終わりだ。」

男は情けない悲鳴を上げる。

「ま、参りました!」

……

静まり返る職人街。

シフォンがぽつりと言う。

「……弱いですね。」

ロザリアも苦笑した。

「よくこれで威張れましたわね。」

フィリアは倒れた三人を見下ろす。

「武器を持っただけの素人です。」

ここでようやく、

止まっていた金槌の音の代わりに、

ざわ……

という街の空気。

先ほどの親方の弟子が恐る恐る近寄ってくる。

そしてターケシへ深々と頭を下げる。

◇

倒れた三人を見下ろし、ターケシは首を傾げた。

「……で。」

「こいつら、何なんだ?」

一瞬。

職人街が水を打ったように静まり返る。

「……え?」

「知らねぇのか?」

「おいおい……。」

「あんた、旅の人か?」

「大丈夫なのか……。」

「えらいことになったぞ。」

あちこちからざわめきが広がる。

鍛冶師たちが顔を見合わせる。

革職人は額を押さえ、木工職人は思わず天を仰いだ。

「これで終わるわけがねぇ……。」

「黒蛇に手ぇ出しちまった……。」

「今夜にも報復が来るぞ。」

誰もターケシたちを責めてはいない。

むしろ助けてもらったことは分かっている。

だからこそ、これから起きることを思って青ざめていた。

その様子を見て、ターケシはますます不思議そうな顔になる。

「そんなに有名なのか?」

隣で、フィリアが小さくため息をついた。

「ご存じなかったんですね。」

「ん?」

「黒蛇。」

フィリアは倒れた男たちの胸に刺繍された黒い蛇の紋章へ目を向ける。

「ヤクザ紛いの集団です。」

「表向きは『職人街自警団』を名乗っていますが。」

ロザリアが眉をひそめた。

「王宮はこれを黙認していますの?」

フィリアは静かに首を横へ振る。

「犯罪と言える証拠が揃いません。」

「自分たちでは手を汚さない、裏で糸を引く者がいます。貴族にも。」

ロザリアが悔しそうに唇を噛む。

ターケシは腕を組み、倒れた三人を見下ろした。

「なるほど。」

「つまり、ただのチンピラじゃなくて犯罪組織だったわけか。」

「ええ。」

フィリアは頷く。

「そして……。」

フィリアは倒れた男たちを見つめる。

「今、私たちは、その組織に喧嘩を売りました。」

一瞬の沈黙。

ターケシは頬をぽりぽりとかいた。

「……フィリア。」

「はい。」

「詳しく聞かせてくれ。」

職人街にいた全員が、ずるっと力が抜けた。

「今さらですか!」

「あんた、本当に知らなかったのか!」

あちこちから一斉に突っ込みが飛ぶ。

ロザリアは額へ手を当ててため息をついた。

「ご自分で喧嘩を売っておいて……。」

シフォンも困ったように笑う。

「ご主人様らしいです。」

フィリアは小さく苦笑しながら説明を続ける。

「黒蛇。」

「表向きは『職人街自警団』を名乗り、警備料や協力金という名目で職人たちから金品を取り立てています。」

「逆らえば工房への放火、商品の強奪、職人への暴行……。」

「近年、この街に寄生しています。」

ターケシは腕を組み、ふむ、と頷いた。

「なるほど。」

「思ったより面倒だった。」

「ええ。」

フィリアも静かに頷く。

「ですが。」

「放っておけば、もっと面倒になりますね。」

反応を面白がるようにターケシを見た。

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