地下の戦い
リディアに見送られ、一行は穴の奥へと進んだ。
先頭はシフォンとフィリア。
シフォンが匂いと足跡を追い、フィリアが弓を構えて前方の闇を警戒する。
中央にはエドガーたち調査隊とロザリア。
そして最後尾を、ターケシが守った。
洞窟は、以前潜った廃坑道よりも広い。天井も高く、壁面には人工的に削られた跡が残っている。湿った空気が肌にまとわりつくが、気温は低く、吐く息がわずかに白んだ。
「足跡を探せ」
ターケシは低く言った。
「スケルトンの群れが自然発生したんじゃないなら、最近ここに入った奴がいるはずだ」
シフォンが鼻をふんふんと動かしながら、地面に目を凝らす。
フィリアはその横で、黙って弓を構えたまま進む。
しばらくして。
「……ありました!」
シフォンの耳がぴんと立った。
彼女は膝をつき、湿った土の上に残るかすかな窪みを指差す。
「足跡です。匂いは……人間と……それから……」
そこで一度、眉をひそめた。
「スケルトン、だと思います」
エドガーが息を呑む。
「骨に匂いが残るのか?」
「普通は、あまり。でも……これは、土と古い墓と、腐った魔力みたいな匂いがします」
ターケシは足跡を見下ろした。
人間の足跡。
そして、その周囲に残る、細く硬いものが地面を擦ったような跡。
「有力な手がかりだ」
ターケシは剣の柄に手を置いた。
「足跡と匂いを辿ろう。だが急ぐな。相手がいるなら、向こうもここを知っている」
シフォンが小さく頷く。
フィリアが静かに矢を番えた。
洞窟の奥から、湿った風が吹いてきた。
まるで、何かが一行を待っているようだった。
◇
「……何かが、近いです。」
シフォンが立ち止まり、鼻をふんふんと動かした。
「スケルトンか?」
「いえ……もっと匂いが強いです。腐った肉と……魔力の匂いが混ざっています。」
ターケシは周囲を見回した。
洞窟は静まり返っている。
「どこだ。」
「……ここです!」
シフォンが足元を指差す。
その瞬間。
ターケシは迷わず剣を地面へ深々と突き立てた。
ボコッ。
地面が大きく膨れ上がる。
まるで土の中で何か巨大な虫が暴れているようだった。
やがて泥をかき分け、一対の腐った腕が姿を現す。
続いて肩、胴体、顔。
皮膚は黒ずみ、ところどころ骨が覗き、濁った体液が滴っている。
「ひっ……!」
シフォンが息を呑む。
ロザリアも調査隊の騎士たちも思わず一歩後ずさった。
「落ち着け。」
ターケシは静かに言う。
「ゾンビだ。スケルトンと同じだ。死体に魔力を流し込んで動かしているだけの魔物だ。」
腐乱死体が低いうめき声を上げながら立ち上がろうとする。
その前に。
剣が一閃した。
腐った首が宙を舞い、胴体が崩れ落ちる。
「頭を落とすのが一番早い。」
その言葉を合図にしたかのように――
ボコッ。ボコッ。ボコッ。
前方。
側壁。
足元。
至るところで土と岩が盛り上がる。
腐乱死体が次々と姿を現した。
「ロザリア!」
「はい!」
レイピアを掲げたロザリアの足元に魔法陣が広がる。
「水よ――奔れ!」
幾筋もの激しい水流が洞窟内を駆け抜けた。
腐った肉を引き裂き、立ち上がったばかりのゾンビたちを次々と壁へ叩きつける。
腕が飛び、胴が砕け、動きを止める。
「残った奴を仕留める!」
ターケシが駆け出す。
「シフォン! フィリア!」
「はい!」
「了解。」
シフォンは低く潜り込み、二本のダガーで首筋を断つ。
フィリアは矢を放ち、頭蓋を正確に射抜く。
「私も加勢する!」
エドガーが剣を抜き、側方から迫るゾンビへ踏み込んだ。
一体。
二体。
冷静な剣筋で首を断ち、動きを止める。
ターケシは小さく笑う。
「やるじゃないか。」
短い戦闘は、ほどなく終わった。
洞窟には再び静寂が戻る。
散乱する腐乱死体を前に、司祭マティアスが静かに聖印を掲げた。
「安らかな眠りを。」
鎮魂の祈りが、洞窟に静かに響く。
ターケシも剣を納め、亡骸へ向かって静かに頭を垂れた。
「……俺も祈ろう。」
誰も好きで、こんな姿になったわけではない。
洞窟を吹き抜ける冷たい風だけが、その祈りに応えるように静かに流れていった。




