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生者の招かれざる場所

「……ここに来て魔物か。」

ターケシは倒れたゾンビを見下ろした。

「しかもスケルトンじゃない。ゾンビだ。」

調査隊の面々が黙って耳を傾ける。

「スケルトンは白骨に死霊術を施したものだが、ゾンビは比較的新しい死体に魔力を流し込んで動かしている。」

ターケシは周囲の岩肌へ視線を巡らせた。

「普通なら墓地や戦場で現れる。新しい死体がある場所だからな。」

少し間を置く。

「だが、ここは違う。」

「墓には見えません……。」

ロザリアが小さく呟く。

「ああ。」

ターケシは静かに頷いた。

「つまり誰かが死体をここまで運び込んだか、外で操ってこの洞窟へ入り込ませたことになる。」

場の空気が一気に重くなる。

「不穏極まりない話だ。」

ターケシは剣を握り直した。

「何かを隠したいのか。」

「あるいは俺たちをここへ誘い込んでいるのか。」

「どちらにしても――」

ターケシは洞窟の奥を見据える。

「この先に、何かある可能性が高い。」

その時だった。

洞窟のさらに奥。

闇の向こうで、ぼんやりと紫色の光が揺らめいた。

まるで誰かを誘うように。

シフォンの灰色の耳がぴくりと震える。

「……ご主人様。」

フィリアも細く目を細める。

「魔力です。かなり濃い……。」

ロザリアは無意識にレイピアの柄へ手を添えた。

ターケシは紫色の光を真っ直ぐ見据える。

「いかにも何かある、という感じだな。」

小さく息を吐く。

「行きたくなくても、行かざるを得ない。」

剣を構え、一歩踏み出す。

「シフォン。」

「はい!」

「ロザリア。」

「ええ。」

「フィリア。」

「了解。」

「――行くぞ。」

四人は紫色の光へ向かって、静かに歩き始めた。

慎重に足を運ぶ。

出会い頭の襲撃だけは避けなければならない。

一歩。

また一歩。

やがて洞窟は途切れた。

その先に広がっていたのは、巨大な円形の空間。

「……広い。」

地上の祭祀場よりさらに広い。

自然洞窟ではない。

壁も床も滑らかに削られ、人の手で造られた神殿のような広間だった。

空間全体を、薄紫色の魔力が霧のように満たしている。

その中心。

石造りの祭壇。

そこに、一冊の黒い本が静かに置かれていた。

見覚えがある。

「死霊術の本……。」

フィリアが低く呟く。

「鎮魂の書です。」

紫色の魔力は、その本を中心に脈打つように広がっていた。

ターケシは静かに頷く。

「罠かもしれん。」

誰も返事をしない。

「だが、広場の中央に置くのは理にかなっている。」

床に刻まれた古い紋様を見渡す。

「魔力は円形に集まり、また放たれる。」

「ここは祭壇であり、魔法陣でもあるということだ。」

剣を構え直す。

「眺めていても仕方ない。」

振り返る。

「おれが行く。」

「持ち帰ったら、フィリアと司祭で鎮魂を頼む。」

フィリアは静かに頷いた。

「……承知しました。」

ターケシは広間へ踏み出す。

一歩。

二歩。

三歩――

その瞬間。

「止まれ。」

空気そのものが震えた。

しわがれた老人のような声。

しかし洞窟全体から響くようによく通る。

「止まれ、定命の者よ。」

紫色の光が揺らぐ。

「去ね。」

声が重なる。

「貴様ら生者の来る場所ではない。」

祭壇の周囲から黒い靄が立ち上る。

ターケシは足を止めることなく答えた。

「大人しく渡してくれれば、それで済む。」

剣先を祭壇へ向ける。

「その書を、訳あってもらい受ける。」

わずかな沈黙。

ターケシは小さく肩をすくめた。

「スケルトンやゾンビ退治は、もう飽きたんだ。」

「そろそろ――」

剣を構える。

「元凶と話をしようじゃないか。」

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