再探索
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野営地へ戻ると、誰もが深いため息をついた。
水を飲み、煤を払い、ようやく全員が腰を下ろす。
エドガーは全員の顔を見渡した。
「まずは負傷者の確認を。」
幸い、重傷者はいない。
ロザリアの魔法とターケシたちの奮戦のおかげだった。
しばらく沈黙が流れる。
その静けさを破ったのはターケシだった。
「調査を続けるかどうかは、皆さんで決めてください。」
「俺から言えるのは一つだけです。」
全員が視線を向ける。
「地下に、スケルトンを生み出した原因が隠れている可能性があります。」
「放置すれば、また同じことが起きるかもしれません。」
それだけ言うと、ターケシは口を閉じた。
判断は自分の仕事ではない。
その姿勢だった。
すると技師ミリアが立ち上がる。
「……すみませんでした。」
肩を落とし、小さく頭を下げる。
「私が壁に触らなければ……。」
ターケシは首を横に振る。
「気にするな。」
「遅かれ早かれ、誰かが起動させていた。」
「だからロザリアには、魔力を温存してもらっていた。」
ロザリアも小さく頷く。
「あの一撃は、そのためでしたの。」
技師ミリアは少しだけ表情を緩めた。
今度はマティアス司祭が口を開く。
「……私は、正直申し上げて動揺しました。」
神官の拳が静かに握られる。
「しかし。」
「死者をこのような形で弄ぶ者がいるのであれば、見過ごすことはできません。」
「地下を調べるべきだと考えます。」
学者ベネディクトも静かに続ける。
「同感です。」
「霊廟は歴史そのものです。」
「それが何者かに利用されているのであれば、学者として看過できません。」
赤髪の女騎士リディアは腕を組んだ。
「私が懸念しているのは一つ。」
「全員の安全です。」
ターケシたちを見る。
「……もっとも。」
「あなた方の働きは、私の予想をはるかに超えていました。」
「護衛としては、十分信頼できます。」
再び沈黙。
全員の視線がエドガーへ集まる。
彼は眼鏡を外しかけ、すぐに手を止めた。
(私は、何度も王宮を空けるわけにはいかない。)
(だが……。)
(このまま引けば、真実は闇に埋もれる。)
彼はゆっくり顔を上げた。
「……調査を続行します。」
「マティアス司祭、ベネディクト殿の意見に私も賛成です。」
そしてターケシを見る。
「ターケシ殿。」
「護衛及び戦闘に関する現場判断は、あなたに一任します。」
ターケシは静かに頷いた。
「了解しました。」
その一言で、役割は明確になった。
学者は真実を探す。
神官は魂を弔う。
騎士は人々を守る。
そして冒険者は、誰よりも危険な最前線を切り開く。
◇
九人は野営地で装備を整え直し、改めて霊廟へ向かった。
入口には、焼け焦げたスケルトンの骨が黒く散らばっている。
内部にはまだ焦げた匂いが残っていたが、昨夜までの不気味な気配は消えていた。
エドガーが全員を見渡す。
「探索を再開します。」
「最も怪しいのは、スケルトンが大量発生した祭祀場です。」
「ですが、まずは地上部分の安全を完全に確認しましょう。」
誰も異論はなかった。
ターケシも頷く。
「見落としがあるかもしれません。」
「一つずつ潰していきましょう。」
隊列は前回と同じ。
先頭はシフォン。
灰色の耳をぴんと立て、鼻を小さくふんふんと鳴らしながら慎重に歩く。
その後ろをターケシ。
さらにロザリア、フィリア。
調査隊が続いた。
回廊を隅々まで調べる。
壁を叩く。
床を確認する。
柱の継ぎ目を測る。
しかし、不自然な箇所は見つからない。
広間も同様だった。
石畳は整然と敷き詰められ、壁にも柱にも新しい加工の痕跡はない。
「掘り返された形跡もありません。」
技師ミリアが床へ膝をつきながら報告する。
学者ベネディクトも頷いた。
「少なくとも、この階は建造当時の姿を保っています。」
残るは、最奥部の祭祀場。
九人は再び円形の祭祀場へ足を踏み入れた。
静まり返った空間。
中央には古びた祭壇。
床を丹念に調べていた技師ミリアが、小さく声を上げる。
「……あれ?」
全員が視線を向ける。
祭祀場の中央。
石畳の一枚、その縁だけが、ほんのわずかに浮いていた。
紙一枚ほどの隙間。
注意して見なければ気づかないほどだった。
「ここだけ……違います。」
ターケシはしゃがみ込む。
剣を鞘から抜き、切っ先をその隙間へ差し込んだ。
「少し持ち上げます。」
ぐっ、と力を込める。
重い石が軋む音を立てた。
ギギギ……
石畳がゆっくりと持ち上がる。
その下から現れたのは――
闇だった。
底の見えない深い穴。
ひんやりとした空気が吹き上がり、地下の冷気が頬を撫でる。
シフォンの耳がぴくりと震える。
鼻を小さくふんふんと鳴らしたあと、小さく呟いた。
「……風。」
フィリアも穴の縁へ歩み寄る。
「地下に空間があります。」
学者ベネディクトは息を呑む。
「こんな地下構造は……記録にありません。」
誰も言葉を発しない。
静寂の中、闇だけがぽっかりと口を開けていた。
九人はようやく理解した。
本当の霊廟は、まだ始まってすらいなかった。




