新たな戦いの始まりと違和感
ドォォォンッ!!
赤い扉の倉庫が爆炎に包まれた。
「えっ!?」
シフォンが思わず目を丸くする。
「ご、ご主人様!」
「本当に燃やしちゃったんですか!?」
ターケシは首を傾げた。
「だから言っただろ、焼けって。」
「でも……。」
シフォンは炎の向こうを見つめる。
「中に、人がいました。」
「でも悪い人だろ?」
「そ、それはそうですけど……。」
ロザリアが肩をすくめた。
「安心なさい。」
「音と見た目は派手にしましたけれど、威力は抑えてありますわ。」
「花火みたいなものです。」
「さすがに爆殺なんてしたら、私まで殺人犯ですもの。」
ターケシは思わず振り返った。
「……そうなのか?」
ロザリアは目を丸くする。
「まさか…本気で、何人も爆殺させるおつもりでしたの?」
「いや、敵だし。」
「敵だし、じゃありません!」
「だからって最初から建物ごと吹き飛ばす人がありますの!?」
ターケシは少し考える。
「駄目だったか?」
「駄目ですわ!」
そこへフィリアが静かに口を挟んだ。
「お二人とも。」
「痴話喧嘩の最中申し訳ありませんが。」
「奇襲するなら今です。」
「……突入しましょう。」
「お、おう。」
ターケシはフウを抱え直し、倉庫へ駆け込む。
「ち、ち、痴話喧嘩なんかじゃ……。」
ロザリアの頬が、炎よりも赤く染まった。
◇
「どうしますか!」
突入したシフォンはもう戦闘態勢に入っている。
ターケシは周囲を見回した。
「すまん。」
「爆破するところまでしか考えてなかった。本当に。」
一瞬、場が止まる。
フィリアが冷静に告げる。
「シフォン、ロザリア。」
「ここにいるのは全員悪人です。」
「とりあえず片っ端からぶん殴って制圧してください。」
「はいっ!」
シフォンは一番近くの男の胸ぐらを掴む。
ゴッ!!
容赦ない頭突きが男の顔面にめり込み、そのまま床へ沈んだ。
「なっ……!」
無法者たちが息を呑む。
一方ロザリアは、
「ち、ち、痴話喧嘩なんかじゃありませんからね!!」
真っ赤な顔のままレイピアを閃かせる。
刃物を抜こうとした男の手首。
駆け寄る男の膝。
足首。
一突きごとに武器が床へ転がった。
「ぎゃっ!」
「手がっ!」
「足がぁ!」
その場の全員が転がるまで、時間はかからなかった。
◇
ややあって、
うおおおぉ!
外から剣やこん棒や縄を持った男たちが入ってくる。
敵の増援か?と思ったが様子が違う。
職人街の男たちだった。
転がっていた黒蛇の構成員たちは、次々に縛られていった。
「ここで黙って見てたら職人の名折れだ!
「兄ちゃんと嬢ちゃん三人が命張ってんだ!」
「俺たち職人が金槌しか振れねぇと思うなよ!」
「おら! 縄持ってこい!」
「逃がすんじゃねぇぞ!」
転がっていた黒蛇の構成員たちは、縄で次々と縛り上げられていく。
ターケシはその光景を見て、小さく息を吐いた。
「……終わったか。」
「いいえ。」
フィリアが静かに首を振る。
「 ここにいるのは、末端ばかり。彼らを問い詰めても、脅迫と暴行以外の罪状はでないでしょう。幹部には逃げられました。」
「……ずいぶん詳しいな。」
フィリアの表情が一瞬強張った気がした。
だが、すぐにいつもの静かな顔へ戻る。
「……ここからが、本当の始まりです。」
フィリアの取り繕うような言葉に職人達が続く。
「おうともさ!」
「本物の悪党がまだ残ってるってんなら、なおさらだ!」
「黙って縮こまってりゃ、何も変わらねぇ。」
「兄ちゃんたちが最初の一歩を踏み出してくれた。」
「だったら次は俺たちがこの街を取り戻す番だ!」
ターケシはフィリアの横顔をちらりと盗み見る。
いつもの顔だ。
さっきの一瞬の表情はなんだったのだろうか。
しかし別の職人の声に思考は途切れた。
「 俺たちは兄ちゃん達に感謝してる。黙っていたら何も変わらねぇ。戦ってこそ漢だ。それを思い出させてくれた。」
髪も髭も三つ編みに編み込んだ、岩のような体格の男が一歩前へ出た。
「俺の名はオルフェン。街を代表して礼を言わせてくれ。」




