最初の自己紹介
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「そう言えば、名前を聞いていなかった。
軽く自己紹介してくれるか。おれはターケシ…」
と言って、続かない。
「えーと。Dランクの冒険者だ。いろいろあって今に至る。Cランクの依頼を受けたい。仲間がいる。君たちを買った。以上だ。」
獣人の少女は、きょとんとした顔でターケシを見つめた。ぴんと立った耳がかわいらしい。
金髪の少女は露骨に眉をひそめる。
エルフの少女は無表情に目を細めた。
「……以上ですの?」
金髪の少女に問われる。
「以上だ」
「自己紹介というものは、もう少し自分のことを話すものではなくて?」
「話すほどのこともない」
ターケシがそう答えると、金髪の少女は呆れたようにため息をついた。
「名前も最後まで言えておりませんでしたわよ」
「ああ」
ターケシは少し考える。
考えて。
考えて。
「ターケシだ」
「今考えましたわよね?」
「気のせいだ」
明らかに気のせいではなかった。
エルフの少女の口元が動く。笑ったのだろうか。
獣人の少女は不思議そうに耳を揺らしていた。
だが、ターケシの言葉に嘘が邪念はないことだけは伝わったらしい。
取り繕う気もない。
格好をつける気もない。
ただ事実だけを並べている。
そんな印象だった。
しばらくして、獣人の少女がおずおずと手を上げた。
「あ、あの……」
「ん?」
「わ、私はシフォンといいます」
ぺこりと頭を下げる。
灰色の耳も一緒に垂れた。
「灰狼族です。年は十五です」
そこで少し言葉に詰まる。
「……奴隷になったのは、八歳くらいでした」
食堂に少しだけ沈黙が落ちた。
シフォンは慌てて続ける。
「あ、あの! 特技は掃除と洗濯です! 料理も少しできます!」
まるで品定めされる商品のような言い方だった。
長い奴隷生活で身についた癖なのだろう。
ターケシは何も言わない。
ただ頷いた。
「そうか」
それだけだった。
だがシフォンは、なぜか少しだけほっとしたように笑った。
次に金髪の少女が咳払いをし、口元に手をやって話す。
「では、わたくしですわね」
背筋を伸ばす。
どこか誇り高い仕草だった。
「ロザリア・フォン・ハリントン」
名乗った瞬間、空気が少し変わる。
本人もそれを察したらしい。
一瞬だけ目を伏せた。
「……元、ですけれど」
ターケシは黙って聞く。
「年は十八。ハリントン家の次女でしたわ」
"でした"
その言葉に込められたものは重い。
「剣術と魔法を少々。礼儀作法も一応できますわ」
そこでターケシを見る。
「奴隷として振る舞えと言われれば従いますが、媚びるつもりはありません」
「別に言わない」
即答だった。
ロザリアが少しだけ目を丸くする。
そしてそっぽを向いた。
「……そうですの」
最後にエルフの少女が話す。
「…フィリアです」
短い名乗りだった。
「…見ての通りエルフです」
「年齢は?」
「…女性に聞くことではありませんね」
ターケシは納得した。
「そうか」
「…納得するのですか」
「聞かれたくないんだろ」
「…ええ。そういうことにしておいてください」
だが、その瞳の奥には何かを隠している気配がある。
ターケシは気付いたが、追及はしなかった。
まだ昨日会ったばかりだ。
話したくなれば向こうから話すだろう。
話したくなければ話さない。
それでいい。
三人の自己紹介が終わった。
ターケシはカップに残っていたスープを飲み干す。
「よし」
「何がよしですの?」
「名前が分かった」
「今さらですわね」
「今さらだな」
誰も反論できなかった。
ターケシは立ち上がる。
「飯を食ったら冒険者ギルドに行く」
三人が顔を上げる。
「仲間登録をする」
シフォンの耳がぴくりと動く。
ロザリアの表情がわずかに変わる。
フィリアは静かにターケシを見る。
ターケシは続けた。
「勘違いするな」
三人が黙る。
「俺は君たちを買った」
食堂の空気が張り詰める。
「だが、依頼の間は仲間として扱う」
ターケシは三人を順番に見た。
「働いてもらう。飯も食ってもらう。風呂にも入ってもらう」
そして肩をすくめる。
「死なれると困るからな」
あまりにも不器用な言い方だった。
だが。
シフォンは少しだけ笑った。
ロザリアは呆れたように目を細める。
フィリアは無表情のままだ。
三人とも思った。
――この人は、たぶん悪い主人ではない。
だが、
今まで出会ったどの主人よりも、変な人ではあるのだろう、と。




